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第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 十

 以来、どこかでええじゃないかが踊られる日々が続いた。

 何を思っての事か知らぬが、乱暴を働かなければ何もされないので、

「触らぬ神に祟りなしじゃ」

 と、下手に関わらないよう各自注意するにいたる。だが、民衆の踊る様の、なんと楽しそうなことか。

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」

「ううむ……」

 京づとめの武士たちは、その踊り狂う様に良くも悪くも心を打たれたのは否めない。そのうちのいくらかの武士の中には、

「ああ、もうたまらん! ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃあなあいかあ~!」

 と、あろうことか刀を投げ捨て踊る民衆の中に飛び込み。もろ手を挙げて一緒に珍妙なええじゃないか踊りにふける武士まで出る始末であった。

 民衆の、とにもかくにも楽しそうに踊る様が、緊張感を求められる武士たちには、非常にこたえていた。

 要領のよい者は、踊りを通じて女と知り合い、よろしくやれるほどに深い仲になる機会を得たりもあった。

 そんなこんなで、心根の弱い者は、もう武士の身分を捨ててもよいと踊りの中に飛び込むのであった。

 志を遂げるため、あとひと踏ん張りのところまで来て。慎太郎や龍馬をはじめとする土佐や薩長の者たちは踊りの中をかきわけながら京を駆け巡ったが。

 そんなこんなで、慎太郎らにとってこのええじゃないか踊りは巡回を避けるのに都合がよいものだった。

 熱狂する民衆の踊り。それを前に立ちすくむしかない京づとめの武士たち。その中には無論新選組もあった。

 慎太郎と同じ土佐の田中光顕なる者は、

「新選組は怖い、特に土方歳三は怖い。しかし、ええじゃないか踊りのおかげで逃げやすうなって、まっこと助かる」

 などと非常にありがたがっていたものだった。

 季節も変わっていった。

 夏の暑い盛りに始まった踊りは、秋に差し掛かろうとしてもやむ気配は見せず。連日連夜、人々は踊り続けた。

「よう飽きもせんと……」

 勘吾は忸怩たる思いを抱きながら踊りを眺めるしかなかった。

「飽きもせんとと言うなら、おれたちも同じだろうよ」

「それはどういう?」

 永倉は皮肉っぽく言う。

「黒船が来てから今まで、ずっと飽きもせんと刀を振り回していた。斬り合うか踊るか、それだけの違いよ」

「……」

 勘吾は何も言えなかった。

 よく飽きないものだ、という考えは土方も同じだったが。

「これが武力蜂起であれば、我らはひとたまりもない。よくぞ踊りでこらえてくれたと言うべきか」

 という意見を持って、近藤にもそれを言った。 

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