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第八話 能力覚醒

 諸事情あり、タイトルがやや長くなりましたが本編には変更はありませんので、ご理解の方よろしくお願いします。


  突然だが昔、瑞希のじいちゃんにこんなことを言われた。



 「陽太、集中を切らしてはいかん。自らの放つ一矢に命を懸けるくらいの気持ちで放て」



 まあ、有りがちなセリフだが、当時の俺にはたったそれだけの言葉が凄く胸を打った。

 なぜなら隣には本当に命を懸けるように、真剣な面持ちで弓を放つ凛とした瑞希がいたから。

 それにその矢はきっちり的のど真ん中を射抜く。

 きっとあいつは周りにどう思われているかなんて知ったことじゃないんだろうけど、傍からすれば「死ぬんじゃねえのかな、こいつ」と思われていただろう。



 結局俺が言いたいのは身内の自慢なんかじゃなくてシンプルに、集中って大事だよねってことだ。

 瑞希くらいに集中を高められれば、上手く事を成せることも多くなるだろう。

 流石に瑞希ほどは厳しいかもしれないけど、それでも



 「って、危なっ!」



 俺の真横を例のでかいやつが通過する。

 戦場をグラウンドへと移した今も、何度も避けては斬りを繰り返しているが、一向に戦況は変わずギリギリだ。

 呑気に回想なんかしてる場合じゃなかった。



 「はあ……はあ……こいつこんなにやっても変化なしとか、流石に萎えてくるんだが」



 相手の方はまだピンピンしている。

 そりゃそうだ。



 レベルの差はだいたい30くらいあるんだから、むしろよくまだ生きてるなってくらいだろう。

 時間が変わらないから正確にはわからないが、体感でだいたい一時間ちょっとは経った気がする。

 俺はもう足がもたつき、息切れもかなり激しい。

 やっぱり俺の圧倒的不利な状況は変わらない。



 滴る汗を無視して俺は剣を構える。

 あちらはもう既にこちらへ突っ込みに来ているので、全力で右へ回避。

 そしてすれ違いざまに斬撃を加えるが、カキーンと弾かれる音がする。

 正直言ってとても効いているとは思えない。



 「くっそが……!!」



 あまりに絶望的な状況にむしろ怒りが沸いてくる。

 なんなんだよこいつ、理不尽すぎんだよ! 一時間掛けてこれとか、もう無理みたいなもんじゃんか……。



 そうむしゃくしゃしていても奴はまたこちらへ向かって来る。

 俺が避けた時に時々校舎へ突っ込んでいくので、校舎はだいぶ滅茶苦茶になっていたりするのだが、俺は断じて関係ない、悪くない。

 学園側も黙ってりゃわからないだろう。



 「ちっ!」



 今回は避けが甘かったようだ。

 初めて攻撃を受けた。

 俺の左の腰のあたりを奴の巨体が掠め取っていった。



 「っああああああ!痛えっ!!!」



 左手を腰に当ててみれば、その手はべっとりとした朱に染まっている。

 これまでの人生において大したケガもなく過ごしてきた俺には、その出血はかなり恐ろしいものだった。



 腰が焼けるように痛い。

 息が切れる。

 足はがくがくと震え、腕はパンパンになり、頭はくらくらして、世界が歪む。



 ――――ああ、なんかもういいや。頑張ったじゃんか、俺。



 ふいにそう思った。

 だって俺だぜ? 平凡な俺がかれこれ一時間以上孤独を感じながら戦い抜いたんだ。

 みんなを守りたかったし、実際に一体なら倒せた。

 だからもう良いよな、誰も責めやしないさ。



 俺は本心からそう思う。



 もう楽になろう。

 まるで突っ込んでくるトラックに身を差し出すかのように、俺は奴の突進が迫る中、避けることを止めた。

 同時に表情なんてわからないのだが、内心奴がほくそ笑んでいるような気がした。いいさ、好きに笑え。

 俺はもう無様に敗者へと成り下がるんだから。



 覚悟を決めた後、俺の脳裏に昔の記憶が蘇った。



 ちっちゃい頃瑞希と遊んでた記憶、小学校でひたすら本を読み漁ってた記憶。

