第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 五
その喧騒が狂騒へと変貌してゆくのに時間はかからなかった。
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」
夜になって一部の馬鹿を除いて、一旦落ち着いたと思われていたが。旭日が昇るとともに民衆はまたも踊り狂った。
一体何が民衆を突き動かすのであろうか。
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ。今年は世直しええじゃないか!」
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ。時代は変わるぞ、ええじゃないか!」
「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ。刀も折れたよ、ええじゃないか!」
少し身体の具合も持ち直した沖田は、ええじゃないかの喧騒を静かに聞き入っていた。
「おれたちは散々ッぱら刀を振り回してきたが。その報いが、これか」
自嘲めいたつぶやきだった。
「ううむ、腹立たしい。治安の維持もしてやったではないか」
近藤は局長室にまで飛び込む喧騒に太い眉をしかめて呻いた。屯所の門は閉ざされている。勘吾や永倉ら巡回に行って帰れなかった者は、夜中に帰ってきてはいたが。
外の様子を見て、巡回をどうしようか決めかねていた。
近藤はこの民衆のなめた態度がどうにも我慢ならないと言う。
「確かに芹沢鴨のおったときゃあ、あれだったが。成敗してから粗相せんようになったじゃないか。それを、なんだ」
「民衆にとっては、刀をちらつかせているだけでも、十分腹立たしかったのでしょうな」
近藤を怒りを副長の土方が受け止める。
さてどうしたものかと考えたが。
「通常通り、巡回を出しましょう」
「なんだと。もしなにかあったらどうする」
「その時はその時ですが、武士の自覚を持ち、隙を見せねば、いかに踊り狂う民衆とて迂闊に手出しをせぬはずです」
「そんなものかのう」
「いずれにせよ、屯所に引き篭もったままではなめられます。これ以上なめられぬために、敢えて刀をちらつかせるのも手かと」
「ううむ。そうかもしれんなあ」
近藤は太い顎を指で軽く掻き掻きし、「しゃあないのう」とため息交じりに巡回を命じた。人選は土方に任せて。
部屋を出た土方は自室に戻り、人を遣って勘吾と永倉を呼んだ。
「お前たちに巡回を頼みたい」
「外の状況をわかって言ってるんですか?」
永倉は不満そうに言い、土方は苦笑する。
勘吾と言えば、素直に「はい」と言ってしまったものだったが。




