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待ち侘びた日

失敗して3話を先にだしてましたーー

俺は長年の夢を叶える為に、アロマに付き添われギルドを訪れた。

この時の為だけに、住人達から薬物中毒(ジャンキー)と仇名されても耐えてきた。

今日を最後に、俺は生まれ変われる可能性に賭けているのだ。




「ハリアこの先は大丈夫?、一人で無理なら……」


「いや、ヤバイ階段は過ぎたからもう大丈夫だよ」


階段で転倒すれば、それだけで致命的な大怪我を負うのを彼女は知っている。

それだけに、平らな場所でも複雑骨折に成ってしまう俺の体を、彼女は心配そうに見詰めてくる。


アロマは父親の友人の娘で、俺とは幼馴染になる。

取分け誰もが振り返る様な美人では無いけど、可愛い顔つきにセミロングの美しい黒髪がよく似合い、スタイルだって決して捨てたもんじゃない。

偶に、体を支えられる時に胸元辺りに視線が行くとドキリとしてしまう。


俺なんかに手を焼かされなければ、男達から持てていても不思議じゃないほど。

だけどアロマは、俺を見捨てないでずっと傍に居てくれた。


  俺が病魔を克服できたら、きっとアロマにも……



「アロマも用事あるんじゃないのか?」


「うん、そうだけどぉ。やっぱハリアが心配だわ」


冷たい視線を投げてくる住民たちの中で、彼女の家族だけは昔から本当に親切にしてくれてきた。特にアロマの父親は、俺の父と友人だったせいで後見人を引き受けて、俺が両親から残して貰った財産をずっと管理して守ってくれて来た。


俺はこの家族に返し切れないほどの恩がある。

それをこれから返していく為にも、今日の儀式は絶対に避けて通れない物になる。

願わくば、俺の病魔を克服できる物が与えられる事を祈っている。


「では……、これで私は行くけど。結果はどうあれ、絶対に私の家に来るのよ! ハリア分かった?」


「うん、分かってるよ」


彼女は俺から離れて階段を降りた所で一度止り、俺に手を振った後にセミロングの髪を(ひるがえ)して走って行った。






俺がギルドで能力を付与される事を知ったのは、まだ十歳くらいの頃だ

アロマの父親から聞かされてから、ずっと俺の中の希望の灯火となった。

そして遂に今日、長年待ち侘びた日がやってきたのだ。


俺は、逸る心を抑えながらギルドの受付カウンターへと足をゆっくりと運んだ。


  こんな処で転倒して、怪我でもしたらアロマ達に申し訳がない


「すいません、冒険者の登録をしたいのですが?」


「はいっ! ではここへ貴方…………、あんたの名前を記入する。良い?」



受付カウンターの中で後ろ向きに仕事をしていた女性が、冒険者登録をしに来た者の声で勢い良く振り返り申し込みの手続きの説明に入り掛けた途端に、声を変え態度を急変させる。

この受付穣も、俺の素性を知っていた。

いや、この街で『薬物中毒(ジャンキー)』の通り名はそこそこ有名に成ってしまった。


「記入した?、終ったらあっちの待合室で待機よ」


受付嬢は見た目が美女なだけに、キツイ物言いは結構答える。

が、今日だけは笑って済ませる余裕が何故か生まれていた。


  俺がアンタに何したって言うんだよ!

  みてろぉ、能力(スキル)貰ったら絶対見返してやるからなっ


なんて事を、腹の中で綺麗な受付嬢に文句を言い放つ程度の物では在ったけど。

まあ、今日は俺にとっては大切な日であり怒るのはよそうと決めていた。





何時もならそこそこの人数が待合室にはいる筈なのだが。

珍しく部屋の中には人が二人ほどしか居なかった。


  もしかして、これは良い能力(スキル)が来るかも?


何の根拠も無い気楽な発想が頭に浮かんでいたが。

人数が多いほど、無難な能力(スキル)が与えられるという統計もある。

だけどまあ、最終的にはその人の『運次第』なのは間違い無い。




「では、次の方どうぞ! ハリア……さん!」


「はい」


早々と俺の順番が廻ってくる。

ゆっくりと案内人の位置に歩いて行くと、俺をチラリと見て小声で呟いた。

彼はこう言ったのだ。


 『ちっ、薬物中毒(ジャンキー)のクセに!』



だが、今日はだけは怒らない。

まあなんだ、怒った所で俺に何かができる訳でないのだが。

それでも、今日だけは怒りたくはなかった。




祭壇の前にいるギルドの司祭の元へ歩み寄っていった。

今日の司祭はもこのギルドでは最高齢の人で、一番経験の長い司祭だ。


 うん、やはり運が良いかも知れない


俺はそう感じて司祭の顔を見上げる。


「ふむ、君は……例の『虚弱体質』の者だね?」


街の中でかなりの噂になっている為に、ギルドの司祭が俺の素性を知っていても何ら不思議ではないが、やはりこの人も、(さげす)んだ目で見ているのかと思うと、良い気分はしない物だ。

そう思っていたが、この司祭は違っていた。


「ふむ、能力(スキル)の付与は平等に与えられる物だよ。君の今がどうであれ、良い能力(スキル)が与えられる可能性は、大いにあるのだから心配する必要は何も無いからね」


「はい、お願いします」


俺は司祭の意外な優しさに、少しだけ目頭が熱くなるのを覚えた。

そして俺が、魔法陣の中に入り目を瞑ると背中に『鑑定書』が張られた。

儀式が終るとこの『鑑定書』に能力(スキル)と説明の文字が現れるのだ。


「では、これより冒険者ハリアの『能力(スキル)の洗礼』を 執り行う!」



儀式が始まり司祭は、聞いた事の無い言語の呪文を唱え始め。

目を瞑っている俺には見えないが、魔法陣が音を立て光を放ち始める。

天から俺の身体に光が舞い降りて、身体が宙に浮いた様な錯覚を覚えた。


   背中熱っ!


そう感じている今、背中に貼られている『鑑定書』に文字が刻まれている証拠だ。

背中の熱いのが収まると、司祭が声を掛けてきた。


「ハリア君、目を開けて良いぞ!」


俺は言われる通りに目を開けた後。


「司祭様、俺の能力(スキル)は何ですかっ?」


後ろに控えている案内人に司祭が支持を出した。


「『鑑定書』を読んで上げなさい」


「はい」


案内人は俺の背中から『鑑定書』を剥いで司祭と俺の横に立った。


「では、ハリア殿の『能力(スキル)』を宣告します」


いよいよこの時が来たのだ。

俺が生まれ変わる為の『能力(スキル)』は、一体何が付与されたのだろう。

俺が、今か今かと待っているのに、一向に付与された名称を口に出さない案内人は、見ると腕をブルブルと震わせて顔は今にも吹き出しそうな表情をしていた。


「どうした?、早く読んで上げなさい」


「か、彼の『能力(スキル)』ですが、ぶ、ぶぅっ『薬物依存』にぶはははは、なります! あはははは」



 いや俺の仇名じゃなくて、能力(スキル)なんだけど?



笑い転げる案内人から、『鑑定書』を取上げた司祭は自分でそれに目を通して、俺を傍へと呼び寄せた。


「ふむ。ハリア君の能力(スキル)だが、『薬物依存』に間違い無い」



「俺が……、長年待ち望んだ能力(スキル)が『薬物依存』?」


全身から一気に力が消え失せた俺は、司祭に身体を支えられて命拾いをした。

その耳には、何時までも収まり見せない案内人の笑い声がこびり付いた。


  はは、俺の人生て一体なんなんだ?



ありがとうございました

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