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世界は異世界を目指した。~20の倍数でスキル無双~  作者: 小犬
一章 特異点は日常系を目指した
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第八十一話 戯の者たち


 もう何度言ったかもわからないが、世界停止以降世界は大きくその姿を変えた。



 元より存在していた住宅街や空き地が残っている所もあれば、意味のわからないダンジョンがまるで土地のデータを上書きするかのように森林等を潰して現出したり、突如として幻想的な島が生成されたり、その変容っぷりも様々だ。



 こうした変化は人々にある種の混乱を与えたわけなのだが、しかしそれは何も悪い影響しか及ぼさなかったというわけではない。



 というのも、世界に根ざしていた科学の技術は当然残っており、我々人間が長い年月を積み重ねて築きあげた文明が失われたというわけではなかった。

 なので、新たに発生したダンジョン、鉱山、洞窟、そこから採れた未知の物質は更に第一第二の世代の科学者たちを沸かせることとなったのだ。



 また、僅かな時間であっても世界の混乱をも忘れさせてくれる、まるで異界のような絶景の数々は人々の中に感動を与えた。



 そうして世界が変化する中、特に変化することなく……いや、ある何点かを除いてほとんどそのまま残った建物である”時之宮ときのみや学園”は、今や戯天の根城と化している。



 この学園のような、変化に潰されていない建物は決して珍しいわけではない。

 それでもここまで大きな建物が無傷だったというのは家が潰された近隣住民たちにしてみれば当然嬉しいことで、先程時之宮学園は戯天の根城だと言ったが、実際のところ此処は時之宮と称されるようになり、主に家を失った者たちと戯天の配下の人間たちが暮らすコロニーのようになっている。



 ガッ、ガッ、ガンッ



 さて、そんな時之宮の中庭では、戯天の兵士たち――戯兵ぎへいたちが剣術の訓練に明け暮れていた。



 「はあっ!」


 「らあっ!!」



 全力で剣と剣をぶつけ合う、鈍い音が響く。

 対人戦の訓練を行っている彼らは安全のために木刀を振るってこそいるが、その目は酷く真剣で、誰もが相手をねじ伏せる為に剣を振るっているのだというのが見て取れた。



 はっきり言ってこれは恐ろしい光景だ。

 考えても見よう、たかが練習であるにも関わらず、相手を全力でねじ伏せにっているのだ。

 例え手に持った武器が木刀であったにしても、下手をすれば痛いとかいう話では済まされない。



 「そこまでっ!!」



 しかし、鉄製の煌びやかな甲を被ったこの訓練の責任者と思われる中年の人物が、その巨漢に似合った逞しい声で訓練終了の合図を告げると、



 「ふー、疲れたな」


 「お前また強くなったんじゃねえか!?」


 「なんか腹減ったな」



 先程まで立ち込めていた緊張は解け、戯兵全員が落ち着いた、晴れやかな表情を見せていた。

 初めてこの光景を見たものであればその雰囲気の違いに目を剥くだろうが、彼ら戯兵たちからすればそんなことは一切気にもならない。

 目の前の戯兵が今の今まで自分を全力で攻撃してきていたということも、気にならないどころか、寧ろ互を讃え合う。

 そんなにわかには信じ難い常識が、彼らにはあったのだ。



 そうして疲れきった戯兵たちがそれぞれの体を休めていると、時之宮の中からカツ、カツと小気味よい音を鳴らしてこちらへやって来る者がいた。



 「戯天様!憐天様との会談お疲れ様でございます!」



 その人物の来訪に気付いた戯兵の一人が、ここへ訪れた人物である戯天に声をかけ、それから頭を下げた。



 すると、その声を起点に他の戯兵たちまでもが戯天に対して労いの言葉をかけ、そしてお辞儀をする。



 結果的には中庭で休憩を行っていた全ての戯兵がある一点の方向、つまり戯天の方へ向けて頭を垂れている構図が生まれたわけだ。

 また、それこそが時之宮での戯天の立場というのを如実に表しているとも言える。



 「菅谷すがや戯長。少しいいでしょうか」



 やって来た戯天は、戯兵たちに頭を上げるように言い、その後で訓練の制止の合図をだした戯長とやらに声をかけた。

 その呼びかけに、菅谷と呼ばれた男が戯天の下へと駆け寄ってくる。



 「どうされましたか戯天様?――と、聞きたいところですが、私は貴方の聞きたいことについてあらかた見当が付いています。東野瑞希副戯長のことですね?」



 出会い頭にそう話した菅谷。

 しかし、その読みは間違っていなかったようで、戯天は肯定の意を込めてただ首を縦に振る。



 「そうなんだ。あれだけ様子がおかしかったら菅谷さんも、それどころが時之宮で瑞希ちゃんを見た人間なら誰しもが気付くと思うよ。あんなに焦ってる瑞希ちゃんを見るのも、あんなに感情の変化に富んだ瑞希ちゃんを見るのもかなり久しぶりだからね」


 「ええ。それほど今回の狂血の姉妹ブラッディ・シスターズの件、責任を感じているのでしょう」


 「うん、というかそれ以外に考えられないよ」



 一度会話が途切れ、二人を沈黙が支配する。

 少し近くでは仲睦まじく会話に花を咲かせるクラスメイトたちの声が二人を包む沈黙によってよく聞こえ、戯兵として戦いに備える彼らにいつも通り少々の申し訳なさを感じてならない。



 というのも、時之宮で働いている者の多くは、時之宮学園の学生だからである。

 紆余曲折あって、世界が乱れに乱れたわけだが、その際動いた数々の大陸のうち日本というのはここ、レストール公国に落ち着いた。

 故に、世界にいる日本人のうちほとんどはレストール公国にいると言っても良い。


 

 そんな彼らを先導する役割を戯天が担ったわけだが、それも彼だけでは務まらない。

そのため戯長と副戯長なる存在が戯天のご指名のもと生まれたのだが……そこで問題となったのが、副戯長候補に挙がった東野瑞希の人格についてであった。



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