第五章 寺田屋襲撃 二
なぜ京にいるのか知らぬが、飛んで火にいる夏の虫であった。
今は一月であるが。
前々から人を遣って色々と調べて、目星はついていたのだが。
奉行所に新選組の隊士がやってきて、それも龍馬を狙っている。
手柄を取られてたまるか、と林忠交は思い。思い切って、行動に移すことにしたのだった。
決行は夜。
屯所から人が来て、
「邪魔にならぬよう、坂本龍馬捕縛に協力すべし」
との言伝が伝えられた。
助っ人はない。新選組は勘吾と他ふたりであった。
ともあれ、夜の帳が落ちて。冷たい風吹く夜の京を、にわかに増えた松明が灯した。
すっかり夜も更けこんで、京の街そのものが眠っているようである。その中を、奉行所の捕り方の隊列の、後ろにつけさせられて、勘吾らがゆく。
「くそ、おれらに手柄を立てさせん気か」
勘吾とふたりは忌々しそうに舌打ちし、縄をかけて連れてきている浪人に、八つ当たりに蹴りを食らわす。
「いてえ。もっと丁寧に扱ってくれよ」
「うるさい」
つれないものである。
やがて寺田屋に着いた。
薩摩藩の京での定宿であり、以前に薩摩藩士同士の同士討ち事件もあった。薩摩藩も色々あったのだ。
「新選組のお手をわずらわせるまでもない。どうぞ、後ろでごゆっくり」
忠交はそう言う。上総の国の小藩の藩主でもある彼とて、手柄を立てたいのは人情であろう。誰にも邪魔されずに。
おかげで、勘吾らは寺田屋には入れさせてもらえないことがすでに決まっていた。
「なにかしら」
深夜というのに、女がのんきに風呂につかっている。
その、のんきに風呂につかって、いい湯加減にほっこりしているときに、ざわざわとにわかに騒がしくなった。
気になって、風呂の窓から外を覗けば。
「……あッ!」
女は慌てて風呂から飛び出て、どたばたと二階の階段を上った。
「なんなあ、うるさいにゃあ」
二階の坂本龍馬は、いい気分で、長州の三吉なる者と酒を酌み交わしていた。
そのいい気分の邪魔をされて、ほたえな!(騒ぐな!) と言ってやろうかと思ったその刹那。
「大変です龍馬さん!」
「すっぽんぽんッ!」




