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第五章 寺田屋襲撃 九

 三吉は警戒のまなざしで六九郎を見据えていた。

 もしこの男が、

「おさむれえさま、下手人はここにいやすぜ!」

 などと喚こうものなら、一気に槍で一突きできるように身構えている。

「これこれ、そんなに怖い顔をしたらいかんちや」

「しかし、まだ信用できません」

 大仕事を成し遂げたのだ。様々な形でなんらかの手出しをしてくるだろう。相手はいまだ最高権力者の幕府である。

 油断は禁物であった。

「しかし冷えるのう」

 龍馬はぶるっと震えた。傷口も痛む。

 三吉も同じであった。時は新春の一月である。

「六九郎さん、なんか持ってないかえ……?」

 たまらず龍馬は言ったが、答えはない。見れば、六九郎は忽然と姿を消していた。

「や、これは面妖な!」

 三吉は気を張り警戒する。いったいどこに行ったのか。

「おれらあは、狐か狸に化かされたろうか?」

「まさか、それは」

 不気味な話である。

 しかし、ふと、追っ手の声がかすむように小さいことに気付いた。今いるところから遠ざかっているようだ。

 そうかと思えば、わいわいとまた騒がしくなる。

「坂本龍馬殿を助けろ!」

 などと、はばかりもなく喚く声がする。薩摩藩邸の薩摩武士のようだ。

「ああ、龍馬さん、どうかご無事で!」

 女の声もする。お龍だ。無事薩摩藩邸まで逃げおおせて、助けを得られたようだ。

「皆さん、ここ、ここです」

 三吉は半身を屋根から垂らして道ゆく薩摩武士たちやお龍に居場所を告げる。

 気付いた武士たちは、「おお」と歓声をあげて。屋根から降りるのを助けて。周囲を囲んで、薩摩藩邸まで戻る。

「よかった、よかった」

 お龍は感激のあまり抱き着く。龍馬が着せた上着のままであるということは、あれからそのまま、ということか。

「いかんちや、はしたない」

 そう言われて、はっとして、お龍は離れた。それを微笑ましく三吉たちは眺めて、龍馬の無事に安堵していた。

 藩邸の門まで来たところで、丁度中岡慎太郎も戻った。頭巾をかぶったまま。

 大仕事がなされて、寺田屋の龍馬に会いに行こうとしたわけだが。とんだ騒ぎになってしまったものだった。

「それだけ、おれらあは大仕事をしたっちゅうことやにゃあ」

 奉行所や新選組の襲撃も、自分たちの大仕事ぶりを表現したものだと思えば、悪い気はしなかった。

 龍馬と慎太郎は互いを見合わせ、得意の笑みを浮かべて、拳と拳を軽く突き合わせて、触れ合わせた。

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