ロキとの再会
三日月亭に着くと、思った通りオリマーは先に来ていた。
「おう、ラウムには会えたか」
「お会いできました。地の王についても有力な情報をもらえましたよ」
「そいつは良かった」
そんな話をしているとバレルが上から降りてきた。
「ルカー、飯にしようぜ」
バレルに促され食堂に行くと、アーシャと、そしてソルがいた。
「ソル様!?」
「おお、久しぶりだな、ルカ」
「どうしてここが?」
「お前に渡したあれは起動すれば私にも分かるようになっているんだ。近くまで来たときにアーシャに会ったんでね、ここで待っていた」
「ロキとジンは?」
「まあ、ちょっとな・・・何分フーラーは体力が有り余ってるんで」
「あぁ・・・」
ソルが言葉を濁したことで容易に察しが付く。気力体力ともに充実、健康な成人男性となれば当然必要だろう。
ルカはそちら方面にはあまり興味がないが、同じように気力体力ともに充実しているバレルには必要だろう。アーシャの目を盗んで送り出すべきだろうか。
そんなことを考えながら席に着くとすぐに酒と料理が運ばれてきた。
「さて、ではまずは再会を祝して」
乾杯が済むとソルは腕を組んだ。
「マルクに会った話はアーシャから聞いたよ。なかなか難しい話になっているようだな」
「勇者たちから魔力を吸いだしてアガルタで開放してしまえば、なんとかなる可能性がある、ということなので」
「まずは『バアル』に接触せねばならん、か。いくつか情報は得たが、確度の高そうな話はまだないな。とはいえあの水晶板の反応からしてシナルアにいるのは間違いないわけだ。もう少し、探ってみるよ」
「それなんですが・・・」
ルカはオリマーを見る。
「ラウムさんにあなたを連れてきてくれと頼まれました。あなたを連れてきてくれれば、地の王のいる山に案内してくれる、と。あなたを3年間、ずっと探していたそうですよ」
酒をあおっていたオリマーはルカから視線を逸らした。
「手続きさえ終われば、あなたは元の生活に戻ることが出来る。そうも言っていました。司法とはすでに取引が済んでいる、と」
「どういうこと?」
アーシャが首を傾げる。
「オリマーさんは無実の罪、というわけじゃないが、仕方なく犯した犯罪で追われてるんだ。オリマーさんの幼馴染はそれを証明して、司法は無実の判決を下すことになってるらしい。だが、裁判が結審しない限りはオリマーさんはお尋ね者ってわけだ」
「俺は・・・無実なんかじゃない。あの男はラウムにとって義父だった。ラウムはあの男の娘を娶って幸せな家庭を築こうとしていた。それをぶち壊したのは俺だ。俺があの男を殺さなければ、ラウムは次期領主だったんだ」
「ラウムさんがそんな立場を望むとは思えませんけど」
「え?」
「ラウムさんはすべてを知ったうえであなたを助けに行ったそうじゃないですか。反逆者になるのを覚悟であなたを助け出したんでしょう?領主なんて立場より、あなたが大切だった。そういうことでしょう?」
ルカの言葉に呆然としたオリマーはグラスを置くと外へと駆け出していった。
「どうしたんだ?」
ルカはオリマーとラウムについての話を簡潔にまとめて皆に話した。
「おそらく、ラウムさんが会った熊というのが『バアル』で間違いないでしょう。二人の問題を解決してくれれば、『バアル』への道は繋がります」
「そういうことか。ホムルズの重装兵部隊というと、イルダのオリバーが隊長だったはずだ。となると・・・ガンツ殿は亡くなられたのか」
ソルが顎をさすりながら遠い目をしていた。
「お知り合いだったんですか?」
「ホムルズの騎士団長だった方だ。同じ騎士だからな、よく手合わせを願ったものだ。只人だというのに卓越した剣技をお持ちだった。戦績は私の負け越しでね、確か生まれはドラゴニアだと仰っていた記憶があるが」
