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第七章 制札事件 五

 さすが原田は十番隊隊長をつとめるだけはあった。八振りの長太刀を前に攻めあぐねていたのが、突破口を見事つくりあげた。そこに勘吾は突っ込む。

「おれもやらな!」

 他の隊士も土佐武士目掛けて駆けるが、勘吾はそれよりも先んじようと前に進み出て。はっと閃くものあって愛刀を鞘に納めた。

 目の前には長太刀、刃の部分が目の前に迫る。他の仲間とともに倒すのではなく、自分ひとりで相手を仕留めるのだ。

 勘吾の手は、相手の太刀の柄を握る拳を掴んだ。

 手は手首にまわり、それをねじり上げれば。「いてえ」という呻きが聞こえ、長太刀が音を立てて落ち。

 足に蹴りを入れて、こかした。

 中岡慎太郎との戦いを経て、このやり方を閃いたのであった。

「お、おのれ兄の敵!」

「あん?」

「おれは池田屋で討たれた藤崎八郎の弟の藤崎吉五郎だ!」

「知るか!」

 倒れる藤崎吉五郎の手首をさらにひねり上げ。他の仲間が縄でしばろうとするが。抑えられてもじたばたと激しく抵抗した。

「逃げえ藤崎!」

 背中に殺気を感じ、咄嗟に手を放して伏せれば。頭上を長太刀が唸りをあげてくうを切ってゆく。

「すまぬ」

「ああ、しまった!」

 勘吾が長太刀をかわしたことで藤崎は身軽になり、己の長太刀をひっつかんで起き上がり、駆け出し逃走しようとする。

 だがその前にも隊士が立ちはだかる。

 数の上では新選組が圧倒的に多いのだ。

「畜生! 世直しという我ら郷士の悲願は……!」

 誰かが血を吐くように叫んだ。

 人の世に差別はあるもので、土佐の国にも例外なく差別があり。武士の身分にある差別、とりわけ、土佐太守の山内家に仕える上士と、その前の長宗我部氏に仕えていた生粋の土佐武士である郷士との間には、厳然たる身分差別があった。

 世が動乱し、土佐においては上士よりも郷士がよく動いた。

 土佐勤王党にも武市瑞山をはじめ郷士が多かった。彼らはなんのために戦ったか。それぞれに様々あるだろうが、身分差別をひっくり返して解放されるのも、大きな目的であった。

 だが――。

「お前らの先祖はわしらの土地に攻め込み、侵略した! 自業自得じゃ!」

 原田が叫び。勘吾も同調し、

「そうや、長宗我部は逆賊の、侵略者じゃ!」

 と叫んだ。

 蟻通勘吾と原田左之助の共通点は、高松藩と松山藩の、親藩の生まれであるということと、四国の北側の生まれということだ。

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