第六話 再び、脱出へ
やる気がチャージされた作者は、今晩にもう一話投稿をするかもしれません。よろしくお願いします。
俺はもと来た道を引き返す。もう奴の姿を視認出来るほどの距離まで近付いている。目標は奴をねじ伏せての学園脱出だ。
手に入れた日本刀がどれほど役に立ってくれるかはわからないが、少しは期待したいところだ。
ちなみに俺には剣の経験など毛頭ない。
そういう武器を扱うものでは、一時期瑞希のじいさんがやってる弓の道場、確か東野流弓術だな。
それを習わされたことがあったが、ある程度で辞めてしまった。
瑞樹にはやはり才能があったが、俺にはそれがあまり見られなかったからな……。
そういえばあん時は瑞希、かなり粘り強く俺が辞めないように説得しようとしてたな。
しまいには今にも泣き出しそうな顔で「なんでもするからっ!」なんて言い出したし。
そんな昔のことを思い出していると、ふと瑞希に助けを求めたくなった。
あいつはいつだって俺の味方になってくれていた。
だが、肝心な今に限ってあいつはいないし、悠斗だってそうだ。
一体いつになったらこの謎めいた時間に終わりが来るのだろう。
それに俺はまたあいつらに会えるのだろうか。
「だめだな、俺も強くならなきゃ」
ただ周りを心の中で見下すだけの弱虫な俺は、助けを求めたりするんじゃなく、むしろ俺の大切なものをみんな助けて守ってあげられるくらいに、強い存在になりたい。
その為にも俺はこいつを越えて一歩でも強くならなければ。
目の前の、全くもって正体不明なこいつを倒すことで。
「おい、謎の生物。リベンジマッチだ。叩き斬ってやるからかかってこい」
俺が話しかける。
こちらに気付いたのか、目があった、そんな気がした。
そしてその直後相手から仕掛けてくる。
突進してくるようだが、それよりも俺の速さの方が上だ。
ここは危なげなく右に体を反らせて避ける。
すると今度は暴れ狂う牛のようにUターンをして再度こちらへと突っ込んできた。
前に見たこいつのステータスでは確か攻撃力が高かったはずだ。
だが、こんな安直な攻撃なら避け続けることも可能だ。
つまり、
「勝てないこともないってことだな!」
攻撃が読めていた俺は避けるのと同時に日本刀を横薙ぎに振るう。
すると、
キイイイイイイイイイイイイイイイ!!!
こいつの体からは血液こそ出なかったが、感触と奇声で俺の攻撃が命中したことを確認する。
どうやら血液という概念がこいつには存在しないらしい。
甲高い悲鳴のようなものを上げてその場に留まった。
「どうやら効くみたいだな」
勝利への兆しがよりはっきりと見える。
俺はうずくまっているように見えるそいつに対し日本刀を振り上げる。
「終わりだっ!」
刹那、そいつは急に身を翻して斬道から少し逸れた。
そしてまた突進の態勢へと移行する。
これは流石にまずい。
こいつの攻撃力と俺のHPを考慮すればひとたまりもなさそうだ。
こうなりゃいちかばちか。
「っるあああああああ!!」
ノロマなこいつに唯一勝る俺の俊敏さと、この日本刀の殺傷力を信じた俺は、ダメもとで渾身のカウンターを放つ。
……痛みはない。
つまり俺の剣はこいつが攻撃するより速くその身を断ったようだ。
そいつを見ると、姿がだんだんと薄くなっていき、そして消えた。
死体まで残さないらしい……とことん未知だな。
しかし何はともあれ、
「勝ったのか……」
Lv1の俺がLv11を相手に勝利したんだ。
神経がすり減ってしまった、今はもう休みたい。
そしたらここを出よう。
街の様子、家族の無事を確認しに行こう。
その後でなんとしてもこんな状況から抜け出してみせるんだ。
そう考えたときふと、俺は思い出した。
忘れちゃいけなかったあの光景を。
あの時は焦っていてよく考えていなかったが、今ならわかる。
あれは残しておいちゃいけないんだ。
なぜならあれは確か……。
人を包み込むようにして、飲み込んでたんだ。
「くっ!」
残していちゃいけない。
勝ち目がなさそうだからと挑もうとすらしなかったもう一体。
あれを残して俺がここを去れば、悠斗は?瑞希はどうなる?
ひょっとしたらあの時の俺の知らない生徒みたいに飲み込まれてしまうかもしれない。
学園にはたくさんの人がいるが、その不運があの二人に降りかかってもおかしな話じゃない。
だとしたらどうする。
俺に限りなく勝ち目がないとして、スキルも役に立たないとして、それで俺はどうする? 不運なんて言葉で済ませる結果でいいのか? そんなことは聞かれるまでもない。
さっき決めたじゃないか、みんな守るって。
「やってやるさ。危険因子は排除すんのがセオリーだ」
弱者なら弱者なりのやり方で、命を投げ打ってでも必ず葬ってやる。
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