「ドラゴニア?彼のあの銀髪はそういうことですか」
街を抜けてくる間見た人々はほとんどが茶、黒、青といった深い髪色をしている。
「おそらくな。ガンツ殿も銀髪だったよ。しかし・・・残念だ」
ソルほどの人物がそう言うのであれば、剣技、人格、ともにかなりの人物だったのだろう。
「それで、いつごろ片が付くのかしら」
「さあ。司法の手続きがあるだろうし、それなりに時間はかかるんじゃないか?」
「でも、未だに手配がかかってるってことは、放っておくのは危ないんじゃないか?」
バレルの言葉にアーシャも頷いた。
「お尋ね者ってことでしょ?衛兵に気付かれたら―――」
さすがにそれはないと思いたいが、その可能性はたしかにある。
「ちょっと見てくる」
ルカは席を立つと病院へと向かった。
三日月亭を出て病院の方向へ街区を一つ過ぎたところで、人だかりができていた。
「くそっ!!!放せ!!!!」
オリマーの声だ。
慌てて人垣を掻き分け前に出ると、オリマーが衛兵3人に組み伏せられていた。
「オリマーさん!!!」
ルカの声に気付いた別の衛兵がルカの前に立つ。
「お前、あいつの仲間か」
「放してあげてください!!病院の医師のラウムさんに事情を聞いてもらえば―――」
「関係ないな。仲間なんだろ?お前も連行する」
腕を掴まれた瞬間、その衛兵がぶっ飛んでいった。
周囲に立っていた衛兵たちが一斉に構える。
「おいおい、ドラゴニアの法術師団主査殿に何してくれてんだ?」
現れたのはロキだ。
ゴキゴキと拳を鳴らしながらルカの前に立つ。
「貴様ぁっっ!!!」
衛兵が剣を振り下ろしてきたが、ロキは刀身を横から弾くと斬撃を逸らし、衛兵の顔面に拳を埋め込む。
「ドラゴニア帝国近衛隊、3番手のロキ様にそんな半端な剣技が通用するとでも思ってんのか!!!!」
腹の底から響いた声に、衛兵たちは硬直した。
「ドラゴニア・・・?」
「近衛隊って言ってたぞ・・・」
人垣からひそひそと声がする。
「大丈夫ですか?ルカ様」
「ロキ殿・・・ロキ殿こそ、もう大丈夫なのですか?」
「アムリタのおかげで元気100倍ですよ。事情はソル様から伺いました。遅ればせながら、このロキ、ルカ様の護衛に復帰させていただきます」
ニカっと歯を見せて笑うロキは健康そのものといった感じだ。ロキは衛兵たちに振り向くと声を張り上げた。
「こちらのお方はドラゴニア帝国法術師団、主査を務めていらっしゃるルカ=ダライアス様だ。勅命を以ってシナルアへと訪問されている。このお方に危害を加えるのならば、帝国のすべてを敵に回すことになるがそれでも良いのか?」
衛兵たちは完全に顔色をなくしている。
「やっぱりドラゴニアだってよ」
「なあ、ダライアスって・・・」
「あれだろ?昔一人でうちの法術師団を打ち破ったっていう・・・」
かつて、人造精霊を以ってシナルアの法術師団を圧倒したダライアス家当主であったマリル=ダライアスの名はシナルアにも響き渡っているようだ。
「そちらの方が領主殺害の罪で手配中であることは知っています。ですがそうなるまでの経緯も知っています。まずは病院に向かいラウム医師の話を聞いてください。私たちは勅命を果たすために、彼らの助力が必要なんです」
最初にロキに吹っ飛ばされた衛兵は立ち上がると腰が引けながらも
「お前らがドラゴニアの者だってどうやって証明する!!」
と叫んだ。
「やめんか」
突然割り込んできた声はソルのものだ。
「あ・・・あなたは・・・アガレス卿!?」
隊長らしき男が慌てて膝を突く。
