~私たちの普通じゃない試合~
12歳の少女が13歳の少女を描いた、友情小説。ぜひ見てください。
プロローグ
こんにちは☆私、斉藤由香。福沢市立四葉中学校に通う中学一年生なんだ。
私の通う四葉中学校には、いろいろな部活があったり、でもごく普通の中学校なの。
だけどね、少し違うところがあるんだ。それは、持久走部があること。
マラソン部でもないし陸上部でもないし、そう。持久走部。
1,放課後の練習にて
キーンコーンカーンコーン。
チャイムだ。やっと授業が終わったよ。私は、みんなのざわめきが聞こえるか聞こえないかのときに急いで教室を出た。絶対あいつより早く来てやる。そう思っていたのに、もう来てた。
あいつとは、隣のクラスの植田千里のこと。
私は、中学校に入ってすぐ、このへんてこな名前の持久走部に入った。なぜかって、
小さいころから、マラソン選手になることが私の夢だったから。
それに比べ千里は、後から入ってきたのに私より速い。
千里の走りは、いつもおとなしい性格とは真逆で、まるで、リズミカルに草原を駆け抜ける野ウサギみたい。・・・それがいつも悔しかった。
先輩たちも千里の実力を認めていていつも「植田さんを参考にしなさい。」て言ってる。
私だって頑張ってるのに。だから今日こそは絶対に抜かしてやる!気合を入れて準備体操に取り掛かることにしよう。
2,下駄箱にて
・・・今日も抜かせなかった。あと少しだったのに。なんで、あの時抜かすことができなかったのかなぁ。帰る準備をしながら、今日の練習を振り返るけどやっぱりわからない。
疑問に支配されながら下駄箱で靴を履いていると、
「由香ちゃーん!どうしたの?」と同じく靴を履いていた千里に話しかけられた。
「別に」
「今日の練習疲れたね。でも、由香ちゃんどうかしたの?いつもよりペースが遅かった気がする。」
って、何よ自分が少し速いからって・・・。
「だから何でもないって言ってるでしょ!」
「ゆ…由香ちゃん?」
飛び出してきちゃった。しかも千里の泣きそうな声も聞こえたし・・・はぁー。
今日ってなんてついてないんだろう。とりあえず帰んなきゃ。
「あれぇ?由香ちゃんじゃないの。あらま大きくなったねぇ。どうしたんだいそんな浮かない顔して。」
途中で、隣のおばさんに合ってたけどひきつった顔しかできなかった。
「あっ。おばさん。いいえなんでもないです。さようなら。」
3,絶対負ける
キーンコーンカーンコーン…今日も放課後は、練習。だけど、昨日のこともあってかやる気が起きない。でも、こんなんじゃだめだよね。心の中じゃわかってるんだけど。
「集合!」
高島コーチの声が聞こえた。
何だろう。高島コーチがこんな風にみんなを集めるだなんて珍しいなぁ。
「今日は大切なお知らせがある。」
と、コーチは前置きしてから始めた。
「今度の上ガ丘中学校との大会で代表選手を決めることになったんだ。そこで、今度の
水曜日にオーディションを行う。決定人数は、各学年一人ずつだ。」・・・!
そんな!それじゃあ千里になるにきまってる!
なんで突然そんなこと言いだしたの!?いつもは、ちがうじゃない!
しかもよりよって、ものすごく大きな試合。
「コーチ!ど、どうして各学年一人ずつなんですか!」
「どうした斉藤。それは向こうの学校との人数合わせに決まってるだろう。大丈夫だよ。」
「・・・そうですか。すみません。」
うっ。慰められちゃった。
「ということで、みんながんばれよ!」
どうしよう…。
「どうしたの?由香ちゃん。しょんぼりしちゃって。ほら練習しよ!」
この声は!顔をあけると、カッコイイジャージ姿の笹崎先輩がいた。
「笹崎先輩…。ありがとうございます!」
「そうそうその顔が由香ちゃんには一番よ。がんばろうね。」
「はい!」
先輩の今日の服装は、青い持久走部のジャージの上下に髪はショートでボーイッシュに整えてる。
笹崎先輩は私が落ち込んでるとき、いつも励ましてくれる優しい先輩なの。
それでね、ここ持久走部のキャプテンなんだ。
よぉし。がんばるぞー!
