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第九章 慎太郎暗殺 四

「おかしいにゃあ、十五日や思うちょったに。龍馬はどいた?」

「坂本先生は、無念にも亡くなりました」

「そうか。脳をやられた言よった。……焼きめしが食いたい」

「あ、待ってください、すぐこさえますきに」

 しばらくして焼きめしが運ばれてきて、人手を借りて上半身を起こし、人手を借りて焼きめしを食った。

 だが、うまく噛めないまま無理に飲もうとして喉が受け付けずに。吐き出してしまった。

 やむなく横になるが、口がぱくぱくしている。しかし、声は出ていない。

(おい勘吾、うどんもえいけんど、ゆず酢をかけた魚もうまいぞ。いっぺん食うてみい。……そういやあ、龍馬が、うどんとゆずは合うか? と言いよったが、存外合うかもしれんにゃあ)

 目の前に広がる山谷の風景。谷間を川が流れて、子供のころに飛び降りた巨石の崖がそびえ立つ。

 場面変わり、慎太郎生家の中。いろりを囲んで、皆でゆず酢をかけた鮎に舌鼓を打っている。

 妻が盆をおいて、お椀を皆に配る。椀の中は、刻んだゆずの皮をつゆに入れたうどんだった。

「おう、ゆずとうどんは合うのう」

 そう言って喜んですするのは、蟻通勘吾であった。かすかにぴりっと突くようなゆずの酸味がつゆと合う。

「どうな。美味いろう」

「美味い。これは、讃岐うどんへの果たし状や」

「それ食い終わったら、おれの果たし状も受けてくれ」

「おう、やられっぱなしで終われるか」

「ふん。何度でもやってやる」

「ごちそうさん。美味かったのう。では、やるか」

「よし、やるか」

 慎太郎は不敵な笑みを浮かべ、立ち上がった。 

「先生、中岡先生!」

 そんな声がどこからかするが。聞こえているのに、聞こえない。

 悲痛な声が慎太郎を呼ぶものの、返事はない。ぱくぱくしていた口の動きも止まった。

 ついに、中岡慎太郎も龍馬を追うようにして、死んだ。

 大志を抱いて東奔西走し、ついには大志を遂げたかと思われたが。幕末という時代の凶暴性とどまることを知らず、慎太郎と龍馬のふたりを呑みこんでしまった。

 犯人は誰かわからない。

「英雄に敵あり。敵なくば英雄にあらず」

 近江屋の暗殺事件は瞬く間に広がった。

 もちろん新選組も知っている。土方は敵ながら両名を評価し、先ほどの言葉をつぶやいた。

 勘吾は慎太郎が暗殺されたことを知り、気持ちがもやもやするのを禁じ得なかった。

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