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第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 四

「刀を振るいすぎた、ということは。刀の安売りをしてしまった、ということでしょうか」

 中庭の濡れ縁に腰掛けて、出された水でのどを潤せば幾分気持ちも落ち着いて。勘吾はぽそっと、たずねるようにつぶやいた。

「……そうかもしれん」

 眉をひそめながらも、永倉は否定しなかった。

 世の中は騒然として争いは絶えず、刃閃き弾丸飛び交い。血の雨が降った。これで落ち着きを失わず、狂わない方がどうかしている。

 以前は少し刃をちらつかせれば、人々はおとなしくなったが。今日はどうだ。刀を見ても少しも怖じず、むしろ狂いっぷりがひどくなって暴力による報復も辞さなかった。

「やられたら、やり返すものだなあ」

 永倉はなにか悟ったように言い。勘吾も神妙になって頷いた。それだけ、ええじゃないかの喧騒は衝撃的であった。

 近藤も土方も沖田も、原田たち他の隊士も、ええじゃないかの喧騒に唖然とさせられていた。

「ええじゃないか、か。ええじゃないかって聞こえるたびに、何かが崩れてゆくようだよ」

 沖田は持病の労咳(肺結核)がひどくなって自室にて療養中だったが。部屋の中にもええじゃないかの喧騒が飛び込んできて。隠れるように掛布団の中にうずくまった。

「ええい、うるさいのう」

「局長、ここは我慢の一手しかありませぬぞ」

 近藤も土方も、様子をうかがうしかなかった。うるさいと刀を振り回したところで、逆になにをされるかわかったものではない。

「なめられたもんだな」

 原田は腹をさすりながら舌打ちした。

 新選組はこの「ええじゃないか」の前に、手も足も出なかった。

 その一方で、中岡慎太郎も京に来ていた。

「なんなこれ……」

 謹厳実直な土佐人こと「いごっそう」をそのままかたちにしたような慎太郎でさえ、この「ええじゃないか」には目を点にするしかなかった。

 京を見回りする幕府側の武士の姿も見えたが、皆踊り狂う民衆の前になすすべもなく、避けるしかなかった。

 これは慎太郎にとって都合のよいことではあるが、素直に喜べるものでもなかった。

「民衆は限界に達している」

 どうにも落ち着かない世の中である。そんな中で、民衆もよく耐えたと思ったが。ついにはこらえきれなくなったようだ。

「龍馬の言うたとおり、もう刀もピストルも通じん世の中になるかもしれんにゃあ……」

 ええじゃないかの響きの中に、武士への怨嗟が含まれていると思うのは、考えすぎだろうか。

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