第三章 邂逅 三
「我らが讃岐の武士も奮戦したが、薩摩隼人は強く敵わなかったと聞く。だが勇名轟く薩摩隼人、相手に不足はなしと敢えて討ち死にをしたとも聞いた」
「なにが」
「ん?」
「なにが、讃岐なあッ!」
石川の腰の太刀が突然閃き、勘吾は目を見開いて咄嗟にうしろに飛び下がった。しかし、ひとり若い衆はむごいことに流れるように閃く刃の餌食となって。
「ぎゃあッ」
壮絶な悲鳴を上げて血を噴き出しながら倒れて、ぴくりとも動かなかった。
「『なにが、讃岐なあ……』。その言葉づかいは、土佐の……!」
勘吾は慌てて愛刀播磨住昭重を抜いたが、その時にはすでに永倉が太刀を閃かせて石川らに斬りかかっていた。
「中岡さん、逃げろう!」
ひとり逃げ出そうとしたが、間抜けにも足をもつれさせて転んでしまった。
「ひい、慎太郎さんー!」
提灯を持つ若い衆は転んだ若い衆向かって片腕で太刀を振りかざし、泣きっ面の脳天をかち割った。
「ああ、やっちゃらあー!」
もうひとり、やけのやんぱちになって勘吾に斬りかかる。
「やめえ!」
中岡、慎太郎、と呼ばれた石川は止めたが。永倉の太刀が迫り、それをかわすのがせいいっぱいだった。
「お前の本当の名は、中岡慎太郎かッ!」
「おお、そうじゃ。ばれてしもうたらしゃあない!」
永倉の斬撃、目にも止まらぬ早さで中岡慎太郎に迫り。太刀に斬られた風の破片が中岡の頬を撫でる。
「おお、来るか。来いや、斬ったるわッ!」
勘吾は愛刀を構え土佐の若い衆と対峙したが、切っ先が触れ合うか触れ合わぬかのところで、ひょいと土佐の若い衆は身を翻して。風のように駆け去って夜闇の中へと溶け込んでしまった。
「土佐者ならば、戸次川のことを聞かれては、落ち着いてはいられなかったようだな」
意表を突かれて相手に逃げられた勘吾は一瞬ぽかんとして夜闇を眺めてしまった。永倉がその間に中岡に迫る。
「まさか讃岐者が、戸次川のことをたずねてくるとは思わなんだわ。まっことに不覚!」
「こちらはこちらでたずねたいことがある。一緒に屯所に来い!」
「いやじゃ!」
「いややないわ!」
脇から勘吾が刺突を食らわせようとする。
「おお、二対一か。讃岐のへらこい気質とはこのことか」