第六章 果し合い 六
「なんとしても見つけ出せ!」
「見つけ次第斬れ!」
そんな怒号を耳にし、路地裏を壁づたいに小走りに進み。やがて龍馬にうながされて別の邸宅に転がり込んだ。
「これは龍馬殿、どないしはりました?」
「いやあ、まいったまいった。外の空気が吸いとうて、迂闊に外に出てしもうたら……」
「なんとまあ、不用心はあきまへんで」
邸宅の、小太りの主と龍馬はすでに顔見知りのようである。小僧と慎太郎と勘吾を見て驚きはしたが、龍馬の知り合いだということでひとまず安堵する。
慎太郎も勘吾も迂闊に声は出せず、ただ一言、主に、
「かたじけない」
と頭を下げた。
慎太郎と小僧はともかく、勘吾はどうするのか。
勝負はおあずけになってしまった。何より気を殺がれてしまって、覚めてしまった。
「では、拙者はこれにて、ごめん」
「あんさん、ええのんでっか?」
「はい。私にはゆくところがある」
「そうでっか。ほな、お気をつけて」
主は勘吾を見送って外に出した。
外はもう夜の帳が落ちて真っ暗で。冷たい空気が肌に張り付きそうだった。
捕り手が慌ただしく駆けるのも見えた。実際に捕り物が繰り広げられているのは確かだが、別件のようだ。
「まったく、どこでどう見つかったのか」
いずれにせよ不運なことであったと嘆かざるを得ない。
それは慎太郎も同じだった。
「余計な邪魔が入らねば、勘吾の首級を挙げたものを」
と無念そうだ。龍馬はそれを見て、小僧の方を向き、片目をつむって、
「成功したな」
との合図を送り合った。
(すまんな慎太郎。お前は大業をなすための必要な人材なんじゃ。万一でも途中で死んでもろうては困るゆえ、小僧と一緒に一芝居うたせてもろうた。堪忍しとうせ)
龍馬は心で慎太郎に詫びていた。
(武市さんも以蔵も、みんな死んでいってしもうた。もうこれ以上、死なせられんのじゃ)
志半ばで死した仲間たちの顔が浮かぶ。
当の慎太郎は、邸宅の主にうながされて家に上がらせてもらい。用意された茶でのどを潤した。
「ふう」
ひと息ついて。徐々に気持ちが落ち着いてくる。
「おれは……」
茶碗の揺れる茶をながめながら、ぽそりとつぶやく。
「何を遊んでいたのか」




