第二章 朝が来るまで 一
賊どもが何かをしでかそうとした。
それを抑えるために、新選組は以前から目をつけていたところへと向かった。一方は池田屋、一方は四国屋。
二手に分かれ、近藤率いる第一隊が池田屋へ向かい、第二隊は副長の土方歳三が率いて四国屋へ向かうもそこには賊はおらず。急いで池田屋に向かえば、そこで近藤らが派手なチャンバラを繰り広げていた。
騒ぎになれば、他の警備の武士たちも何事かと思ってやってくるわけだが。
(下手をすれば手柄を取られてしまうかもしれん)
少々せこいが、まず土方は他の警備の武士を「邪魔だ!」と追い払い。それが終わってから、池田屋に踏み込もうとした。
池田屋からは、賊の浪人どもが急ぎ駆けて逃走を図ろうとし。これらと斬り合い、捕らえて。
池田屋は、制圧された。
「ああ、くそ。狼どもめ!」
身軽さにかけては誰にも引けを取らぬ双藤六九郎は、土方の剣すらかわして夜の闇の中へ溶けるように消えていった。
だがほとんどのものが捕らえられ、あるいは斬られ。
松明をかざせば、どこかに死体があり、血が池をなしている有様であった。
だが新選組は池田屋に入り、そこから動かない。
「この暗がりだ。夜討ちもあるかもしれん」
土方が言えば、近藤も「それもそうだ」と、夜が明けるまで池田屋にこもることにした。
沖田はやや落ち着いたが、咳は止まらない。
「ああ、永倉君の言う通り、おれは阿呆だ」
そう、苦笑しきりであった。
沖田は大丈夫そうなので、勘吾は適当なところを見つけて、壁に背をもたれかけさせながら腰を下ろした。
明かりは少なく、薄闇の中に身を置き。万が一の事態に備えて、寝ることはできない。
やけに興奮している。それもそうだ、命のやり取りをしたのだ。
刀を振り回し、不逞浪士を斬り。
時刻は深夜になろうとしているが、池田屋周辺から人の気配が消えることはなかった。
殺気も消えなかった。
土方らの追い払った、他の警備の武士らが松明をかざして遠巻きに池田屋をながめながら、怪しい者を尋問し、あるいは斬り合い。。弥次馬どもがそれをまた遠巻きに眺めていた。
時折、刃と刃のぶつかり合う鋭い音が耳をつんざき、他の隊士もなかなか興奮が冷めない。
そんな中にあっても、
「褒美はいくらもらえるかのう」
と、早くも褒美のことを考えて。顔をにやつかせている者もあった。
それを見て勘吾は「ふっ」と少しおかしく感じて、それから徐々に気持ちが落ち着いていった。