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世界は異世界を目指した。~20の倍数でスキル無双~  作者: 小犬
一章 特異点は日常系を目指した
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第六十三話 リザさん大人気


 「すいませんね、騒がしくて。ですが基本的には根は良い者ばかりですので、お気になさらず」


 「いや、全然いいよ!むしろこれでこそ異世界ってやつでしょ!――異世界じゃないけど!」



 目の前に展開するのは、俺の恋焦がれたまさしく異世界なギルドの光景。外国の酒場を思わせるこの場所では酒を飲み交わすおっさん達や、露出の多いお姉さんたちもちらほらいて、見ればまだこの雰囲気に馴染めていなそうな人たちだっている。



 「う、うわあ……。なんというか、かなり賑やかですよね」


 「ああ。だがそれでいい。ここから俺の異世界(仮)生活が始まるんだから!」


 「くれぐれも私たちの目的は忘れないでくださいね?」



 リザの俺を心配する声も今は聞こえない。俺はその喧騒の中を歩く。目指すはこのカウンターに入って正面、メイド服を着た人のいるところだ。きっとそこでクエストの受注などが出来るのだ。俺は期待を胸に歩を進める。



 しかし、その最中だった。



 「んんー?っておおい!!見ろ!滅茶苦茶可愛い子がいるぞおっ!!」


 「うおおお!ほんとだっ!君誰ー!?」


 「こっちに来て一緒にご飯食べないかい?」



 この喧騒の中でもまた一段と汚い声が俺の耳に届く。なにごとだ?俺は振り返ってリザとビルの方を見た。すると、



 「あ、えーっと、そのー……」



 そこには大勢の男衆に囲まれたリザの姿が――いや、正確には人に埋もれてその姿は見えないのだが、その渦中からはリザのか細い声が聞き取れたため、俺は男達に言い寄られていると認識する。



 リザは確かに可愛い……いや、そんな言葉じゃあ形容なんかできっこない。なんせ俺が初めて彼女を見た時なんか自分はもう死んで天国に居るのだと察したくらいだ。その可憐さは三次元を超越しており、俺は画面の中から嫁たちが出てきたのかとさえ思った。



 そんなリザだから、こんな被害に遭っても何らおかしくはないし、男たちも我先にとリザに食ってかかる気持ちもわからなくはない。というか男なら当然なのかもしれない。だが、



 「見ていてあまり良い気持ちではないかな……」



 俺はその男たちの塊に近付いた。そうして思ったんだが、これって何人くらいいるんだろうか。見たところさっきまで酒を飲み交わしていた連中のほとんど席を立ち、この塊に飲まれている。となるとさしずめ、二十人後半くらいだろうか?ほんと凄いなリザは。



 感心しつつも、別に現状を許す気もない俺は彼らの前まで来て立ち止まり、



 「すいません、ちょっとどいてもらっても?」



 目の前にいた男塊端にいた男にそう問いかける。が、



 「ああん?誰だガキィ?ここはおめえみてーなちんちくりんの来るとこじゃねえんだよ。わかったら帰れ!しっし!」



 全く相手にしてもらえない。うーむ、困ったな。そんな風にぞんざいに扱われたら、俺としても強硬手段に出るしかなくなっちゃうじゃないか。俺はため息を一つ漏らして、左手をそっとその男の腰のあたりへと伸ばし――そのまま持ち上げた。



 「ほいっ」


 「――え?」



 突然の出来事に俺の手の上で呆気にとられるその男だったが、俺はそいつに見向きもせず後ろへ乱雑に投げる。


 「ぐえっ!」



 地面にぶち当たり、カエルが潰されたような音が背後から漏れたが、そんなことは気にしない。俺はそのままリザの姿が見える所にたどり着くまで目の前の男を持ち上げては投げ続けた。男たちは皆ダンボールくらいに軽く、ミサさんがこのギルドにおいてかなり実力に差をつけてトップであろうなということはすぐに想像がついた。



「ひ、陽太くん……」



 それからリザの姿を隠す最後の一人を投げて、ようやっと俺は彼女の姿をお目にかかれた。大勢に囲まれたリザはその翡翠色の瞳に涙を浮かべ、それでもそれが溢れぬようにと必死に口を結び、耐えているところだった。あの島で過ごしてきた記憶しかない彼女にとってはこんな人混みは苦痛以外の何者でもないだろうし、相当恥ずかしかったはずだ。



