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第八章 ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~ 三

 三人は周囲を見渡したが。

 ええじゃないかの声がいつしか四方八方からするようになり、それにともない、踊る人の数も一気に増えた。 

 ということは、踊りの群衆に取り囲まれる形になってしまった。

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~。壬生狼みぶろがなんぼのもんじゃい、ええじゃないか~」

 どさくさに紛れて、あからさまに新選組を侮蔑する言葉も飛び出す。壬生狼とは、かつて新選組の屯所が壬生にあり、狼のような乱暴者と蔑視されていたことに由来する。

「改めてそんな蔑称で呼ばれるとはな」

 永倉は勘吾の手首をつかんだまま歯ぎしりする。その力の入りようから、永倉も相当に屈辱を感じていたのは痛いほどわかった。

 しかし、ここで切れたところで、数に勝る民衆に何をされるかわかったものではない。

「こらえろ、犬死にすることはない」

 勘吾らに言っているようで、自分に言い聞かせてもいるようだ。

 もう一人は、もろ手をぶら下げなるだけ冷静であろうとつとめていたが、得体のしれない恐怖で身体が震えるのを禁じ得ず。ついに、

「わあああ!」

 限界に達したのか、隊士は抜刀して踊る民衆に斬りかかった。

「あ、馬鹿やめろ!」

 永倉は勘吾から離れ腕を伸ばしたが、遅かった。

 隊士はぶんぶんと刀を振り回し。驚いた民衆は踊りをやめ蜘蛛の子を散らすように逃げ出す、ということはなかった。

 一瞬崩れはしたものの、民衆は再び集まりだし、隊士を取り囲んで後ろから羽交い絞めにして。殴る蹴るの好き放題をはじめた。

「うわああ、きち○いじゃ、き○がいじゃあ~!」

(お前がきちが○や!)

 永倉に制せられて冷静さを取り戻した勘吾は、仲間を助けるために駆け出し。民衆の首根っこを掴んで隊士から引きはがす。

「いやじゃあ、死ぬのはいやああ!」

「阿呆、助けてやるんじゃ!」

 隊士は相当に恐慌をきたして、勘吾と永倉が分からぬ有様で。どこにそんな力があったのかと思うほどに駆け出して、どこかへと消え去ってしまった。

「ええじゃないか、ええじゃないか、ええじゃなあいかあ~」

 人々は逃げる隊士になど目もくれず、踊っていた。ただただ踊っていた。だがその目は――。

「ここは退くぞ!」

 狂喜乱舞する民衆のぎらつく視線に刺されながら、永倉と勘吾は歯噛みして最寄りの奉行所に駆け込んだ。

 奉行所でも武士らが緊張の面持ちで外の様子をうかがっていた。

「守りを固めよ。もう誰もいれるな!」

 永倉と勘吾が駆け込んだ後も、何人かの武士が駆け込んだが。轟きゆく「ええじゃないか」の声に怖じたか、奉行所のおさも半狂乱のていで、守りを固めさせていた。

 残念にも入れてもらえなかった者の「入れてくれ!」という恐怖の声がし、それから観念して他へ行きながら、「ああ、もう」という呻きがええじゃないかに交じって聞こえた。

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