第四章 時は経つ、事は進みゆく 五
そして、亀山社中。
新選組とて京に引きこもって刀を振り回してばかりではない。
世がどう動いているのか、情報の収集にも気を配った。
そんな中で、亀山社中といったものの名も聞いた。
長崎に、株式会社なる聞いたことがない形態の組織ができ。それは独自の船や軍事力も保有し。
坂本龍馬なる者が興したと聞いた。
中岡慎太郎と同じ土佐藩の出である。その他の同藩の者らと力を合わせて、中岡慎太郎の関わりも深いそうだ。
「……」
勘吾は無言になった。
あの時の遭遇からどれくらい経っただろうか。自分はいまだに新選組の平隊士なのに、中岡慎太郎は反幕府側の中で重要な地位を占めているという。
さて、それらがいつどのようにして幕府に牙を剥いてくるのかが、皆目見当もつかなかった。
「坂本龍馬と中岡慎太郎を、斬れ」
そのような厳命がくだって。もし京にいたなら、と新選組も両名を血眼になって探し求めていた。
「あ、六九郎め、龍馬と慎太郎とつながりが」
はっとした。池田屋にいたのだ。あかんべえまでした。幕府に対し好印象を持っているわけがない。
逆賊である。
中岡慎太郎も坂本龍馬も、逆賊である。
「その逆賊に、まんまとなめられたおれは」
心の中から何もかもが八つ裂きにされたような、挫折感をにわかに覚えた。
周囲は一見畏れているようだが、内心笑っているのはわかった。
声はさらにした。
「会いたいか、中岡慎太郎に。まあそのうち会えるさ、焦んなって」
「くそ。どこにおるんじゃ!」
勘吾も他の隊士も周囲を鋭く見渡したが、六九郎の姿は結局見えなかった。
かと言って、このままおめおめと帰れるわけがない。
「これから面白くなるぞ。まあ、頑張れ」
「頑張れやないわッ!」
言い返すが、返答はなかった。六九郎はほんとうに逃げ去ったようだ。
「腹が立つのう」
人前で恥をかかされて、穏やかではない。
かといって、阿呆のように立ちっぱなしもあれなので、やむなく歩き出す。
巡回する道順は決まっている。が、このまま屯所に帰ってよいのだろうか。
もしこのことが屯所に、さらに土方にまで聞き及ぶこととなれば、その時こそいよいよ、
「切腹しろ!」
と、鬼のような形相で、切腹を賜るかもしれなかった。