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世界は異世界を目指した。~20の倍数でスキル無双~  作者: 小犬
一章 特異点は日常系を目指した
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第七十話 強く在りたい彼女の強くない今

 ついに七十話ですね。実は最近一話から少しだけ読み直してみたのですが、あまりの酷さに驚いた私です。それでも読んでくださっている方々、ほんとに感謝しています。これからもよろしくお願いします!


それから過去の話でここ分かりづらいよ、とかいうシーンがあればお伝えしてもらえると助かります。

 その草原では青色のドロドロが降り注ぎ、場にいる殆どの人間がそれらを一身に受けながら、ただただ呆然としていた。元凶はもちろん、俺だ。



 「あ、あれ?まさかこんなに飛び散るとは思わなかったな」


 「へ?な、何が起きたのだ……?」



 そんな状況に未だ俺の腕の中にいるドロシーが呟く。いや、何が起きたのだって……テラ・スライムが俺のスキルによって爆死したよ?



 目の前の光景が信じられないのか、普通に考えれば俺がやったのなんて一目瞭然なのに気付いてくれないドロシー。だがそれも見た感じ彼女だけではない。他の冒険者パーティーもきょとんとしたままで、思考が止まっているようだった。なんかデジャヴだな、学園の時の。俺は故郷を思い、若干黄昏かける。が、



 「陽太くん!!」



 そんな俺のブルーな時間も唯一の理解者でありパートナーのリザによって奪われる。あれ、というかなんか怒ってないか?あれ。



 「確かに私はいってらっしゃいと、快く陽太くんを送り出しました。で・す・が!もっと他に倒し方はなかったんですか!見てくださいこれ!服がドロドロのグチョグチョですよもうっ!」


 「あ、ほんとだ。ドロドロのグチョグチョだ」


 「どうしてそんなに他人事なんですか!陽太くんに非があるんですよ!?」


 「いや、てっきりリザなら楽勝で避けられると思ってたからさ」


 「スキルを使っていない時の私のレベルは1です!」



 あー、これは結構怒ってる。そりゃあ女の子だし、身だしなみには敏感だよな。



 「ごめんごめん!それに俺自身もここまで弾けるとは思ってなかったんだよ。つまりは不慮の事故なんだって!」


 「まあ、もう過ぎたことですし許容してあげますけど……。それより陽太くん。その腕の中にいるドロシーさん、凄く女の子の顔してるので、離してあげてください」


 「女の子の顔?」



 よくわからないが、リザの言う通りに俺は自らの腕の中を見る。



 「――――」


 「――ええっと?ドロシーさん?」


 「――うん」



 そこには未だに俺の顔を見て惚けたままのドロシーがいた。いつまでこうしているんだろうかこの人。それに俺の呼びかけに対しても今までみたく「触るな貴様!」みたいに言ってこないし。多分だけど、相当困惑してるな。



 なんせ先程まで死地に立っていた彼女は、テラ・スライムの触手――絶対的質量を前に今まさに死ぬかも知れないという危機的状況にあったのだ。それが気が付けば使い物にならないと馬鹿にしていた男の腕の中にいて、それも問題のテラ・スライムは鈍い光とともに突然爆ぜ、降ってきた雨のようなそれの残骸をその男はいとも簡単に避けたのだ。



 ――あれ?いや、今自分でも言ってて困惑したぞ。何やってんだ俺。そりゃあドロシーも戸惑うな。



 「先輩、何が起きたかわかります?」


 「――死ぬ、とはっきり思った」


 「え、先輩?」



 俺の腕から解放されると、急に俯いて何かを唱えるように呟きだしたドロシー。一瞬俺を滅ぼすための呪文かなにかかと思ったが、それにしてはどこか様子がおかしい。



 「リザやCランクのパーティーの人たちを……そしてついでのついでに貴様のことも、守れないかと思った」


 「ついでのついでかぁ……」



 なんか平常運転なのだろうけどやっぱ少しだけ傷つくよね、それ。



 「私は……弱いから」


 「――っ!?」



 だからそんな平常運転の彼女からその言葉が出たことに、俺はもちろん隣で聞いているリザも驚く。彼女の態度から、まさか自覚があるとは思っていなかったからな。だから俺とリザは真剣な面持ちで、彼女が新たな言葉を紡ぐのを待つ。



 「それ故Dランクから昇格の目処も立たず、それでもと見た目だけ着飾って、それで色んな人に強い人だと思われた」


 「うん」


 「私は強く在りたかった。流れない時の呪縛から解放されて世に出てみても、二世代には無理だ。引っ込んでろ、なんて言い放ち、数少ない一世代の人間たちにはその力に心酔し、我々を疎むものも大勢いたから」


