第九十四話 最終日前日
ごめんなさい、一日遅れてしまいました!
この小犬、インフルエンザにかかってしまいまして……。次回は明後日だと思っておいてくれると助かります。
さて、彼女が何を隠しているのかを聞きだすという俺の目的だが、これを目標に設定した俺はこの先約一週間を似たような生活を送ることになる。
「おい! いい加減口を割ったらどうなんだよ!」
「しつこいですね……あっちへ行ってください!」
「やだよ! 俺はこう見えてしつこいことで定評があんだぜ?」
「見た目通りですし、気持ち悪いです」
「え……」
――強引に言い寄っては気持ち悪がられ。
「な、なあ……? いい加減俺に助けを求めてもいいのでございますよ……?」
「なんですそれは? 尊敬語? 謙譲語? ――そもそも急にそんな話しかけ方をしないで欲しいです」
「じゃあこうかね? もっと偉そうに言ってみればいいのかね!」
「それはそれで気持ち悪い……」
――謙れば気持ち悪がられ。
「げへへ!げへへへへへ!」
「いやあああああああ!!」
何を思ったのかケモ耳美少女に迫り来る悪漢の真似をして鬼ごっこ状態に陥ったことさえあった。
その上それがたまたまお偉いさんたちとの会議から抜け出してきたミサに見られたもんだから、あの日はかなり大変だったな……。
とりあえずミサの説得でその日は忙しかった。
そんな宿屋とビオトープとを行き来する生活も続き、とうとう村長に課せられた”俺たちを信じます期間”の最終日前日を迎えていた。
山賊さんたちが明日までにやってきてくれなければ俺たちは嘘つき呼ばわりをされることとなり、即刻村から追い出される手筈になっている。
元来、俺たちの目的は狂血の姉妹。
詰まるところ俺たちのすることに大して支障はないのだが、ここで過ごした一ヶ月が無駄になるというのもどうにも口惜しい。
それに狂血の姉妹だが、このところ一切悪事を働いていないらしく、ギルドの方にも全く連絡が来ていないらしい。
つまり、彼女たちの手がかりもゼロ。
ちなみに初めに俺たちがタクシーで向かっていた地点は、ただ狂血の姉妹によって行われたであろう殺戮の現場であったというのは後に宿屋でミサから聞いた話だ。
そこで被害があったのであればまだその周囲に彼女たちがいてもおかしくはない、そういった考えがあって俺たちは当初そこを目指していたらしい。
が、今はもうずっと遠くへ逃げてしまっているはずだ。
いつまでも同じ場所に停滞している意味もないからな。
あ、そういえば被害にあった奴らってのも山賊だったって聞いたな……何か関係でも――いや、ないだろ。
そんな深読みをしてる前に、今はただ目の前のこの子と向き合わないといけない。
ビオトープの草原に両手をついて座り込んでいた俺は、隣で子供たちを見ながら薄笑いを浮かべて立つフードの彼女に話を切り出す。
「俺たちな、俺たち明日何事もなかったらこの村を追い出されんだよ」
「知っています」
「そっか」
少しは残念がってくれないだろうかという期待も含めて切り出した話だったが、割とどうでもいいことだったようだ。
いとも簡単にスルーされてしまう。
「山賊たちが来る――と、嘘をついて回っているらしいですね。 ――まるで龍呼びの魔女みたい」
こいつも俺の言うことを信じてはくれないみたいだ。
けれど若干の憂いを帯びた表情その表情にはどこか怪しげな、不安な何かが見え隠れしている気がした。
「はあ。ていうか、なんなんだよ龍呼びの魔女って」
「あら。知らないのですか?」
「初耳だな……教えろよ」
「人に頼むときはもう少しお願いするような形でして欲しいですね……」
彼女は呆れた顔でそう言う。
きっと俺もこの一ヶ月でやさぐれてきてるんだ。
だって誰も信じちゃくれないし……もしほんとに嘘だったら元山賊たちをとっちめに行ってやる。
「昔、龍を呼ぶことができると豪語していた魔女が、いつものように龍を呼んでいると本当に龍が空の彼方からやってきたという話です。毎日龍を呼ぼうとしては何事もなかったので、誰も相手にしていなかったものですから、魔女が龍を呼んだ街は滅んでしまったという……」
「なんか狼少年みたいな話だな」
どうやらあっちの世界――つまり幻世にも似たような話はあるらしい。
それでも話のファンタジーさ的な面で俺は”龍呼びの魔女”の方が好きだけど。
と、そんなことを考えていて、一つ引っかかったことがあった。
「ん? でも龍呼びの魔女ってのは結局嘘が現実になったってことだろ? それに似てるってことはさ、つまり――」
「――ッ! ち、違います! 今のは失言でした、忘れてください!」
いや、この反応は明らかに怪しい。
この子はやっぱり何かを隠している。
そう確信した俺は、彼女に追い打ちをかけることにする。
「俺はここに来る最中に、ここを襲う予定があるってのを同じ山賊のやつから聞いたんだ。だからかなり信憑性のある話だと思ってるし、今も信じてる」
彼女は座っているこちらを見下ろして、まだ何も言わない。
「それにさ、俺のこと……最初会ったとき知らなかったろ? あの時は俺村中を震え上がらせてたのに、その騒動を知らないともなるとお前はまず家からも出てなかったってことになる。普通は野次馬根性で様子でも見に来ておかしくないはずさ。ましてやそのくらいの年齢ならな」
「――――」
「その上、さっきみたいなボロが出ちゃうともう、色々怪しいんだよ。だからこの段階で、お前が山賊に追われてるのはわかった。だから俺はその先、なんでそうなってんのかと、どうして山賊たちが攻めて来ないのかを知りたい」
俺がそう言い終わると、彼女は「はあ……」と一つため息をつき、俺と同様に草原に座り込む。
その表情はいつも通り諦観で満ちていたが、でも少しだけすっきりしているような気がした。
「わかった、話すわ。貴方って凄くしつこいんですもの……私も折れちゃいました。でも勘違いしないでください。これはあくまでも昔話であって、貴方に助けを求めているとか、そんなものでは一切ないので」
残念ながら、意地を張るところは変わっていなかったが。




