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第五章 寺田屋襲撃 四

 三吉も槍を振るって捕り手をばたばたと薙ぎ払う。

 奮闘の甲斐あって、捕り手どもはひるみ。龍馬に促されてまずお龍が階段を駆け下りて外に出て、そのまま一気に全速力で駆けた。

「女を逃がすな!」

 忠交は夜闇に紛れるように見えなくなるお龍の背中を眺めながら叫んだ。

「女などどうでもええわ、龍馬はどうした!」

 勘吾は寺田屋へ駆けこもうとするが、忠交の家来らが、

「新選組のお手を煩わせるほどのものではありませんから、お下がりください」

 と立ちふさがる。

「ふざけるな、手柄をひとり占めする気か!」

「滅相もない」

 家来らは立ちふさがりながらなだめようとするが、勘吾や新選組の隊士が、はいそうですかと落ち着くわけもない。

 忠交にも聞こえているが、知らぬ顔の権兵衛を決め込む。

 勘吾は松明の火でぼんやり闇からすくい出される寺田屋を睨んだ。

 ちなみにあの浪人は蹴飛ばしながらも逃がしてやった。約束は守ってやった。

 それを遠くから眺める目があった。

 その目はここに来る前に、

「ゆず酢をかけた魚が食いたいのう」

 などと、ぽつりとつぶたいた。

 郷里の土佐の柏木村(現高知県北川村)はゆずを植えて、それを名産品としていた。

 そう、それは中岡慎太郎だった。慎太郎は土佐にいる頃は若い庄屋として村を取り仕切っていた。岩山に囲まれた谷間の貧しい村で、皆が安心して食い物を食えるよう、気を配りに配ったものだった。

 様々な学問を学び、医学にも精通し、村に自生しているゆずの実の、酸っぱい酢は防腐作用があることを知り。

 ゆずの栽培に力を入れた。

 山村ゆえに塩に不自由したが、そのゆずを塩代わりに防腐や調味料として使うことを思いつき。

 日陰でも育つ強みを生かし、ゆずを家の裏や山すそに必ず植えることを推奨した。

 ゆずは慎太郎にとって命の実でもあり、ふるさとの味であった。ゆずのことを考えるだけで、そのすっぱみがよみがえり唾液が増えた。

 それはさておき。

 大仕事がひと段落したということで、京に上ってきたのだが。

 これはなんだ。

 龍馬のいる寺田屋は捕り手に包囲されているではないか。

(感づかれたか!)

 物陰に隠れて様子をうかがう。さきほど女がひとり走って出ていった。龍馬が逃がしたのか。

 暗くてよくわからぬが、捕り手のかざす松明は、あらぬ羽織をぼんやりと闇からすくい出す。それはだんだらの羽織だった。

(新選組!)

 奉行所と新選組が協力して龍馬を捕らえようとするならば、逃げるのは難しそうだし。助太刀に行くのは無謀にも思えた。

 が、しかし。

「義を見てせざるは勇無きなり」

 意を決して、太刀を抜き放ち、だんだら羽織目掛けて駆け出した。

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