第六章 果し合い 三
「では、わしが審判と証人になって、勝負を見届けるゆえ。心置きなく、決闘をするがよい」
龍馬は提灯に火を灯し、道場の真ん中に立った。
慎太郎は気持ちを切り替えて、大きく息を吸って、吐いて。龍馬のそばに立てば、勘吾は手荷物をおろし、布を広げれば。中からだんだらの羽織と鉢金が出てきて。鉢金を頭に巻き、羽織を身にまとう。
このだんだらの羽織を身にまとい鉢金を巻くことで、おれは新選組の隊士なのだという気持ちが昂り。
慎太郎の正面に立つ。
「なんだかおかしな成り行きになったが。それはそれ、これはこれ。手加減はせぬ」
「おう、それはそれ、これはこれだ」
勘吾と慎太郎は互いに睨み合い、「かまえ!」という声に従い抜刀して青眼にかまえ合う。
「はじめッ!」
言うや龍馬は後ろに飛び下がり。同時に「えおう」「とおう」という掛け声と、太刀を振るう「ぶうん」という風切り音が唸る。
慎太郎が鋭い突きを繰り出せば、愛刀の峰で下方向へと弾き。相手の切っ先が下を向くのを見て、すかさず肩でぶつかる。
うお、という呻き声を絞るように出して慎太郎はよろけ。瞬時に間合いを取って下段から押し上げるように胴目掛けて愛刀を振り上げる。
このままでは胴を斬られてしまう。咄嗟に太刀を逆手にもち、相手の胴斬りを受け止めようとするが。
勘吾の目はかっと見開かれて、胴目掛けて迫る太刀は急に軌道を変えて足首に迫る。
そこは無防備。刃が触れれば足をやられて立てなくなる。
「ぬッ!」
そう来たか! と感心などする余裕はなく。咄嗟の跳躍をすれば、足の下を刃が空を斬ってゆく。
(馬鹿め!)
跳躍をすれば安定感を失い、防備もおろそかになってしまう。太刀は下向きのまま、ふたたび肩でぶつかれば。
宙に浮く慎太郎、たまらず押されて背中から音を立てて転げ落ちる。
そこから休む間もなく、切っ先が眉間に迫る。
(ああ、いかん!)
龍馬も観念し、慎太郎が突き刺されるのを想像してしまった。勘吾も勝負あったという手ごたえはあった。
だが、しかし――。
眉間に太刀が突き刺さった、ということはなく。なんと、慎太郎は大口を開けて、それから思いきり口を閉じ、白い歯で切っ先を噛み挟んで止めたではないか。
かなりの顎の力で、押すも引くもならず。
「な、なんちゅうけったいなことをしよんな!」
(わかっちょらあそんなこたあ!)
上から突き出された播磨住昭重の切っ先は見事に慎太郎の顎の力によってつかまってしまった。
「ほほう」
龍馬は目を細めて、面白そうに、うんうんと頷く。




