表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/64

第七章 制札事件 七

 新選組は人は増えたには増えた。が、食い扶持目当てなどの、下心ある者も多数いるのは否めなかった。

「簡単にあきらめるな! あんな馬鹿長い刀を長い間振り回せるものか!」

 檄を飛ばす原田。

 土佐武士らの長太刀を見て、「なんじゃこりゃ」と驚きもしたが、それ以上に呆れもしていた。

 事実、相手の動きは鈍りつつあった。長太刀は言うなれば長い鉄の塊であり、それなりに重量もある。ならば、それを扱う者は疲労するのが早い。

 そう踏んでいたが、はたしてその通りになってきていた。

「もういかん」

 藤崎は唸り、宮川をひと睨みすると。

「ここはおれが防ぐ! お前らは逃げえ!」

 駆け足を止めてひとり、新選組の前に立ちはだかった。

「かっこつけやがって!」

 叩き斬ってやると数名襲い掛かった。だが、藤崎の覚悟は本物であった。その一念は死力をぎりぎりまで絞り出したようで、不覚にも何人か餌食になって倒れた。

「すまん」

 宮川たちは振り返らずに駆けた。と言いたかったが、勘吾は必死においすがって。その背中に飛びついた。

「うわあッ!」

 たまらず宮川悲鳴を上げて、勘吾を背負った格好で倒れて。他の新選組隊士に刃を突きつけられて、素早く縄で縛りあげられた。

 勘吾は素早く起き上がった。さっき無様なところを見せてしまったので、名誉挽回といったところか。気持ちも持ち直し、顔つきもよくなった。

 他の土佐武士は逃げ去ろうとし、新選組が追った。

 原田は藤崎の振るう長太刀を槍の穂先で弾くと同時に一旦引いて、心臓あたりに突き刺した。

「うおー! 兄者、いま行くぞ!」

 こみあげる苦痛とともに己の最期を感じ取って。池田屋事件で死んだ兄に、天に向かって叫んだ。

 原田の槍はうまく藤崎の心臓をとらえ、貫いた。

 その槍を抜けば、藤崎はどおっと倒れ。ぴくりとも動かなかった。

 残りの土佐武士の姿はすでになかったが。他の隊士たちが求めて駆けまわっていた。

 とりあえず原田は近くにいた勘吾らを呼び寄せ。互いに得意な顔で頷き合った。

「もういいだろう。勝負あった」

 そう言うと、言伝ことづての者を残して最寄りの奉行所に向かった。捕らえた土佐武士を曳き、藤崎の屍を担いで。

 ――それから。

 この事がよほど効いたのか、制札が抜かれることはなくなった。

 会津侯(松平容保)はこれをことのほか喜ばれて、出張った隊士に多額の報奨金を与えた。

 もちろん勘吾もいただいて。

 何であれ褒美はやはり嬉しいもので、身も心もうきうきの、ほくほくであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