 道場で稽古してた時の記憶。

 中学校の時、意外に上手くやれてた時の記憶。

 ああ、そっか。これが走馬灯ってやつなんだ。ほんとにあるんだなこんなこと。

 そしてこれは確か、俺たちの……出会った時の記憶だ。



 「ねえ、秦瀬君、東野さん」


 「ん?えっと確か、佐原君よね?」


 「そうだよ!覚えててくれたんだ」


 「当前よ、同じクラスだもの」



 ――高校一年生のある日、どうやら同じクラスらしい、可愛い顔した男子が話しかけてきた。

 まあどうせ瑞希狙いのやからだろ。

 これで何人目だ?そう思っていた俺に、ふいに変化球が飛んできた。



 「それでね、友達になりたいんだ。どっちかと言うと……秦瀬君と」



 俺はかなり唖然とした。隣を見れば瑞希も虚を突かれたような顔をしていた。



 そして気が付けば……



 「「‥‥‥ぷっ」」



 俺と瑞希は二人して吹き出し、大笑いしていた。

 だって俺と友達になりたいって! まだあの時はオタクじゃなかったことを踏まえてもおかしなもんだ。

 それに「友達になりたいんだ」なんてストレートな発言恥ずかしすぎだろ! とても俺には真似できないと思ったな。

 あの時のなんで笑ってるの? と慌てふためく悠斗の顔は、今でも忘れられない。



 あれが俺たち三人が、初めて心を通わせた瞬間だっただろう。



 そうだった。

 俺はあの場所を守りたかったんだった。

 心から笑い合えた、通じ合えたあの場所。

 学園という退屈な環境で、唯一居心地の良い場所。



 無限に感じられた時間が終わった。

 奴はもうすぐそこにいる。不思議と痛みは無い。

 剣を握る腕に力が入る。

 動ける、まだやれる。

 何より奴の動きがやや遅く見えたのが何よりの証拠だ。



 俺は気合を込めるつもりで叫ぶ。



 「お前に……あいつらをやらせるわけにはいかねえんだ!」



 そして迫り来たそいつに向けて、剣を突き出した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「はあ……はあ……はあ……」



 気が付くと目の前のあいつは音もなく霧散し、消え去ろうとしていた。戦闘中の記憶がない。どうやって倒したんだ?俺。



 途中で気合を入れ直して、そこからの記憶がすっぽり抜け落ちている。



 残っていたのは圧倒的疲労感にさっきより増していた体の傷、それから今や俺の右手でなまくらと化していた、日本刀だったものだ。



 ――あれ? 足の力が抜けて



 ばたり



 俺はその場に倒れてしまった。

 ゆっくりと視界がフェードアウトしていく。



 俺は勝ったのかな? 勝ててたなら良いかな。

 ここで死んでしまっても悔いはない。

 薄れゆく意識の中、俺は自然とこみ上げた笑みを堪えたが、ボロボロのグラウンドを見てしまうとやっぱり苦笑してしまうのだった。



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 名前   秦瀬 陽太 (ハタセ ヒナタ)


 Lv26

 ・HP   480

 ・MP   270

 ・AP   400

 ・DP   370

 ・SP   530


 種族   人間


 性別   男


 年齢   17


 スキル   『創造』 

 ・使用者のレベルが20の倍数になるごとに、スキルをスキルボードから一つ選び、自分に付与できる。


 『神魔眼』(覚醒) 

 ・任意の相手のステータスとスキル、及びアイテムの情報を視ることができる。『神眼』、『魔眼』の上位種。(覚醒時効果=脳を活性化させ、知覚速度を高速化する)


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 人間は集中力が極限まで高まるとゾーンというのに入るらしいですね! 陽太くんの集中が無意識にそれに到達した、という話です。

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