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世界の終わりと始まりの世界  作者: 妄言吐き
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創世の鍵


「ってことなんだ」

翌日、かなり顔色が良くなったバレルにアレンのこと、長老から聞いたこと、ソルから聞いた事の全てを話した。

「あれがアレンなのか…信じらんないけど、ルカが言うなら間違いないんだろうし」

「どうにかして助けたい。そのための方法を探しにアガルタへ行きたかったんだ」

「そりゃ当然じゃん。たった一人の兄貴なんだから」

あっさりと言ってのけたバレルは

「でも人をアガルタにする方法なんてあるのか・・・恐ろしいな」

「方法が分かれば対処法も分かると思うんだ」

「となるとアガルタに行くしかないよね」

そんな話をしているとドアがノックされソルが入ってきた。脇にはバレルの荷物を抱えている。

「お、もう元気そうだな」

「あ、伯父さん」

「伯父さんって・・・まあ、そうなるが」

ソルは苦笑いを浮かべながらバレルの荷物を下ろした。

「ロキはどうです?」

「問題なく回復しそうだが半月はかかるな」

「そうですか・・・」

ルカの落胆に

「そういや竜人と人のハーフって竜人の力を持ってるんですか?」

とバレルが話題を変えた。

「いや、人の腹から生まれた以上は人だからな」

「え~」

バレルが不満そうに声をあげるとソルは苦笑した。

「俺達が人と交わって生まれた子が竜人の力を持っていたら、それこそ世界の均衡が崩れてしまう。俺達の寿命は数百年ある。もちろん、不死というわけではないから寿命を全うすることなく命を落とす者は多いが」

「女の竜人もいるんですか?」

「この村にな。女は一生この村からは出ない。男はある程度大きくなると世界中に旅立っていく。そして見聞きしたものはすべて長老が記憶するようになってるんだ」

「長老が?そんな量の情報をどうするんですか?」

「我々は世界を見守り記録するための存在だ。創世の時から終世の時までな。それをどうするのかは長老しか知らん。で、男は情報を集めるための道具だから生まれてくるのは男が圧倒的に多い。男はこの村を旅立つときに成人の儀として女と番う。そうやって子孫を残していくんだ」

「外の世界に出たら人として生きるわけですね」

「そういうことだ。俺にも人の女との間に子どもがいたが、すでに老いて亡くなったよ」

ソルの寂しげな表情。人として生きながらも、生きる時間は人とは違う。つまりどれほど愛していても愛する者と添い遂げることは出来ないのだ。

「父も・・・そうなんでしょうか?」

ルカの問いにソルは寂しげな表情のまま

「まあ・・・そうなるな。このまま世界が続くなら命を落とすようなことがない限り、いずれは君らの前から姿を消すことになる」

と答えた。

「俺はそれでも構わないけどな~。親父が世界のどこかで生きてて、別人として所帯を持ってても、それはもうそういうもんじゃん。それが役目なんだろ?俺にとって俺を育ててくれたって事実がある限り親父は親父だし、尊敬の対象だから。それは俺が死ぬまで変わらないよ」

バレルの言葉にソルは一瞬目を瞠ると優しく微笑んだ。だがその瞳は潤んでいる。

「それに親父が俺にしてくれたようにまた子どもに剣術教えてると思ったらそれってすっげぇ幸せじゃね?」

その言葉にルカも微笑んだ。

帝国髄一の剣客として知られるクラウスは現皇帝にも剣技の指導をしたほど、多くの弟子を抱えていた。それでもバレルに対しては父親としての慈愛と厳しさを以って指導し、バレルは今では実力的には次期将軍間違いなしといわれるまでの腕前になった。