4,特訓の日々
「ほら!由香ちゃんどうした!あと一キロだぞ!頑張れ頑張れ。」
「はい!先輩!」
今、私は笹崎先輩と朝練をしているの。憧れの笹崎先輩と一緒に練習だなんて!
今度のオーディションのために笹崎先輩とは、こんな風に日曜日の朝練習することになったんだ♪
「今日の練習終わり!っと。由香ちゃん、最近調子どう?」
「はい。笹崎先輩。最近の調子は、ペースとかもよくなって、良いといえばいいんですけど…。」
何て言えばいいのかな?あんまり弱いところを先輩に見せたくない。
「けど?」
訊かれちゃった。相談…してみようかな?
「けど、千里にはなぜか絶対勝てなくて。」
そっと、先輩の顔を見てみた。困った顔してる!どうしよう。やっぱ言わなきゃよかった。
けど、先輩の口から出た言葉は、想像してたのと違った。
「由香ちゃん。みんなと切磋琢磨してていいと思うよ。でもね、相手と自分を比べすぎちゃダメ。もっと自分のいいところも探さなくちゃ。じゃないとどこを直さなくちゃいけないかわからないよ。でも、自分じゃわからない時もあるよね…。私もあるよ。そうい
うとき。」
「えっ!先輩も!?」
これは驚いた。
「ええ。そう。そういう時はみんなあるのよ。覚えておいてね。
由香ちゃんのいいところは、明るいところ。だーかーら、いいところを自分から捨てちゃダメでしょ。ほら、前向いてこ!未来は明るいよー!」
―先輩私のことそんな風に思っててくれてたんだ…!
「はい!ありがとうございます。私、精いっぱい頑張ります!」
「そうそうその調子。じゃあね。また明日!」
「さようなら。」
私の気分は自然と明るかった。うふふ。思わずスキップになっちゃいそう!
「由香ちゃん!やっぱりちょっと待って!」・・・?
「どうしたんですか?先輩。」
おっとと。急いで足を止めたら、転びそうになっちゃった。
先輩の前で、恥ずかしい恥ずかしい。
「大丈夫!?あっ、でね、もう一つ由香ちゃんのいいところ見つけた!それはね、『やるときはやる』ところ。
がんばってね。応援してるから!」
「はい!」
私は、今度こそ本気でスキップをして帰ったのだった。今となってはチョー子供っぽいんですけどー!
5,脅迫文
私は、昨日とは打って変わって、明るい気分で学校に着いた。けど、何か学校の様子が
変だ。
「ねえ、由紀。どうしたの?」
由紀っていうのは、私のクラスメイトなんだけど・・・。
「由香。あのね。誰でも言わないでよ。私しか知らないんだから。」
そう!由紀はクラス一の情報屋なの!
「なになに?」
「絶対に言わないでよ。あのね、学校宛てに脅迫文が届いたの。」
へ―そうなんだ…えっ!今何て言ったのよ由紀。
まるで『通販の品が届いたの』って感じじゃない。危うく聞き流すところだった。
「脅迫文!?」
「しー!内容はね、『今週の土曜日、お宅の学校の植田千里を誘拐しに参上します。
以後、お見知りおきを。なお、警察に報告した場合には安全は保障いたしませんよ』って!私怖くなっちゃった。どうしよう!」
・・・!千里が!?
って、どうしようのわりにに楽しそうなのはなぜ。
「ねえ。今度の土曜日って上ガ丘中とのレースの日じゃない!」
「えっ?そうなの?それより今は脅迫文問題よ!スクープスクープ!」
―また始まっちゃったよ。由紀のスクープ宣言。
「何ぼやっとしてるのよ。さっさとスクープ拾いに行くわよ!」
「えっ!私も?」
なんでー!?まぁ、千里のことが書いてあったんだから、気になるけど。
「当り前じゃない!」
私はこうして引きずられながらついていくしかないのであった。あーあ。
6,運命の日
あれから、私と由紀はいろんな人から話を聞いて回った。もう何日もやっているけど収穫はなし。情報屋の由紀の力でもこんなに情報のじの字も見つからないだなんて!絶対無理に決まってるじゃない!
