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世界は異世界を目指した。~20の倍数でスキル無双~  作者: 小犬
一章 特異点は日常系を目指した
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第八十四話 山賊は空で何を見る?

 前話での質問に回答してくださった方々! ご協力心より感謝致します!


 あまり答えてくれる人いないんじゃないかな? なんて思っていたので、大変嬉しかったです。中にはお優しい意見ばかりで、泣きじゃくりそうな愚犬でした。参考にさせていただきますね。

 今後ともよろしくお願いします!




 「「「あ、兄貴ィィィィィィ!!!」」」



 何処へ伸びているとも知れない山中の舗装された道路にて、野郎たちの慟哭が鳴り響く。



 俺の手により空の彼方へ射出された、もとい飛び立った男のいるであろう方向を、取り巻きの連中が目が飛び出るんじゃなかろうかというくらいの勢いで凝視している。

 元々は襲おうとしていた自分たちが悪いのだから、これくらいで驚かないで欲しい。



 男を投げた張本人である俺を置いて、空に目を凝らす彼らはなんだか見ていてこちらが申し訳なくなってくるくらいに悲壮感を漂わせている残党たち。

 ねえ、俺悪くないよね? 正当防衛だよね!? ねえ!?



 なんて俺が少しやりすぎたかな……と額に汗を滲ませていると、



 「あっちゃー。あれは死んじゃっただろうね、確実に。君ってば一体どんな腕力してるのさ」



 タクシーから降りてきたミサが俺に声をかけてきた。

 いや、ぶん殴るのも血が飛び散るから嫌だったし、スキル使ったらここら一帯がどうなるかわからないし……俺にはむしろ投げるしかないと思ったんだが。

 ちょっと力みすぎたみたいだ。



 「でも俺としては真上に投げたつもりだったから、そろそろ落ちてくると思うんだ」



 そう、しかし問題はない。

 今言ったとおり、俺はあの男を真上に投げた。

 それはつまりまたここにあの男が降ってくるというわけで、俺がそれをキャッチしてしまえば全部解決。

 ここにいる皆全員に抱かれているであろう、”血も涙もない男”というイメージを完全に払拭することができるのだ。



 ふと、視線を感じたので視線を空から正面にに移す。

 すると、不思議とさっきまで俺たちを襲おうとしていた残りの賊たち三人がこちらを見て安堵の表情を浮かべていた。



 いや、お前ら俺に期待すんなよ! お前らの兄貴だろうが!



 そう突っ込みたかったのだが、彼らの眼差しがマジに救済を受ける人間の顔だったから止めた。

 小っ恥ずかしいけど、期待されるのは嫌いじゃない俺だ。



 ため息を一つ零して、俺は再び空へ目を向ける。

 さて、そろそろ降ってくるはずなんだが……。



 「――それで? 彼はいつ空の旅から戻るんだい?」



 ミサがこちらへジト目を送ってくる。



 思えば確かに変だ。

 俺の予想じゃ、そろそろ「うああああああっ!!」なんて言いながらあの男が降ってくるはずなのに……って、ああ! 泣くな取り巻きA、B、C! きっと降ってくるから――ってかお前ら賊のくせになんでそんなに俺の罪悪感を引っ掻き回す泣き顔ができんだよもう!



 背中にまで冷や汗を流し、そろそろ本当にあの男が消滅したのかな? という考えに到達しかけたその時。

 ミサが追ってこう告げる。



 「意外と真上に投げたつもりのボールなんかは、少し前に飛んでたりするもんだよ?」


 「ばっかやろおおおおおお!!!」



 俺は全力で地を蹴った。



 目指すは空の彼方!

 そしてその前方!



 山の頂上を超えたところまで一気にたどり着いた俺は、あたりの気配を探る。



 ぶん投げたからは結構時間が経っているので、良く言えばもう既に地面とキス――悪く言えばトマトケチャップになっている可能性だってある。



 「そもそもなんで俺が!」



 襲われた側なのに! なんて言葉はこの際口には出さなかった。

 今はただあの男の気配を探して……。



 「――ぁぁぁぁぁ」


 「聞こえたッ!」



 俺は全力で急降下する。

 てか未だに落っこちてないとかお前どこまで飛んでたんだよ! 投げた奴絶対頭おかしいだろ!