自身に接してくれたように、まだ見ぬ誰かが剣技を教わる―――そこには必ず新たな幸せがあるはずだと、バレルは言っているのだ。

「それはさておき、これからどうする?」

涙を誤魔化すように笑うソルの問いにルカは答える。

「アガルタに行きます。それしか兄を救う方法がありませんから」

「そうか。では俺も同行させてもらおう」

「えっ!?良いんですか?」

「君は創世の鍵になり得る存在だからな。君がどう動くかで世界の行く末が決まる」

「それそれ!なんでルカが創世の鍵とかいうのになってるわけ?」

バレルの問いにソルは頷くとルカに問いかける。

「君は本当に覚えていないのか?君自身の中にいるものを」

「私の中?」

「君は一度出会っているはずだ」

「誰にですか?」

「風の王―――君は四元の王より加護を受けたこの世界でただ一人の存在だ」



ここは何処だろう。

ふわふわと灰色の世界を漂っている。

そうか。死んだんだ。あの白い獅子に引き裂かれて。

調子に乗ってあんな奥深くまで進むんじゃなかった。

あぁ、師匠は怒るだろうな。Aランクの任務を引き受けるなんてまだ早いって言ってたのに。

あの壁の向こうにあるはずのお宝ってなんだったんだろう。

綺麗な壁だったな。白く光ってて―――きっとすごいお宝が眠ってるんだろう。

でもなんであの獅子はスキッパーには目もくれずこっちに襲い掛かってきたんだろう。

ああ、あのスキッパー、給金叩いて買ったばかりだったのに。もったいない。

兄さんならきっとあの獅子にも勝てたのにな。

兄さん―――兄さんは僕がいなくなったら悲しんでくれるだろうか。

兄さんの目に僕は映っていない。

でも僕は―――兄さんの力になりたかった。

兄さんは人々を、帝国を救う。

そして人々は兄さんを英雄として讃えるんだ。

僕も―――傍で同じように讃えたかった。


“――――本当に?”


不意に響いてきた声。


誰?


“わたしはあなた。あなたはわたし”


わたし?あなた?


“あなたは本当にお兄さんを讃えたいの?”


当たり前じゃないか。兄さんは強くてかっこよくて―――僕の憧れなんだから。


“どうして憧れているの?”


兄さんは真っ直ぐで、いつも人々の幸せを願ってて、人々を救うだけの力があるんだ。


“本当に?”


え――――


“お兄さんは人々の幸せを願っているの?”


そうさ!いつもそう言ってる!!


“言葉と本心が同じものとは限らない”


兄さんが嘘をついてるとでもいうのか!


“あなたは信じているの?”


もちろんだ!


“そう思いたいだけ―――違う?”


そんな・・・ことはない!!!


“だってあなたはお兄さんに相手されてないじゃない”


それは・・・・


“あなたはお兄さんのことを何も知らない。知らないのだから理解も出来ない”


――――――


“あなたはただお兄さんという偶像に縋りつきたいだけ。憧れでもなんでもない。ただ楽なほうに逃げたいだけ”


そんな・・・・


“あなたの選択が齎す結果の全てをお兄さんに擦り付けたいだけ”


違う・・・・


“あなたにかかる責任のすべてを転嫁したいだけ”


違う・・・・


“あなたは何も成すことは出来ない。あなたにはそのつもりがないのだから”


違うっっ!!!


“違う?何が?”


僕は・・・・


“あなたはなにをしたいの?あなた自身で何を成したいの?”


僕自身で・・・?


“あなた自身に出来ること。それをどうしたいのか”


僕は・・・・・・僕はみんなを助けたい。兄さんも、アカデミーのみんなも、帝国の人々も。


“助けたい?”


誰かの力になれる自分でいたい。僕らみたいな子供が捨てられなくてもすむ世界にするために。だから・・・


“だから?”


強くなりたい―――この世界を変える事が出来るくらいに。ただ―――強くなりたい。


“この世界を―――変革したいか?”