「ほら何ぼやぼやしてんのよ。早く今日も行くよー。」
もう!昨日からぼやぼやぼやぼやうるさーい!
・・・だけど今日はこのスクープのお誘いも断らなきゃならない日なんだから!
「ねえ由紀。今日ねとうとう持久走部のオーディションの日なの。」
「えっ?そうだったけ?なーんだ今日は一人で情報集めか―。頑張ってね。」
って!ちょっとは見に行くねとかはないのー?まあ由紀にそれを求めても仕方ないか。
「じゃあ行ってきまーす!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「位置についてよーいどん!」
いよいよ始まった。まずは、千里のペースをうかがいながら自分のペースで走って、
そのあとできるだけ追いつくようにしなきゃ!
よし!だんだん千里の背中が近づいてきた。残り五百メートルこれで追い抜けば!
と思った矢先、私の体は一回転回ったような気がして、何があったかわからないまま私の意識は薄くなったのであった・・・。
「うっ…うーん。」何だろう体中が痛い。
「あ!やっと気が付いた?」
「あ。笹崎先輩。」
私は体を起こそうとした。けれどうまくいかない。
「無理しないで。由香ちゃんだいぶひどかったんだから。」
「先輩、私は一体…。あ!ところでオーディションは!」
「まずは落ち着いて。最初から話すから。さすがね。すぐ、オーディションのこと思い出すなんて。まずここは保健室。あのね、由香ちゃんはねスピード上げた時に転んじゃったの。地面に石があってね、それにつまづいたみたい。
で、命に別状はないんだけど、オーディションの結果は、千里ちゃんになったわ。残念だけどしょうがないこと。あまり気を落とさないでね。」
先輩は、そっと言ってくれたみたいだけど私のショックは大きい。
・・・!そんな!
そのあと私はどれくらいだろう?わからないけどしばらくの間泣いていた気がする。
7,本番の日から事件へ
今日は朝から憂鬱だ。オーディションの日からずっとこの調子。ため息も思わず多くなる。あーあ。
「千里―!もう朝よ。そろそろ起きなさい!レース、千夏ちゃんの活躍観れないわよ~。」
あん!もう!今はそれで落ち込んでるのに~。わかってないんだから。
あんだこんだあって、家から飛び出して上が丘中学校に着いた。
「あ!由香ちゃん!大丈夫だった?」
「あっ千里。別に。頑張ってね。」
「行ってきます。」
本当は頑張ってだなんて悔しくて、悔しくて言いたくなかったけど。
私は、千里の背中が見えなくなるまでずっとずっとにらんでた。
千里の姿が見えなくなった瞬間
「キャー!」
ん?何だろうあの悲鳴?
私の顔が、驚きの表情に変わった途端、次の一言で顔は引きつってしまった。
「スクープよ!スクープ!ほら、由香早く―!」
げげ。
「どうしたの?由紀?」
「私だって無駄に情報収集してたわけじゃないのよ!あのあと、いろいろ調べたら、千里ちゃんがこの大会に出ることを知って、ほら由香みたいに千里が代表になることが嫌だった子もいるわけでしょう?だからあの脅迫文はこの大会に関係があると思って、この大会に来ていたのよ!今の悲鳴は多分千里ちゃんの声よ。ほらぼやぼやしないで追いかける!」
「え、え、え、えー!」
私は半分引きずられるようにしてあとを追いかけたのであった。
私ったら、不幸―!
8,追跡
「あれよ」
由紀がそう言って指をさしたのは一台の小さな車だった。
「証拠は?」
「女のカンよ!」
何それ!と思ったけど、由紀の自信満々の顔を見ているうちにやるしかないと思えてきた。
「さあ。追いかけるぞ!」
「由香!そのいきよそのいき‼」
けれども私たちのようなただの中学一年生が、車に追いつけるはずがないよね。
ドテッ!由紀が転んだ!
