第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 九
慎太郎は重大な秘密を聞いた。
「ええじゃないかを考えたのは、おれだ」
龍馬は面白可笑しそうに言う。
「馬鹿な冗談を言うな」
何を言っているんだと真面目に取り合わなかったが、龍馬はいたって真面目であった。
龍馬と慎太郎は京でよく顔を合わせて、連携を密にした。薩長との連携もうまくゆき、海援隊と陸援隊という組織もつくり、志を果たすまであと数歩のところまで来ているという自負があった。
「協力者にも恵まれて、民衆を焚き付けたのよ」
「……なんのために?」
龍馬と慎太郎は、協力者提供の部屋で顔を合わせて、今後のことを話し合っていた。その時の告白であった。
(何を考えているのか、わからないと思っていたが。とりあえず、話を聞いてみるか)
馬鹿げたことをと、はねつけようと思ったが。話を続けさせた。
「民衆は我慢の限界に達している。このままでは、一揆や蜂起が起こり、混沌の具合は増す。そうなる前に、たまったものを抜かすために、なんぞ『はっちゃけられる』ものが必要だと思ったのだ」
「それが、ええじゃないかなのか?」
「そうだ。外に出て身体を動かし声を出して、陽気に踊れば、気も晴れて、武力に走ることもないだろうと思ってな」
「うむ、一理あるな」
山間部の育ちながら学問をおさめた慎太郎である。その理屈がわからぬでなかった。
(しかし、山と城下と育ちが違うことで、こうも学問の活かし方に違いが出るとはなあ)
龍馬は城下の富裕層の次男坊として生まれ育ち、悠々自適な人生を送れた。それは発想の自由さをも育んだ。対して慎太郎は、山間部で庄屋のつとめを果たすために実直な仕事ぶりを求められた。
「自由な男だなあんたは」
「自由というか。おれは何も背負うものなく生まれ育った。それに後ろめたいものを覚えている。だから、世のため人のために何ができるのかいつも考えている」
「なるほどねえ。自由なのに後ろめたいと思うのか」
少し、慎太郎はおかしさを感じる。
「まあ、何の気兼ねもなしに、気楽に踊れたらどれだけ楽しいことか。そんな世の中になってほしいもんやにゃあ」
「そうそう。おれも同感じゃ。ほんまやったら、その方がえいがよ。なんで世の中ってもんは、生きるがが難しいろうにゃあ」
それから、いかにしてええじゃないかの騒ぎを引き起こしたのか、という細かい話を聞いた。
それに加えて、龍馬は、協力者の六九郎という男は面白い奴だったという話もして。
その話はほんとうなのかと疑わしくも変に面白くて、実直ないごっそうである慎太郎にしては珍しく、腹を抱えて笑い転げ。
その笑い声の大きさに協力者が驚いて「どうかしましたか!?」と部屋に駆け込んだほどだった。




