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第三章 邂逅 四

「いちいちうるさいわッ!」

 永倉と勘吾の二振りの太刀が四方八方から迫れども、中岡もさるもの、我が太刀で相手の太刀を弾きつつうまく身をかわし。間合いを開ける。

 間合いを空けざまに、問いかけもする。

「讃岐男に阿波女、伊予の学者に……。この後に何が来るか、わかるか?」

「土佐の高知は鬼侍やろうがッ!」

 格上の永倉を押しのけて、勘吾は鋭い刺突を食らわせようとする。ちなみに、この言葉は四国四州を表現した言葉で、讃岐の男と阿波の女はよく働き伊予人は良くも悪くも学者肌で、土佐人は荒っぽい、ということを言い表している。

「知っちょったら話は早い!」

 刺突は弾かれる。しかしそれは想定内で、弾かれた勢いに乗せて燕返しに太刀を中岡の胴目掛けて振るった。

 永倉は後ろに回っていた。

(もらった!)

 太刀が慎太郎の胴を薙ぐと思われたが。やけに固い、妙な手ごたえ。中岡は素早く太刀を逆手にもち、勘吾の太刀を受け止めていたのだ。

 同時に肩が勢い良く迫る。

「あッ!」

 強い衝撃を受けて勘吾はよろけた。かと思えば、顔面に左の掌が迫る。

 いかん、と避けようとしたが遅きに失し。掌の打撃、張り手をもろ顔面に受けてしまった。

 鼻っ柱に強い衝撃を受け、頭もややくらむ。

「どうな、鬼の張り手は!」

「えやあ!」

 永倉の気合の叫びが響くも、太刀は虚しくくうを斬り。

 中岡は勘吾に張り手を見舞ってすぐに離脱し、いつの間にか夜闇の向こうへと駆けていた。

「お前ら、名は何という!?」

「答えるか阿呆!」

「蟻通勘吾じゃ!」

「おぼえちょれッ!」

 夜闇に溶けるように中岡慎太郎の姿は消えていった。

「阿呆、素直に答えてどうする!」

「あ、すいません」

「すいませんじゃねえ!」

 永倉の一喝。腹と心に響いた。

 張り手を受けながらも勘吾はどうにかふんばり尻もちをつくようなことはなかったが、不覚も不覚であった。

 もし慎太郎が逃走を優先せずに勘吾に太刀を振るえば、ひとたまりもなかっただろう。

「何事!」

 わらわらと、警備の武士が今頃あらわれた。会津藩の武士だ。

 斬り合いの凄まじさに怖じて、出る頃合いを見計らっていたようだった。

(お前らも、なんだ!)

 大声でどなりつけてやりたかったが、警備の武士らはかの松平容保公配下の武士なれば、ぐっとこらえて。

「見たとおりだ。我らはすぐ屯所へ帰るが、斬られた若い衆を運んではもらえぬかな」

 遅れた後ろめたさから、会津の警備の武士らは斬られた若い衆を担いで。永倉、勘吾らとともに壬生の屯所へと帰っていった。

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