 「はい」


 「見返してやりたいと思った。二世代の人間がここまで強くなれるって……!――見せてやりたかったんだ」



 その時、ふいに俯いていた彼女がこちらを見上げた。目にはたくさんの涙を溜めて。



 そんな彼女の悲痛な表情が、俺にはむしろ人間っぽく見えた。これがきっと本当のドロシーだ。強く在りたいと思い、その結果見た目だけでも強く取り繕う。傍から見れば強者になりきれているかもしれないが、その実彼女からすれば纏った殻はもうボロボロだったのだろう。



 「だが……ふっ。笑うがいい。私はこうして一向に強くなれていないのだ。それどころかリザたちに先輩面をし、調子に乗って死なせるところだった。だから――本当にすまない。私のせいでリザたちの冒険者への信用が下がってしまったのは当然のことだ。騙していたこと……心から謝罪する」



 そう言って座り込みながら頭を垂れるリザ。うわ、ここまで変わられるとかなりやり辛いなおい。さっきからかなり弱音ばっか吐いてるし。



 俺はそんな気落ちしているドロシーの目線までしゃがみこむ。そこでドロシーの方は何事かとこちらを見るが、俺は構わず話を始めた。


 

 「確かに、先輩は弱い」


 「なっ!?」


 「それはもう、初めて見たときは驚いたもんだ。こんな人いるのかよって素直に思ったし、それなのに強そうに振舞う先輩の気持ちが俺にはてんで理解できなかった。――正直頭おかしいのかなとさえ思ったな」


 「おいきさまっ!!そこまでじゃないだろう!?」


 「ぷぷっ」



 しょんぼりしていたくせに顔を赤くして抗議してくるドロシーを見てか、横からリザの笑い声が聞こえる。気付いたのだが、この人凹んだ時と普段とのギャップが違いすぎて結構面白い。今後も定期的に弄ったほうが良さそうだ。



 俺はこみ上げた笑いを堪え、話を続ける。



 「でも、諦めの悪さは滅茶苦茶伝わってきたんだ。先輩、俺たちに格好悪いとこ見せまいって頑張ってたじゃん。守ってみせるって、頑張ってたじゃん」

 


 ハッとしたような顔でこちらを見てくるドロシー。戦闘中はその諦めの悪さに疑問すら抱いていたが、こうしてドロシー自身の本音を聞くとそれも頷けるな。



 あんなに何人もいた冒険者の中から偶然であったとしても自分が選ばれたのだから、そりゃあ張り切るだろうし、自分の就いてる仕事をこんなにも素晴らしいと誇るためにはそれに見合った行動を取らななければならない。ましてやそんな状況で怪我等負わせてはお話にならないわけだ。



 そう考えれば彼女の努力も葛藤も、概ね理解できたし、むしろ今では俺たちに希望を見せようとこんなにボロボロになってまで戦った彼女がひたむきで、可愛く思えた。だから、



 「だから俺は、先輩に連れてきて貰えたことに心から感謝してる」


 「ええ、私もです。こんな予測できない事態も起こるんですね。勉強になりました!」


 「ぎ、ぎざまら……」



 ああもう、目に溜まってた涙が決壊しちゃった。めっちゃ泣いて――って、ええ!?そんなに泣く!?目から大粒の涙を流す彼女に、俺は少々戸惑う。



 「それから――きさま」


 「はい?」


 「助けてくれて……ありがとう」


 「――どういたしまして」



 本当にどうしてしまったのだろうか。泣くのに大変そうな彼女が小声でだが確かに俺に向けてお礼の言葉を告げたことに、つい驚いてしまう俺。



 これが本来のドロシーの姿なのだろうか。まだ出会って間もない俺にはよくわからなかったが、そんな彼女の姿も、男嫌いな普段の彼女も、どちらも本物のような気がした。



 「よし……!では、帰ろう!エストリアへ!」



 するとしばらく泣きじゃくって涙も枯れ果てたのか、すくっと立ち上がってまたも偉そうにドロシーが指示をしてきた。どうやら今までの調子に戻るらしい。



 そこで、切り替えの激しさに若干呆れつつもまだちょっかいをかけ足りていなかった俺はリザを手招きして呼び、



 「なあ、あの人ここに来るまでの道中でもかなりクールぶってたけど、内心ではかなりはしゃいでたってことだよなあ?」


 「ええ、そうなりますね!」


 「やめろおっ!聞こえてるんだぞきさまらぁっ!!」



 そんな楽しい先輩も一緒に帰路に着いたのだった。


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