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第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 七

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」

 京の街は踊り狂う民衆の波にもまれていた。

 もろ手を挙げ珍妙な振り付けで踊る民衆の間をかき分けかき分けしながら、歩く。時にはわざとどかない者もあったが、堪えて、方向を変えて歩く。

 見れば他の組織の武士の巡回する姿も見受けられた。

 得体の知れぬええじゃないかに不気味さを感じていても、閉じこもることは許されないのはどこも同じようだ。

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」

「刀を捨てろやええじゃないかあ~」

「武士の世終わりやええじゃないかー」

 近くに武士がいるというのにおかまいなく武士を揶揄する声が飛ぶ。

「おのれ」

 刀の柄に手をかけ、あるいはついに抜刀して斬りかかろうとする者もあった。しかし、

「やれるもんならやってみやがれええじゃないか」

 誰も刀を怖がらず、むしろその目つきに危うさが増し。やむなく鞘に納めて巡回を続けるしかない状態だった。

 だがそれでも、

「黙って聞いておればいい気になりおって!」

「ぬおお!?」

 ついに、堪えきれずに刀を振り回す武士が出てしまって。踊っていた民衆に斬りつけようとしたが。

「おんどりゃあ!」

 斬りかかった武士に対して、民衆は数にものを言わせてむらがり、刀をよけながら後ろから羽交い絞めにして、お返しにと殴る蹴るをした。

 武士も抵抗したのだが、いかんせん多勢に無勢、他の仲間も助けてやりたいがそれもままならず。

「わしは、武士だぞ!」

 そう叫んだところで意味もないことだった。

「武士がなんぼのもんじゃい!」

 ええじゃないかの喧騒に包まれて興奮しまくった民衆は、水を差すように斬りかかった武士に制裁をくわえて、誰も止められず。ついに、

「ゆ、許してくれ」

 武士は泣きを入れて許しを請うた。そこでようやく解放されて、恐怖と助かった安堵感からか、弾かれたようにどこかへと駆けて、姿を消した。

「ざまあみろ!」

 と、吐き捨て、民衆は改めて踊りをやり直した。

 他の武士は茫然としながら、己に災厄が降りかかる前に、自組織の屯所へ逃げ帰るしかなかった。

「蜂起じゃ、これはもう完全な民衆蜂起じゃ!」

 武士の間から武力による鎮圧を望む声があがるのも当然であった。

 喧騒の中を永倉と歩きながら、勘吾も何とも言えぬ気持にならざるを得なかった。

 それで、ふと、見覚えのある顔が視界に飛び込んだ。

「おう、おめえはいつぞやの讃岐もんじゃねえか!」

 なんとそれは、わざわざ向こうから声をかけてきた。

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