閑話その2 サンタは殺戮王なのか
メリークリスマス、ということで閑話です。本編から話は逸れますが、楽しんでいただけると幸いです。
本編の続きも現在書いてます。もう少しお待ち頂きたい!
――これは本編の内容から少し遡った、俺とリザが絶海の孤島を脱しようと日々奮闘していた頃の話。
「突然だがリザ。赤い帽子かぶって赤い服着た、赤一色のクソジジイのこと知ってるか?」
「ええっ!?陽太くんのいた世界にはいるんですかそんな恐ろしい老人が!?」
「いや、別に恐ろしくはないし、今もきっとその辺を彷徨いているであろうアレたちの方がよっぽどこえーよ?」
そう、こんなのどかな会話をしている俺たちではあるのだが、これはもう正直慣れによるものだったりするわけで。現に今だってそこいらにはアレが蔓延っている。
今アレらに見つかっていないのは俺がここへ来るまでの道中に得たスキル『気配遮断』を使っているからだ。
このスキル、名前こそシンプルなものだが効果の方は絶大なのだ。なんと驚くことなかれ、匂いや音まで消えてしまうのだ。その上俺が触れた相手も同じ恩恵を得られる。これについてはリザがその効果を身を持って体現してくれたので信じてくれていい。俺を見失った時のリザの慌てっぷりったらもう……。あやすのが大変だったものだ。
それなら、そのスキルを使って森を突っ切ればいいじゃんって思うでしょ?甘い。甘いんだなあそれが。ここの森は外へ行けば行くほど敵が強くなっていくんだが、正直ほとんどの敵が俺よかレベルが高い。なんせそこらの敵を倒してレベルが上がってもまた進めば倒した敵より強いのが来るんだから。そうなるとリザのスキルでレベル半減させなきゃ正直な話勝てない。
そしてこの『気配遮断』のスキルは自分よりレベルの低い相手だと効果がないときた。これがこのスキルの致命的なところなんだよな実は。
つまり俺たちがゆったりしているここはたまたま周りの敵のレベルが俺より低い、人呼んで”セーフゾーン”なる所になるわけだ。時々こういう所があるので、その度にがっつり休憩している。
「それで、その血塗れのお爺さんがどうしたんですか?」
「――サンタの印象が凄いことになってるな……。ま、いっか」
良くはない。しかしサンタというのは、クリスマスなんていう忌まわしいイベントの中心にキリストと共に立つ人間と言っても過言ではないと思う俺は、取り敢えず放っておくことにした。
「その血塗れのお爺さんがな?夜になると煙突から家に入るんだよ」
「不法侵入じゃないですか!」
まずい、リザの中のサンタがますます非行に走っている。
「いや、まあ、そうだな。侵入って言ったらまあ侵入だな……」
いや、でも言い方が悪いんだよ。もっと柔らかく表現できないかな?
「そんな危険なお爺さんは野放しにできませんよ!勿論捕まったんですよね?」
「いや、サンタが逮捕されたとか聞いたことねえな」
「三太!?三太さんと言うんですね!?三男なんですね!?」
知らねえよ!サンタが三男とか知らねえよ!どっから来た三男!
「まあ、もういいやサンタは」
「そんなあっ!気になりますよーっ!」
これ以上サンタの話広げると話が続かねえからな。俺は話を進める。
「そんでまあ、そいつが来る日には木を飾り付けたり、鳥を焼いたりしてな」
「木を飾り付ける!?三太に殺されるかもしれないんですよ?どうしてそんなにのんびりしているんですか!それに……鳥を焼く!?何の呪術ですか!というかどうしてサンタが家にやって来ることを知っているんです!意味がわかりません!」
ああ、そうか。俺未だにクリスマスって単語出してなかったな。通りで反応がおかしいわけだ。そこで俺はリザにクリスマスの説明をしてやることにする。
「まずな?クリスマスっていう日があるんだよ。その日にサンタが来ることが決まってて、だから皆それに合わせて色々と準備を進めるわけよ!」
しかし、ますますリザの表情が凍りつく。
「あれ?俺何かおかしなこと言った?」
「それはそうですよ……もう、さっきから色々とおかしいです……どうして家に三太が来ると知っておきながら武器の準備もせず木を飾り付けるんですか?もう、それは正気の沙汰ではありませんよね?」
「正気の沙汰じゃないって……喜ばしいことじゃんか、サンタが来るって」
「サンタが狂って……?ひょっとして皆さん自殺願望が――」
「ねえよ!?ええ!?待って?どこだ?どこでおかしくなった!」
正直『気配遮断』なかったら死んでた騒がしさだったね、これは。
そうしてこの後も、俺の必死の説明は続いたのだった。
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「――っていうわけで、別にサンタは”殺戮王”三太・デスゴールではないんだよ」
「なるほど!通りで陽太くんの話が狂気で満ちていたわけです」
そんな説明したっけ?”みんなのサンタクロース”が、”二つ名持ちで死神とのハーフ”になるような説明したっけ?
そう思ってしまったが、結果的に見ればそうなってしまったのも俺がリザの中のサンタを血塗れのお爺さんのままにしてしまったせいなのだろう。まさに因果応報というやつなのだろうが、しかしそれにしても……。
俺がリザのとめどない想像力に最早恐怖を感じていると、リザがこちらへ笑いかけてきた。そして徐ろにその口が動く。
「なんだかサンタって陽太くんみたいですよね」
「殺戮王?」
「そっちじゃありませんっ!――でもまあ、確かにそっちの意味も否定できないですけど……」
あれ?否定してくれないの?そんなに戦闘狂ってわけでもないはずなんだけどな……。
「陽太くんは、サンタさんとおんなじで幸せを配ってくれます。きっと陽太くんは元いた世界でもそれをしていたはずです」
「――うん。ノーコメントで」
クラスにおいて俺がそんなことをした記憶は微塵もないが、そこは黙っておこう。
「ふふふっ。だから陽太くんは私のサンタさんなんです」
可愛くこちらへ笑いかけてそんなことを言うリザ。心なしか顔は少し赤い。
「――ん。まあ、そうだな。俺がいないと皆に幸せが行き届かないみたいなところは確かにあ――」
「何もそこまでは言ってないですけど」
「ねえ、調子乗らせてあげてよくない?少なくとも乗ってもいい流れじゃなかった?」
照れ隠しに調子に乗ると、すぐにリザに釘を刺された。もうちょっと優しくしてされてもいいと思うんだけどな……。
「では陽太くん、行きましょう!もう半分くらいは来たような気がしますし!」
「だな!俺たちの戦いはこれからだ!」
「――なんだかその言葉からは良くないものを感じます」
そんな茶番を一通り繰り広げて、俺たちはまた孤島脱出のため死地に赴くのだった。