「こちらの方は間違いなくドラゴニア帝国のダライアス卿だ。故あってドラゴニア皇帝に進言して私がシナルアに招いたんだ。罪ある者を捕縛するのがそなたらの仕事だが、今回は見逃してくれ。事は急を要するのでな」
「か、かしこまりました!!おい!!全員引き揚げるぞ!!!」
衛兵たちが慌てて引き揚げると、その場に残されたオリマーの横にソルは膝を突き抱え起こした。
「大丈夫か?」
「あの・・・」
殴られたようで、腫れている頬に手を置いたソルは懐かしそうに目を細めた。
「ガンツ殿に良く似ているな。その目の強さも、輝く銀の髪も」
「祖父を・・・ご存知なんですか?」
「私は元、護法騎士団団長のソル=アガレスだ。ガンツ殿とはよく手合わせしていたよ」
「護法騎士!?」
慌てて膝を突いて礼を取るオリマーに
「元、といっただろう?私は大切な時に公主様をお守りできなかった役立たずだ。礼を取る必要などない」
「ですが・・・」
「それより、君の幼馴染に頼みがある。まずは君が置かれている状況を解決する必要があるようなので、微力ながら私も手を貸そう。幼馴染は病院にいるんだね?」
「はい」
「ルカたちは宿に戻っていなさい。後は私の方で話をつけるから」
「分かりました」
ルカが崩れ始めた人垣を振り返ると、アーシャとバレルも来ていた。
「あら、ロキじゃない。半殺しにされたって聞いてたけど元気そうね」
アーシャが親しげに声を掛けるが、ロキは渋い顔だ。
「知り合いだったのか?」
「まあね~。一時付き合ってたんだけど・・・」
「おい!!!」
アーシャを止めようとするロキ。
「マジで!?姉貴と付き合おうなんてなんつー物好きぐほおっっ!!!!」
笑っていたバレルが吹っ飛んでいく。
「フーラーに興味があったんだけどね。やっぱ屈強な男っていいじゃない?でも、まあ、あっちの方が・・・」
アーシャの言葉にロキは頭を抱えて蹲った。
「ま、戒律が厳しいから仕方がないとは思うけどね。初めてだったんだろうし」
「うるさい!!!」
ロキが手を伸ばすがアーシャはひらりとそれを躱した。
「まあ、いいじゃない。さっきまでお楽しみだったんでしょ?」
「行ってんのは兄貴だけだ!」
「あら、真面目ねぇ。溜まってるでしょうに」
アーシャの言葉にロキはため息を吐いた。
「お前、一応、ダライアス家の長子だよな。少しは恥じらいってものをだな」
「恥じらいなんて持ってたら、軍でやっていけないでしょ」
ロキの言葉をあっさり流したアーシャは
「ソル様が動いてくださるなら、すぐ解決するわね。折角こんなところまで来たんだし、私は観光してくるわ」
と手を振って街の中心部へと向かっていった。
「痛ってー」
バレルが腹をさすりながら戻ってくる。
「大丈夫か?」
「本当に凶暴な女だよ。ロキさんはあの女の何が良かったんですか?」
「何って・・・まあ、顔、とか・・・」
「え~、そんなにいいかな?」
「アーシャは常識的に鑑みればかなりの上玉だぞ?容姿も家柄も文句なし、気の強さは減点対象かもしれないが」
ルカの擁護にバレルは口をとがらせる。
「なんだよ~、ルカまで」
「お前が贅沢って話さ。そういうお前だって縁談が腐るほど来てるだろ」
家柄もあるが、バレルは純粋にモテる。屈託のない挙動と、しっかりと鍛え上げられた肉体、意志の強そうな精悍な顔に惹かれている女性は実に多いと聞いていた。騎士として御前試合に出る機会も多く、貴族階級だけではなく庶民にまでバレルに恋焦がれている者が多いという。
「俺は自分が好きになった相手に一生を捧げるって決めてんの」
「お前が好きになる相手ってどんなんだよ?」
「そりゃあもちろん―――」
ルカたちは各々の好みのタイプを語りながら三日月亭へと戻ることにした。




