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第六章 果し合い 二

「すまぬ。ほんとうにすまぬ」

 慎太郎は頭を下げ、勘吾に詫びる。いったい何がすまぬなのであろうかと思えば。そのそばに、くせっ毛の髪を頭の後ろでまとめた、背の高い武士がいた。

「いやあ、あんたが蟻通勘吾さんか。お初にお目にかかる。坂本龍馬じゃ」

「な、なに! 坂本龍馬!」

 なんと、昨夜あれだけ討ちたくて討ちたくてたまらなかった龍馬がいるではないか。右手に包帯をしているところを見ると、負傷をしているようだが。軽症のようで、元気そうだ。

 そこはやはり新選組であった。すぐに間合いを開けて、腰の愛刀・播磨住昭重をいつでも抜ける構えを取る。

「おのれはかったのか」

「いや、違う。神仏に誓って、決してはかりごとなどない」

「ならばなぜ坂本龍馬がいる!」

「それがそのう……、ばれてしもうて」

「はあ、ばれたやとお?」

 思わず素っ頓狂な声を上げる。果し合いは慎太郎はもちろん秘密裡にやるつもりであったが、なぜかそわそわするのを禁じえず。そのそわそわしたのを隠しきれず、まんまと龍馬にばれて。

 問い詰められて、答えれば。面白そうだ、つれていけと、せがまれたという。

「そういうわけだ。邪魔はしないから安心してくれ」

 龍馬は言いながら、少年に菓子を与えて。部屋で食って、寝ろと、道場から出して。これでここにいるのは三人のみである。

「そういう問題ではない。振り切れんかったんか!」

「それが……。おんしを信じて言う。つれてゆかねば、薩長の盟約をぶち壊すなどと脅されて」

「薩長の、盟約やとおッ!」

 勘吾は度肝を抜かれる思いだった。あれだけ対立していた薩長が結ぶなど、ありえぬことである。しかし、慎太郎は嘘をつかぬ。ということは、ほんとうなのだろうが……。

(これは一大事だ!)

 早く知らせねば、と思うものの。ここで顔を合わせる趣旨は、果し合いである。決闘である。そこには、男と男の信頼がなければ成り立たぬ。

(しかし、これをばらせば、おれは卑怯者になってしまうのではないか!)

 勘吾は悩んだ。昨日は成り行きで寺田屋を襲ったが、それでよかったのだ。やはり龍馬と慎太郎は、幕府の敵、逆賊なのだ!

 だが、ここで会ったのは決闘のためである。秘密があれば黙っているのが礼儀なのであろう。

「ああ、もう! じょんならん!!」

 讃岐弁で「しゃれにならん」という意味の言葉を放って。歯噛みする。

「しゃあない。黙ってやる!」

「おお、そうか。すまぬ。ほんとうにすまぬ」

「蟻通さん、あんたも男だ。さすがは讃岐男」

 忸怩たる思いで勘吾は秘密の共有を約束し、慎太郎はひたすらに詫びと礼を繰り返し、龍馬は勘吾に感心していた。

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