第七章 制札事件 七
新選組は人は増えたには増えた。が、食い扶持目当てなどの、下心ある者も多数いるのは否めなかった。
「簡単にあきらめるな! あんな馬鹿長い刀を長い間振り回せるものか!」
檄を飛ばす原田。
土佐武士らの長太刀を見て、「なんじゃこりゃ」と驚きもしたが、それ以上に呆れもしていた。
事実、相手の動きは鈍りつつあった。長太刀は言うなれば長い鉄の塊であり、それなりに重量もある。ならば、それを扱う者は疲労するのが早い。
そう踏んでいたが、はたしてその通りになってきていた。
「もういかん」
藤崎は唸り、宮川をひと睨みすると。
「ここはおれが防ぐ! お前らは逃げえ!」
駆け足を止めてひとり、新選組の前に立ちはだかった。
「かっこつけやがって!」
叩き斬ってやると数名襲い掛かった。だが、藤崎の覚悟は本物であった。その一念は死力をぎりぎりまで絞り出したようで、不覚にも何人か餌食になって倒れた。
「すまん」
宮川たちは振り返らずに駆けた。と言いたかったが、勘吾は必死においすがって。その背中に飛びついた。
「うわあッ!」
たまらず宮川悲鳴を上げて、勘吾を背負った格好で倒れて。他の新選組隊士に刃を突きつけられて、素早く縄で縛りあげられた。
勘吾は素早く起き上がった。さっき無様なところを見せてしまったので、名誉挽回といったところか。気持ちも持ち直し、顔つきもよくなった。
他の土佐武士は逃げ去ろうとし、新選組が追った。
原田は藤崎の振るう長太刀を槍の穂先で弾くと同時に一旦引いて、心臓あたりに突き刺した。
「うおー! 兄者、いま行くぞ!」
こみあげる苦痛とともに己の最期を感じ取って。池田屋事件で死んだ兄に、天に向かって叫んだ。
原田の槍はうまく藤崎の心臓をとらえ、貫いた。
その槍を抜けば、藤崎はどおっと倒れ。ぴくりとも動かなかった。
残りの土佐武士の姿はすでになかったが。他の隊士たちが求めて駆けまわっていた。
とりあえず原田は近くにいた勘吾らを呼び寄せ。互いに得意な顔で頷き合った。
「もういいだろう。勝負あった」
そう言うと、言伝の者を残して最寄りの奉行所に向かった。捕らえた土佐武士を曳き、藤崎の屍を担いで。
――それから。
この事がよほど効いたのか、制札が抜かれることはなくなった。
会津侯(松平容保)はこれをことのほか喜ばれて、出張った隊士に多額の報奨金を与えた。
もちろん勘吾もいただいて。
何であれ褒美はやはり嬉しいもので、身も心もうきうきの、ほくほくであった。




