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世界は異世界を目指した。~20の倍数でスキル無双~  作者: 小犬
一章 特異点は日常系を目指した
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第六十六話 え?友達だって?


 クエストの受注ができないことが判明した。理由は単純で、冒険者免許証がないからとのこと。



 そこで俺とリザの二人は再びギルドの一階へと戻り、ここのギルドマスターである”ミサ・ミタニ”のもとを訪れることにした。真っ白さんの話を聞くに本来ならそれの発行というのは普通のギルド職員が行うらしいのだが、俺たちも事情が事情だ。そのへんを考慮してきっと彼女自らが作成してくれているに違いないと、そう踏んだからだ。



 さて、それで真っ白さんに言われた通りの道を進み、俺たちは一つの部屋の前に立っているわけだが、中からはカタカタとキーボードを打つ小気味よい音が聞こえてくる。その事務的な音に、少しだけ気が引き締まるのを感じる。



 あの人、凄く戦い慣れてるように見えたから常に仕事に行って汗水流してるイメージがあったんだけど、ひょっとしたら認識を改めないといけないのかもしれないな。意外と事務的なことなんかもするのかも。そんなことを思っていると、リザが勝手に扉を開けてしまった。



 「マスターさん――うわあ……!」


 「どうした……って、こりゃあ凄いな」



 開かれた扉の先では、入って右手の側面に貼り付けられた大きなモニターへ向かう形で何列にも並ぶ机の数々。見た感じとして最初に俺の脳裏を過ぎったのは警察本部の通信司令室。つまりはあれだ、110番通報をしたら繋がるあそこ。それを思わせた。



 そこでは今の例え通り電話で対応する者もいれば、キーボードに何かを熱心に打っている者もおり、二階で見た冒険者たちとは雰囲気が全く違って見える。とてもじゃないが同じ建物に存在していることに違和感するようには思えない。



 「陽太くん、マスターさんってどこにいらっしゃるのでしょうか」


 「あ、そうだな。目の前の光景に目的を忘れちまうところだった」



 しばしの静寂を破ったのはリザだった。正直、ミサを探すという目的を忘れかけていた俺は目を凝らして並んでいる席の数々に座る人の顔を一通り見てみた。人数としては二十名くらいだろうか、つまりそこまで骨の折れる作業ではない。しかし、



 「――なにしてるんだい?」


 「うおおっと!?」


 「えっ?」



 後ろから誰かに肩を叩かれた。仕事をする彼らを邪魔しないよう、ひっそりと気配を消していたつもりだったため驚いた俺はがばっと振り返り、その声の主を確かめる。



 「そんなに驚かなくても……別にあたしは幽霊でも何でもないんだから、少し傷ついちゃうなあ」



 すると、そこにいたのは今日激しく戦闘を交えたこのギルドのマスター、ミサだった。結局は俺の完勝だったわけなのだが、一体どこから現れたのか気が付けば俺の背後を取っているところ、なかなか侮れない。



 しかし、背後から現れたとなればミサは俺たちが今さっき入ってきた扉から入ってきたことになる。真っ白さんの話ではここにいるとのことだったのだが、何かしらの手違いが起きたのだろうか。俺はミサに問いかける。



 「今までどこにいたんだ?真っ白さ――二階にいる全身真っ白の男からミサは一階のここにいるって聞いてたんだけど」



 てっきり俺たちの冒険者免許証の作成を行ってくれているのでは、等と考えていた俺にはそれがわからなかった。それに対してミサは、



 「真っ白な男――リチャードのことだね、きっと。それでそれのことなんだけど、君の冒険者免許証を作るのに少し移動しなきゃならなくてね、それで少し席を外してたんだよ。えっと……それで?君たちの方こそどうしたんだい?こんなところで」



 あの真っ白さんは、リチャードというらしい。そういえば名前聞いてなかったからな……もう真っ白さんで固定されるところだったぜ。やはり俺たちの冒険者免許証を作成してくれているという予想は外れていなかったらしい。思えば俺に負けてからというもの、彼女のスピーディーな行動に俺は少し感動すら覚えていた。そこは流石ギルドマスターとでも言ったところだろうか、潔さが凄い。



 「いや、その冒険者免許証ってのがいつ出来るのかなあって気になったから、それで。でももう作り始めてくれてるってことは案外早く出来上がんのかな?」



 というのも、それがないと俺たちはいつまで経ってもクエストが受注できない。もっと某モンスターを狩るゲームのように、サクサクいけるものだと思っていた俺にはこの待ち時間というのはかなり歯痒いものであった。



 そんな俺の発言に、少しだけミサが顔を顰めた。何か問題でもあるのだろうか。



 「申し訳ないんだが、そう簡単には終わりそうもないんだ。どうも君たちの素性を隠しながらというのは難しくてさ……申し訳ない。でも七時には終わらせるから、それまで待っててくれないかな」



 七時……日の沈まないこの世界において、時間の概念を思うと少しおかしく思えてくる。どうやら聞いた話によると時計を第一世代の誰かが作り、世界の時間はそれに合わせているらしいのだが、俺自身ここに来てからまだ一度もその時計をお目にかかっていない。つまり、現在時刻だって知らないのだ。



 「ミサ、そもそも今って何時なんだ?」


 「今が……十七時だ。ほら、モニターの端っこに書いてあるだろう?つまり半日後にもう一度ここに戻ってきて欲しいと、そういうことだよ」



 十七時っていうと、本来なら夜だな。それでも外は太陽がギンギンと街を照らしているのだろうが、それを指摘するほど俺のこの世界での生活は短くない。



 「ああ、わかった。半日くらいなら全然待つよ。ありがとな、ミサ」



 俺が頑張るミサに感謝の言葉を告げると、彼女は少し照れたようにして、



 「いや、あたしが負けたんだからそれくらいするのは当たり前のことさ!気にしないで欲しいな!」



 弾んだ声でそんなことを言った。こんなところを見ていると、ただの可愛い女の子……というよりも女性だな。そのようにも見える。まあ、実際はこの街で一番ってくらいの実力者なのだが。



 「そんじゃあ、何して時間を潰そう。クエスト受けらんないから、街でも回ってみるか?」


 「そうしましょうか。何かお買い物でも出来るかもしれませんっ」



 ということで、街の散策を始める空気になっていたところで、ミサが少し不思議そうな顔でこちらを見ていることに気が付いた。どうかしたのだろうか。



 「ミサ?」


 「ん、ああ、いや、リチャードに聞かなかったかい?お金が欲しいってよりも体験って形でただクエストの様子を知りたいってことなら普通にできるよ?」


 「まじかよ!全然聞いてないぜそんなこと!どうすればいいんだ?」


 「ああっ……陽太くんと買い物の予定がぁ……!」



 どうやら受けられるみたいだ。これはかなり助かる。リザは少し可愛そうだが、この埋め合わせはいつか必ず、と心に決めて、俺はミサの返事を待った。



 「ええっとね、冒険者免許証を持つ誰かがクエストを受けて、それに体験としてついて行って貰う感じだよ。基本的には友達に連れて行って貰ったりするんだけど、君たちの場合は……」



 少し可哀想な人を見る目でこちらを見るミサ。大丈夫、言いたいことは痛いくらいわかってるよ、ミサ。



 「さあリザ!一緒に友達を作ろうッ!!」


 「え?あ、はいっ!」



 難易度Sランク級クエストの始まりだ!


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