「大丈夫!?」
「私のことは置いてっていいからスクープを追いかけて!」
あの、これは誘拐事件で会ってスクープじゃないです。
まぁいっか。
「わかった。絶対追いついて見せるから!」
『タッタッタッ』静かな道路に私と車の音が響く。
でも、車はどんどん遠ざかり、角を曲がってしまう。でも、このままじゃだめだ!
走る走る由香が走る。走る走る斉藤由香が走る!
「スッスッハッハッスッスッ」これは、持久走用の特殊な呼吸法だ。
どんどんスピードを上げていくとパッと周りから色が消えた。やばい…。
オーバーペースだ。どんどん足が重くなる。
―それはね、『やるときはやる』ところ
笹崎先輩の声が聞こえた気がした。ほろほろと緊張の糸がほぐれる気がする。
そういえば前、緊張感も必要だけどリラックスしては知んなきゃ早くなれないって、言われたっけな。
そのとき景色に色が戻り、足取りが軽くなった。
「よーし!」
私はぐんぐんスピードを上げ、とうとう車を追い詰めた!
どれどれ?車は、四角い灰色の家のようなものに入っていくよう。
少し入るのには躊躇してたけど、もしかたら、千里がいるかもしれない!荒い息を整えながら入っていった。
9,衝撃の犯人から解決へ
中に入ってみるとそこは意外と狭い。どうやら、車庫みたい。
なんか話し声が聞こえる。
「何するんですか。はなしてください!」
・・・!
千里の声だ!私は思わず駆け寄った。そして思わず叫ぶ。
「その子を離しなさい!」
「だ…誰!」
その人は心底びっくりしたようだった。でも誰だろう。私の知ってる人ではないみたい。
その人は、見た目は三十代後半。髪を下した女の人だ。
「あなたは一体だれなの…?」
私は、いまにも消え入りそうな声できいた。
「私は、上が丘小学校に通ってる娘の母親よ」
なんで神ガ丘中のお母さんが千里を?疑問をそのまま言ってみた。
「なんであなたが千里を?」
と聞いた直後
「こんなことにはならないはずだったのに!」
と、一発怒鳴った途端、その女の人は糸が切れたように座り込んでしまった。
その人も、相当緊張していたんだろうな。
「一体あなたに何があったんですか?」
「あなたなんかには分かりっこないでしょうけど、話すわ。」
ずいぶん偉そうね。そんなことにはお構いなしに、女の人はこう話を続けた。
「あのね、うちの子も今日の大会のオーディションに出たの。でも、ライバルに負けてしまったの。だからね。今日の大会をどうしても中止にしたかったの。でも雨は降らないし、うちの子の学校の子を誘拐したらすぐばれるわ。だからそっちの子を誘拐したの。身勝手な話でしょ。」
自分で身勝手って言ってるけど、全く持ってその通り。
・・・なんて身勝手なの!サイテー!
「すごく身勝手な人ね!その子を返して!」
私は感情を爆発させた。・・・なんだけど
「あの、そんなに怒鳴らないであげてください。」
と、か細い声が聞こえたと同時に同い年くらいの女の子が出てきた。
「その人の娘です。お母さんは全部私のためにやってしまったんです。すみません。」
あっけにとられてる私にお構いなく、
「ねえお母さん。こんなことはしちゃいけないよ!こういう勝負は自分との戦い。正々堂々それでいい。」
と言い放った!・・・細い体しといて、なかなかかっこいいじゃん
「若菜…。お母さんごめん!」
そして親子は抱きついた。私はただそれを優しい目で見ていた。
こうして、事件は解決した。
10、親子の家からの帰り道はなかなおり
「由香ちゃん。本当にありがとう。由香こそ、今日の大会に向いてるんじゃないかな。」
と、少し口ごもりながら千里が言った。
「ううん。もうそれは、勝負で決まったの。正々堂々それでいいよ。」
その時通った道の名前は、「仲直り坂」
<続く>