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第六章 果し合い 四

 慎太郎は転げ落ちながらも太刀を手放さず、素早く振り上げ戸惑う勘吾の胴に叩きつけようとする。

「ええい、じょんならん!」

 悔しまぎれの言葉を忌々しく吐き出し、柄から素早く手を放して無手になって後ろに下がって、相手の太刀をやり過ごす。

 慎太郎は顔を振りながら口を開けて。放たれた太刀は乾いた音をさせながら、床に落ちて揺れた。

 駆けて愛刀を取りに行こうとするも、慎太郎は起き上がって太刀を振るってその妨害に当たる。

「くそ」

 まさかの真剣白「歯」取りである。咄嗟のこととはいえ、慎太郎の顎の力は尋常ではなかった。

「土佐もんは腹がへりゃあは岩でもなんでも食うぞ。讃岐もんはやわいうどんばっかり食いゆうき、こんなこたあできんろう!」

 無手の勘吾に対しても慎太郎は容赦なく。得意になって思わず口が軽くなっている。

(珍しいにゃあ、あの慎太郎が)

 質実剛健。意固地な土佐の「いごっそう」をそのままかたちにしたような男が、なにか弾んでいるようにも見える。そんな龍馬は、裕福な商家の次男坊として生まれ育ったためか、土佐者らしくなく垢ぬけている。

 同じ土佐とはいえ、一方はお城下で、一方は辺境の村で生まれ育って。まるで異国人のような境遇の違いであった。

 とはいえ。

(やっぱりおれらあは、男ながやにゃあ)

 胸に大志を抱いて東奔西走。しかし、時にはただの男として振る舞いたい時もある。今がまさに、その時であった。

「何をふざけたことを。讃岐は柔よく剛を制すじゃ!」

 勘吾は後ろに下がって、両手をだらりとぶら下げる。

「来い。度胸があるなら、かかって来い!」

「な、なにい?」

 勘吾は一見隙だらけである。

(あ、行くな慎太郎!)

 勘吾は無防備に見せて慎太郎に仕掛けさせて。そのうえで何らかの対処をする腹積もりである。いわば誘っているのである。これには乗らぬ方がよい、と思ったが、審判がそんなことを言えば公正さを欠き果し合いの意義がなくなる。

「刀はいらんぞ。そのまま来い!」

 勘吾は無手のまま叫ぶ。こいつがほしいのかと、刀を拾って渡すことすら拒否する。慎太郎とて不審に思うものの、男として挑んできているのである。これを流せようか。

「ようし、来てやろう」

 改めて青眼に構え直し、次に上段に構え直し。

「やああ――!」

 気合の雄叫びとともに、太刀が振り下ろされる。

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