第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 六
「それは承知の上だ。外の様子をうかがえばこそ、お前たちに頼むのだ」
「他に頼める者がおらんと」
「……率直に言って、そうだ」
「なまじな者では頼りなく。かと言って、万一を思えばまことの者にも頼みづらく……」
「言ってくれるな」
土方は永倉の反抗的な態度に苦笑するしかなかった。
「局長の肩を持つおれにも不満があるようだな」
「率直に言って、そうです」
永倉は、出世しゆくとともに傲慢さを抑えきれぬ近藤に不満を持っていた。土方もその意をくみつつ、自制を促していた。
勘吾も色々思うことはあるが、それを抑えて日々のつとめに励もうと自身に言い聞かせていた。
「不満があるのはよくわかっている。特別の手当を支給しよう」
「金の問題じゃないんですがね」
「永倉さん」
さすがに勘吾もやばいと思って、永倉の自制を求める視線を送った。
「だが、今はそれどころではないな。ええじゃないかだなんだと踊る民衆が気になるのは確かだ。出よう」
「すまぬな」
土方は安堵の面持ちでふたりを見送った。
鉢金を巻き、だんだらの羽織をまとい。腰の愛刀の重みを味わいながら。出ようとすれば、門のところに近藤がいた。
「いやあ、悪いな。ひとつたのむわ」
気さくに声をかけてくる。近藤も近藤なりに気を使っているようだ。永倉もつとめて落ち着いて頭を下げた。
「逆らう者は虎徹の餌食にしてやりたいが、局長たる者、畜生の振る舞いはいかんと止められてのう」
愛想よく笑い愛嬌がありそうな近藤だったが、その目の奥に、
「おれは幕臣、新選組局長・近藤勇だ。どうだ、すごいだろう」
と、威張りん坊の虫がうごめいているのを永倉は見逃さなかった。勘吾にも見えた。それは複雑な気持ちにさせられるものだった。
(あのとき一緒に池田屋で戦った『仲間』だったんだが……)
いつしか厳しい規律とは別の、おかしな部分での上下関係が幅を利かせるようになっていた。
「おれは新選組局長だからな。端武者の振る舞いは許されんのだ」
と、近藤は二人に言った。
(武士が斬り合いを避けてどうする)
永倉は近藤のそういところに不満があった。
門が開かれた。永倉と勘吾は近藤に会釈し、外に出る。
ええじゃないかの喧騒はすでにあたりを包んでいた。門が開かれれば、その向こうにええじゃないかの世界が広がっていた。
永倉と勘吾は意を決し、一歩踏み出した。




