第九章 慎太郎暗殺 三
すると、ふすまが突然開かれて。何事かと思えば、目をいからした数名の武士が刀を閃かせて襲い掛かってきた。
「曲者!」
慎太郎は後ろに置いていた愛刀を取ろうと後ろに振り向いたが、後頭部に強い衝撃を受けた。
刃が後頭部に直撃したのである。
「石川! 誠之助よ、刀はないか!」
「こなくそおー!」
誰かの絶叫がし、「うぐ」という龍馬の呻き声が聞こえた。
龍馬はとっさに慎太郎が使っていた偽名を呼んだが。
(いかん、ばれちょらあ!)
声は出せぬが、相手は自分たちを知っているようだ。
後頭部を叩き斬られ、慎太郎はその苦痛から体を動かせずうつ伏せで倒れて。そこへ容赦なく、何度も刃が叩きつけられる。
変にぬめりも覚えて、己の血がかなり飛び散り、池をなしていることも想像に難くなかった。
「もういいだろう」
そんな声がしたかと思えば、どたばたと階段を下りる足音がして。やがて何も聞こえなくなった。
意識はまだあるが、身体はよく動かない。鉛でも背負っているかのように重い。どうにかうつ伏せだったのを仰向けにして、龍馬の方へ顔を向ければ。
龍馬は額から血を噴き出しながら、いつの間に抜いたのか、愛刀を睨み付けて。
「無念」
と唸った。北辰一刀流免許皆伝の腕前ながら、愛刀を振るうことがなかったことが、今になって悔やまれた。
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」
「ええじゃないかが聞こえるが、幻聴ではないか?」
「なんちゃあ聞こえん」
「そうか、具合は?」
「脳をやられた。おれはもう、いかんろう」
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」
ええじゃないかの拍子がひっきりなしに聞こえる。それが幻聴かどうかもわからない。
「龍馬、おい、龍馬」
「えーじゃないかッ、えっじゃないかあ~」
「ええじゃないかはもうえい。龍馬、おい、龍馬! 聞こえんがか!」
力を振り絞って声を出したが、返事はなかった。
そんな慎太郎の意識も薄くなりつつあった。
(おれもこれまでか)
そう思えば、体が浮く感覚がして、
「しっかりしてください!」
という声が聞こえる。
「暗殺者どもは卑怯にも……、憎たらしい。じゃが、豪胆でたいしたもんだ」
何か雲に抱かれているような不思議な感覚がして、今はいつなのかと聞いてみれば。
「今日は十一月十七日です」
と返ってきた。