気付くと白く輝く壁の前に倒れていた。

いったい何が起こったのか―――何も思い出せなかった。



「君の中には風の王がいる。とはいえ君自身がそのことを覚えていないから眠ったままの状態だがな。残る地水火の王を探し出せばいい」

「探し出せばって・・・どうやって?」

「さあな。一応それらしき場所の情報はあるが、実際にそこにいるのかは不明だ」

「それらしき場所・・・」

「西のルーニエ領内に二箇所。地と火の王を祀っていた神殿がある。どちらもルーニエの侵攻によって滅ぼされた国にあったもので今は廃墟だ。水の王についてはおそらくアガルタだ。月の王の神殿が怪しいな」

「アガルタの情報も集めてるんですか?」

「もちろんだ。どちらも同じように創世された世界だからな」

ソルは懐から出した地図を広げる。

「ちなみに今いるのはここだ。ここからだと火の王の神殿が一番近いな」

とルーニエの南東、虚無の砂漠の縁を指差す。

「アガルタの月の王はこの地図上だとどの辺りにいるんでしょうか?」

「月の王の神殿はドラゴニアの西の最大都市、バルバルーサの裏になるか。タナトスを通って徒歩で一月弱といったところだな。障害がなければの話だが」

一月弱―――それでは合月に間に合わない。

どうすればアレンを救える―――と、その時ルカは不意にソルの言葉を思い出した。


――――『アムリタ』が体を本来あるべき状態に戻してくれる。


ソルは“治す”とは言わなかった。あるべき状態に戻すと。それはアガルタ化してしまったアレンを元に戻せるということではないのか。

「ソル様。あの『アムリタ』という水、もしかしてアガルタ化した者を元に戻せるのではないですか?」

ルカの言葉にソルは頷く。

「俺もそれは考えた。今、君らを襲撃していたあのフーラーの男で試しているところだ。ジンとかいったか。長の話では彼らはおそらく妖漿を飲まされた結果ああなってしまったのではないかという話だったから、可能性は高いな」

「妖漿というと・・・アガルタが月の魔力を受けることが出来るようになるために必要なものでしたか?」

「そうだ。アガルタの長大な寿命と強大な力は月の魔力を生命力に変換できるからだ。アガルタでは日照が少ないためにまともな作物は育たんからな。食物からだけでは生命活動を維持できないんだ」

「なぜそんな世界を創ったのでしょうか?」

「さあな。それこそ創世の王たちにでも訊くしかない。ただアガルタは本来平穏な世界だ。こちらとは違ってな。月の王を頂点とした支配系統が確立されていた。まあ、当然のごとく権力闘争はあるが、月の王の存在が不可欠である以上、そこまで大掛かりなことは出来ん。月の王はアガルタすべての行動を制御できるからな」