 全力で滑空して、雲も突き抜けて、その先にあった一つの黒点。

 まだ距離があるのでかなり小さく見えるが、おそらくあれがさっきの男だろう。

 俺はようやくその姿を確認したわけだが、ここで思ったことが。



 「速すぎだろ!!」



 一体どこまで飛んでいたのかは知らないが、人知を超えたスピードで落ちていくそれはもうおっこちる寸前だった。

 被害に遭っているあの男がまだ意識があることに少し感動してしまうが、今はそれどころではないと意識を目の前のことに戻す。



 どう考えても間に合わない。



 それがこの現状で俺の言えることだ。



 Eランク冒険者の身分から脱却しようとクエストを受けまくってた時に、俺は”キャベタ菜”っていう、山菜を取りに行くクエストを受けたことがあった。

 キャベタ菜ってのはキャベツとレタスと白菜が混ざり合った、よくわからん野菜のことで、本来はこの地球に存在していなかったもの。

 詰まるところ、異世界要素の一つだ。



 これを採るときに山に入らなきゃならないんだが、なんとその時に俺と同じく空を飛んでる爺さんに出会った。

 この世界ではそこまで珍しいスキルではないらしく、よく郵便配達の人なんかが持っているスキルらしい。

 なんでも何かを運ぶ仕事をする人からすれば最高のスキルだとか。



 そんな爺さんから色々と話を聞いたのだが、その中でこの『飛空』っていうスキルはレベルによって速度や飛ぶ技術というのが左右されるらしい。

 つまり俺のようにレベルが200越え・・・・・・・・・ともなるとかなりの速度が出る。



 しかし、そんな話をしておいてなんだがあれには追いつけやしないだろう。

 かなり速度は出ているし、なによりこうして考えている間にも距離に差が出ている。



 俺の脳裏に、まだよく顔も覚えていない男が地面に叩きつけられる光景が目に浮かんだ。



 「――はぁ、仕方ないか。あんまり人外扱いされると嫌だからこっちに来てから渋ってたけど……ちょっとやりすぎた気もするしなあ」



 出し惜しみを止めた俺は、溜息とともにそのスキルを発動する。



 「――――」



 そんな俺のスキル名も、耳を掠める風の音でかき消されてしまったのだが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「「「「ほんどうにぃ! ごめいわぐをぉ! おがけじましだぁ!」」」」


 「はいはいもうわかったからさ、泣くなって。みっともないだろ?」



 数分後。

 男を連れた俺がミサたちのいる道路に戻ると、取り巻きABCが号泣しながら無事?生還した男に駆け寄り、熱い抱擁を交わし始めた。



 全くホモっ気のない俺からすればそれはただ鼻水を擦りつけ合っているようにしか見えなかったのだが、まあ、喜んでくれているようでなによりだ。



 それから四人が俺にも抱きつこうとしてきたのを俺が全力で断り、ミサがそれに紛れて俺に抱きつこうとするのを彼女の額を手で抑えることで回避し、今に至る。



 「ぶー。別にハグの一つくらいいいじゃないのさ」


 「ボケでもやっていいことと悪いことがあるだろ。そういうのはその……あれだ。好きな奴のためにとっておけよ」


 「――ボクは君のこと結構好きだけどな……」



 何かを呟いたミサ。

 俺の耳には何にも聞こえない。

 聞こえてないったら聞こえていない。



 俺は一旦ミサから離れて賊の四人組の下へ歩み寄る。

 というのも、胸のわだかまりをとっておきたかったからだ。



 「俺たちを襲おうとしてたお前らだけど、まだ特に何も被害を受けていなかったあの状況で、あれは少しやりすぎたかもしれない。だから謝る、すまん」



 よし、言いたいことは言った。

 俺は自分だけスッキリと自己満足ができたので、その場を去ることにしたのだが、しかし。



 「いえいえ! こっちが悪いんす! 山賊なんて外道な真似してる俺らの方がよっぽど糞くらえなんすよぉっ!」


 「うわ、きったなっ!」



 俺の腕に投げられた男がしがみついてくる。



 うわ、にしても顔酷いなっ! 空の彼方へ旅に出たことがよっぽど応えてるんだろうけど、泣きすぎだろ。

 顔だけスライムの身体に突っ込んだんじゃねえかってくらいにはグチョグチョだ。

 とても見てはいられない。



 「俺はどうしようもねえ……クズみたいな人間です! だから謝らないでください!」



 そして空の彼方で何を見たのか、心が洗われているみたいだった。



 それに山賊だと言っていたが、そんなのまで存在するのだろうか……まだ出発して直ぐなのにこんなイベント起きてんだから、これからだって前途多難なんだろうなあ……先が思いやられる。



 「俺たちはもう足を洗います! 親分には悪いが、自分がどれだけ小せえ存在かわかった今、やることは一つ! ――人助けだ!!」



 心洗われすぎだろ……。

 本当にお前に何があったのか俺は気になってならないよ。



 他三人も彼と同意見のようで、うんうんと首を縦に振っている。

 まあ、上手く更生してくれたようならいいや。



 と、俺はそこで一つ気になった事を聞いておく。



 「あ、そうだ。その親分ってやつの指示でお前らは俺たちを襲ったのか?」



 この質問の意図だが、俺たちのことを知った上での計画的犯行なのか、それとも適当に狙ってきただけなのか、これ次第で俺たちの今後の警戒は大きく変わってくる。

 それを見越しての質問だ。



 すると元山賊たちは、



 「いや、俺たちはここの道路を通ったタクシーを襲ってたんす。タクシーに乗ってる奴は金持ちが多いっすからね。あ、もちろん殺しはやってないっすよ!?」



 と言うじゃないか。

 そういうことなら過度に警戒をする必要はなさそうだ。

 俺は今度こそタクシーの方へ体を向け、歩き出し――たのだが。



 「あ、それからあともう一つ!」


 「なんなんだよもう」



 まだ何かあるらしい。

 涙で少し光って見える男が、俺を呼び止めてきた。



 「ここの近くにある村を近々襲う計画があるらしいんす。なんで、くれぐれも近付かねえようにしてくだせえ。ま、あんたの力ならそこまで気にする必要もなさそうですが」



 ――だ、そうだ。

 しかし、俺たちにしてみればあまり関係のない話だったので、特に何も思うことなく再びタクシーの方へと足を向ける。

 あーあ、全く本当にどうでもいい話を聞いちまったもんだぜ。

 早く行かないとそろそろ空気になりつつある勇敢な運転手さんがお待ちかねだ。



 い、言っておくけど、俺は別に村のことなんてなんとも思ってないんだからねっ!?



 俺とミサを乗せたタクシーが、元盗賊たちに見送られながらもようやっと出発した。


 

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