 そもそもこんな人混みなんて並の人間ならそもそも経験することすらないだろう。そんな大勢の視線を、興味を、一身に向けられたリザを思うと俺は、



 「――なあ、ギルドの皆様方」



 怒りを堪えられそうになかった。



 「ああん?」


 「なんだよおめえ急に何人も投げやがって!」



 男共の反感の声。ここに来てすぐはこの光景に目を輝かせていたところだが、今は違う。リザを泣かせたこいつらが今となっては全員が汚く見える。



 「この子、俺の連れなんだよ。それをこうやって泣かされちゃうとさ、むかつくんだよ」


 「連れがなんだ!俺たちにだって分けてくれていいじゃねえかよ!」



 俺は右手を上へかざして燃え盛る炎をイメージする。そうしてすぐに小さな火の玉が生まれると、それを見た男たちが騒ぎ出した。



 「なんだ、やろうってのか?」


 「この人数を相手にとか流石に無理だあんだろ……」



 中には俺を見て呆れ返っている連中もいるみたいだ。いいぜ、それなら……



 「いいもん見せてやるよ」



 俺はその炎玉をギルドの天井近くまで大きくさせる。そしてそれを一度人混みの後ろへ動かし、次はまた別の属性の球を作る。



 そうして、すぐに七属性の球が俺の前に現出した。もちろん周りの奴らの反応は、



 「う、嘘だろ……?」


 「全属性使いなんて存在すんのかよ!」


 「それも無詠唱……」



 さっきまでの元気はどこへ行ったのか、口を開けて驚愕する男衆。全属性を操るのがすげえってのは、ミサの”五色玉”を見た時の反応から予想はついていたので、ここは盛大に脅しておこうと七色全てを出しておいた。戦意を喪失した男達に俺は、



 「なんならこれでお前ら全員を餌食にしてやったっていいんだ。ってかこの子泣かせた段階でそれくらいの覚悟はしとかなくちゃなんねえ。でも、」



 俺の後ろには服の裾を引っ張り、「もういいです」を連呼するリザの姿があった。本当に優しい子だ。なんならマジでこいつら全員やったっていいんだけど、この子の命とあらば仕方がない。



 「この子に免じて今日のところは許す。でも、次はないからな」


 「「「「は、はい!!」」」」



 急に心変わりしたように敬礼をする男達に俺はフッと笑って、七色の魔球をしまった。張り詰めていた空気が解け、全員が持ち場へ帰っていく。



 「じゃあ、俺らも行くか。クエスト受注に!」


 「あ、そうですね!」



 それを見計らって俺も再び目元を拭っているリザと目的の場所へと向かう。あ、そういえばなんでビルは何にも口出ししなかったんだろうか。俺はきょろきょろとビルの姿を探すが、どこにも見当たらない。どこかへ逃げてしまったのだろうか。そう思って再び前を見ると、



 「私をお探しですか?」


 「うおっビル!」


 「いてっ」



 目の前に現れたビルが現れた。結構本気でビビった俺は一瞬たじろいでしまい、リザにぶつかる。



 「おおっと、驚かせてしまったのなら申し訳ありません。にしても、驚きました。帰ってきたマスターがやたら上機嫌でしたので何かあったのかと思えば……なるほどこういうことだったとは。思わず様子を見てしまいました」



 感心しているような表情でこちらを見てくれるビル。なるほど、俺の力を試すってのもあって口出ししてこなかったわけだ。でもそれどうなの?助けてあげてよ、俺も含めて。



 本当ならあまり目立ちたくなかった俺はビルに非難の視線を送る。ビルが出てきてくれればこんな騒ぎにはならなかったかもしれないのに。まあ、そこまで暴れた記憶もないし、そこまで大事にはなることはないだろうと、俺は寛大な心でビルを許すことにしたのだが。



 ――そんな俺に「ははは、申し訳ない」等といって笑うビルを本格的に恨み出すのはそれから数日後、俺がギルド内で「七色使い」として噂になり始めてからだった。


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