「制御できる?」

「なぜアレンが帝都に攻めて来たか分かるか?」

「えっ――――――」

アガルタ化したアレンが攻めて来た理由。アガルタだからと、そこで思考を止めてしまっていたが、確かにアレンに意思が残っているなら人に仇為す行動を取るわけがない。

「妖漿には月の王の命令を無条件で受け付けさせる効果がある。月の王には戦闘能力がない。だから何者も逆らうことができないように出来てるんだ」

つまりアレンは月の王に命じられて帝都に攻撃を仕掛けてきたのだ。

「ということはアガルタのシャングリラ侵攻も月の王の命令なのですか?」

「さすがにそこまでは知らん。ただ月の王がなければアガルタは終わる。命令がなくても動くだろう?」

「そうですね・・・」

種の存続がかかっているのだから当然だろう。

「そうだったな。君はアレンを救うためにアガルタを目指していたのだったな。『アムリタ』の効果が確実に出るとは限らんがまずはアレンの問題を解決するか」

「はいっ!!」

見えてきた糸口にルカの瞳は明るさを取り戻す。


だが―――


「ルカ。状況が変わった。アレンのことがばれたらしい」

「え!?」

その日の夜。ソルが部屋に駆け込んできた。

「アレンを始末しろと元老院が迫っているそうだ。クラウスが何とか引き伸ばしを計ってるが、時間はないな」

「そんなっ!!――――」

魔力が尽きるのを覚悟でスキッパーを使って急いでもここからでは三日はかかるだろう。

「長が呼んでいる。とりあえず来い」

走るソルの後について階段を駆け上る。

突き当たりの扉の先――――満天の星空の下、白銀の燐光に縁取られた巨大な竜。

「創世の鍵よ―――」

頭の中に響く声。

「真に望むは救済か、救世か」

「え――――」

訊かれている事の意味は分かる。兄か世界か―――どちらかを選べということだ。

「そんな・・・・」

どちらかを選べなど―――



―――出来るはずがない―――



「すべてです」

真っ直ぐ貫くように溢れ出た声。

「兄も、民も、世界も救う。僕の願いはそれだけです」

それが答えだ。

「望めるものならその全てを―――僕は救いたい。僕に何が出来るのか、分からなくても、何も届かなくても、それでも僕は―――諦めたくはないから」


―――可能性があるなら賭けようよ。滅びが避けられない運命だとしても、目一杯抗ってやろうよ。俺らなら出来るよ


そういってみせたバレルの想いがルカの心に響いている。もう迷いはない。

まっすぐ竜の瞳を見つめ返す。

「ソル―――彼を送ってあげなさい」

「ですが・・・」

「すでに滅びへと向かう世界。我らを縛る枷を外しましょう」

その言葉にソルは頷いた。

「ルカ。あなたのその想いが世界をどう導くか。私はここで見守っていますよ」

「はい」

「よし、すぐに出るぞ。俺はアムリタを汲んで来る。お前は旅装を調えておけ」

ソルはルカの手を引くと階下へと急ぐ。

「でも・・・ここからじゃ」

「俺が送っていく。長もそう言っていただろ?夜明けまでには着くはずだ」

とルカを残して階下へと向かう。

ルカは急いで部屋に戻り旅装を調えているとバレルが部屋に入ってきた。

「アレンのことがばれたんだって?」

「ああ。これから帝都に戻る。お前はここで治療に専念しとけよ」

「俺も行く」

「ダメだ。戻れば戦闘になると思う。万全じゃないお前を連れてはいけない」

「でも・・・」

「大丈夫。必ず戻ってくるから」

バレルの分厚い胸板に拳を突くルカ。

「一緒に世界を救うんだろ?」

「うん」

バレルが頷いたところでソルが駆け込んできた。

「準備は出来たか?行くぞ」

一振りの大剣を背負ったソルは甲冑ではなく普通の服を着ている。

「はい」

ソルのあとについて向かった先は里の縁、岩壁が聳える先に続く細い山道。

「スキッパーを出します」

と懐に手を入れたルカをソルは制止する。

「大丈夫だ。ここから一気に行く。これを預かっておいてくれ」

と大剣をルカに渡した。

ソルが目を閉じてしばし―――額から光が溢れ、一本の水晶で出来た角が現れる。

次の瞬間、ソルの身体が輝き始め全身が光に包まれると、その光がぐにゃっと形を変え大きく伸びていく。

ぐんぐん大きくなっていく光はやがて20尺ほどの大きさになり、一つの形を現した。

翼を広げた竜―――すると内側から裏返るように赤い色が噴出し、光が消えるとそこにいたのは赤銅色の鱗を持つ竜だった。

長老に比べるとかなり小さいが、それでもルカの5倍はある。

「行くぞ」

と頭の中に声が響く。それは間違いなくソルの声だった。

「これが・・・本当の姿なのですか?」

「そうだ。これが我ら竜人の生れ落ちたときの姿だ」

竜はそう言いながらそっと手を差し伸べる。

「乗れ。飛ぶぞ」

その巨大な手に乗ると、もう一方の手でそっと包み込んでくれる。

「しばらく寒いが我慢しろよ」

そして竜は巨大な翼を羽ばたかせて飛び立った。


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