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第一章 池田屋事変 一

 三百年近く続いた徳川幕府の治世はゆらぎ。

 巷に刃が閃き。

 さながら戦国の世が戻ったかのようであった。

 男たちは野心の火を消さぬよう、赤い、血の油を求め。

 幕末の世は、昼夜を問わずに、舞い散る血によって真っ赤に燃え上がっているかのようであった。


 

 狼。

 そう、それは狼の群れであった。

 隊列を整えて、京の都を駆け抜けてゆくそれらを見て、

「血の雨が降る」

 と、人々は恐れた。

 時は元治元年(1864年)の夏の夜。

 だんだら羽織を身にまとう武装集団が、一件の旅館の前にやってくる。

 その武装集団は、新選組と呼ばれていた。それと同時に、狼とも。

 酔客らは度肝を抜かれて、巻き添えになるまいと尻尾を巻いて逃げ出し。おかげで酔いも覚めた。

「おお、やったる、やったる」

 鼻息も荒く、旅館を見据える男たち。

 その中の、蟻通勘吾ありみちかんごなる若者。しかめっ面をしながら、愛刀・播磨住昭重はりまじゅうあきしげの重みを感じる。

「新選組に入って一年、ようやく腕の見せ所が来た」

 ふう、と大きく息を吐き出す。

「慌てるな。ここぞという時に落ち着いてこその男だぞ」

 そんな声もしたと思えば、沖田総司なる青年の声であった。

 少し生意気そうだが剣の腕には相当の自信があり、それだけに目も座り、白面の幼顔に妖気が宿っているようだった。

 局長・近藤勇は岩石をかみ砕きそうな、張った顎の顔を上げて、池田屋を見据えて、

「さて」

 そうつぶやいたころに、新選組の隊士たちは散り、裏口にも立ち。池田屋を囲んだ。勘吾は幸いにして近藤勇の近く。正面から突っ切ることのできる位置。

 近藤勇はずかずかと庭先に出る。

「主人はおるか。御用改めである!」

 腹からの図太い声が響き。響かせながら池田屋の中へと入りこんでゆく。

 まるで自宅へあがるようなほど自然に中に入るものだから、隊士の中にはぽかんとする者もあった。

「おい、ぼっとするな」

 永倉新八なる隊士が勘吾の後頭部をかるく小突いた。

 少しむっとしながらも、「はい」と返事をして頷き。臨戦態勢に入った。

「お二階のお客様方! お取り調べでございます!」

 大戸を下して、木錠をさしてあったのだが。誰が抜いたのか、近藤勇をはじめとする新選組が入り込んでくるではないか。

(さては前々から疑われて、誰かが……!)

 池田屋の主人は、度肝を抜かれる思いであった。

 二階の奥座敷では、宴席が設けられており。そこで男たちが酒を酌み交わしながら、志を語り合って、盛り上がっていた。そのため、主人の声はあまり聞こえなかった。

「はて、なにか声がしたかな?」

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