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第五章 寺田屋襲撃 一

「へえ、新選組にも間抜けがおるもんじゃ」

 そんな声がして、弾かれるようにして声の方に振り向けば。五十手前くらいの初老の浪人がへらへらこちらを見て笑っている。

 さっきの、六九郎に逃げられたのを見ていたのだろう。

「なんじゃあうぬあ!」

 咄嗟に愛刀・播磨住昭重を抜き放ち、切っ先を突きつける。

「へへへ、あんなひ弱そうな遊び人にからかわれるくれえだ、きっと弱いんだろうよ」

 浪人も太刀を抜いた。やる気だ。

 が、浪人が太刀を抜き、構えを取ったと同時に勘吾は駆け出し。鋭い斬撃を見舞えば。

 ばきッ!

 という耳をつんざくような鋭い音がしたかと思えば、浪人の太刀は折れて。切っ先はくるくるまわりながら宙を舞って、地面に刺さって落ちた。

「ぎゃあああーー!」 

 浪人は叫んだ。しかし、太刀を折られはしたがどこにも怪我はなさそうだ。それでも悲鳴を上げたうえに、尻もちをついてしまったのは。

 ひとえに勘吾の気迫に押されてしまってのことだった。

 相手の太刀を折り、播磨住昭重の切っ先は鼻先をかすめるように振り下ろされて。くうを斬る風の破片が浪人をねぶった。

「な、なんでえ、おめえ強いじゃねえか」

 しかし勘吾は答えず、鋭く光る眼光を浪人に向けるのみ。

「悪かった悪かった。詫びにいいこと教えてやる。坂本龍馬は寺田屋にいるぜ。探してるんだろ、新選組はよ」

「なに、坂本龍馬だと!」

「そうだ、背が高くてくせっけのある縮れ髪の浪人が寺田屋にいるのを見たんだ。女中が『おかえりなさいまし、龍馬さん』って言うのも聞いた」

「ほんとうか。嘘ならばただではすまんぞ」

「この期に及んで嘘をつくかい。ほんとうだ信じてくれ!」

「ようし。一緒に来い。ほんとうだったら助けてやろう」

 他の隊士が首根っこを掴んで。屯所は遠いので最寄りの奉行所までゆき、そこから人に頼んで事の次第を屯所に伝えてもらった。

 浪人は牢にぶち込まれてぶるぶる震えるばかり。

(弱そうだったんでつい、いたずらしてやろうと……。馬鹿なことをした)

 この名も知らぬ一介の浪人は、己の出来心を悔いた。同時に、幕府が、新選組が喉から手が出るほど欲しがっている龍馬の首のありかを、たまたまながら知っていたことに、お天道様に感謝していた。

「坂本龍馬が寺田屋にいるのか」

 膝を打ってにやりを笑ったのは、伏見奉行職に就く林忠交はやしただかたであった。

 坂本龍馬は逆賊及び危険人物として幕府が目をつけている。それを捕らえる機会が巡ってきたのだ。

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