第二章 朝が来るまで 四
どれだけ長く感じたことだろうか。
草木も眠る丑三つ時といえども、新選組は眠らなかった。
夏の熱さがじわりと身体を熱しながらも、血の匂いも運んで。
生け捕りにされた者らは縄で縛られて、見張りをつけられて。時折殴る蹴るなどされている。
それを見かねて、転がる屍から幽霊が出るわけでもなかった。ただ、淡々と時は過ぎてゆき。
ようやくに夜が明け、旭日が京を照らした。
そこで屯所への帰還が告げられて。
誠と大書された旗を誇らしげに掲げて、隊列を組んで、屯所へと向かう。
生け捕りにした不逞浪士も引っ張って。
警備の武士たちも隊列を組んでそれぞれの拠点に帰り。新選組も同じく、壬生の屯所へと帰る。
「狼どもが、人を食うたんや」
京の人々は恐怖をにじませながら、新選組を眺めた。
皆戦闘でついた己の血や返り血で真っ赤になって。人でも食ったのかと思わせるものがあった。
「どうせあぶれもんの浪人ばっかりやと思うとったのに。おそろしいこっちゃで」
人々の発する恐れを感じ取るも、それもまたよし。
刀を持つ者が、なめられたらいけない。恐れられてなんぼである。
土方は「ふっ」と不敵な笑みを浮かべ、近藤は得意になって大股で歩き。沖田は時々咳をしながらも隊列の中に身を置いて皆とともに歩く。
勘吾もまた、得意であった。
「やったのう」
同志と得意になってあれこれと語り合いたかったが、行進中の私語は厳禁。皆、しかめっ面をしていた。その不愛想さがなおさらに、
「こいつら、斬り合いで勝ったのに嬉しくないんか。おかしなやつらや」
「ほんまに頭がおかしいんや。人の心があるように見えん」
という風にも、恐れられた。
まさに、何とでも言えであった。
人々が語れば語るほどに、新選組は恐怖の代名詞になってゆく。
やがて屯所に着き。生け捕りにした俘虜は牢に押し込められて。隊士たちは中庭で整列させられて。
「此度の働き、まこと大儀であった。恩賞は、いずれお沙汰があろう!」
一段高い濡れ縁から、近藤が大声で隊士たちに語る。
それが終われば、解散。
それぞれ思い思いに身にまとったものを脱ぎ、たらいに満たした水で手拭いをぬらして汗と血のにじんだ身体を拭く。
身体をぬぐうたびに、終わったという実感がやっと出てきて。
たった一晩でのことなのに、季節がひとつ過ぎたような、なんだかやけに長く感じられた。