第六十二話 ギルドにて
今月中は不定期な更新になりそうです。十二月からはまた毎日投稿を目指させていただきますので、ご理解の程宜しくお願い致します。
「ようこそっ!ここがあたし達のギルドだよ!」
「うん、まあ、一回来たから知ってるけど」
「はあー……君も少しはその場のノリに合わせてみたらどうだい?」
街へ戻ってきた俺たちはミサに連れられてギルドまでやって来ていた。ギルドの前では窶れた黒人メイドのビル(男性)が立っていて、俺たちを持ち前のその異様な雰囲気で以て迎えてくれる。それにしてもさっき会った時よりも元気ないな、ビル。大丈夫なんだろうか。
「やあ、ビル。お出迎えありがとうね。それで?どうしてそんなに元気がなさそうなんだい?」
俺でも気付けた彼の変化をギルドマスターであるミサが気付けないはずもなく、その理由を聞く。
「あの壊れた魔道具……一体いくらしたと思っているんですか、マスター。あれを全額弁償ということを考えるともう、胃が痛くて痛くて……」
「そうだね、あの場にいた職員は君だからね。君が責任を取るのも当然か」
なるほど、どうやら自らのお財布事情を案じていたらしい。というかその件に関しては全面的に俺が悪いはずなので、かえって見てるこちらが辛くなってくる。ミサの言う通り責任者がビルであったとしても全額払うのはな……。負い目を感じた俺は彼に半額だけでも払いますよ、なんて提案をすることにする。金ならこれから貯めればなんとかなりそうだからな。ここは俺の優男アピールで自分の株を上げておこう。
「な、なあ、その件なんだけど……」
「ああ、それなら彼が全部払ってくれるだろうから気にしなくていいよ」
「な!?ほ、ほんとですか!!」
しかしそれを遮ったのはミサの声。その内容は俺が魔道具代を全額払うとの内容。いやいやいや!ちょっと待て?
「ちょっ!?ミサ!俺はそんな大金持ち合わせてねえよ!半額でもキツいのに全額なんて……」
幾らなんでも全額は無理がある!俺は現在無職といってもいいわけで、これから憧れの冒険者になる身、つまりは新人なのだ。仕事の内容はイマイチわからないにしてもそんな簡単にお金が入ってくるとも思えない。しかし、ミサから返ってきたのは、
「いや?君なら簡単に集められる金額さ。なんせ君はすぐにでもこのギルドのトップに立ち、いずれは八天にも牙を剥く存在。いやー、ほんっとに良い人材が入ったもんだよ」
「買いかぶり過ぎだって……」
呆れ返った俺は結構本気で言ってそうなミサさんから目を背ける。八天なんて聞く限り遥かにやばい存在、勝てっこないし、その気もない。そもそも俺の目的はそんな壮大なものではなく、ただもと居たあの場所へ帰りたいということだけだ。
「まあ、とにかく入った入った!」
俺の背中を押してミサが俺を強引にギルドの中へ連れ込み、その後にリザとビルが続く。
案の定そこに広がっているのは初めて来た時にも見た真っ白な大理石の敷き詰められた大広間で、人もポツリポツリとしか見えない。ほんと静かだよな。
「じゃあ、ビル。受付はいいから、みんなのとこに彼らを連れてっといてくれないかい?ボクは新人たちの冒険者登録の方を済ませておくから」
「了解しました」
すると、ギルドに入って早々ミサが何かしらの作業をしに向かう。そういうのって、俺たちの個人情報とか必要だったりするんじゃないだろうか。なのに彼女は俺たちを必要とする素振りは見せず、ずんずん別の部屋へ向かおうとしている。
「ミサ!」
心配になった俺はミサの名を呼ぶことでその足を止めて貰った。俺たちのことについてあんまり無茶苦茶な登録をされても困るし、そこだけは釘を刺しておきたい。
しかし、そんな俺の思慮はミサには不要だったようで、
「大丈夫、わかってるさ。ギルドマスターを侮っちゃいけないよ」
なんて言い残してやはりずんずん進んでいくのだった。
「なんだかよくわかりませんが、私もマスターさんなら大丈夫だと思います。さっきだって、私たちのこと深くまで詮索してきませんでしたし、そこらへんはなんとかやってくれるんじゃありませんか?」
「ああ、そうだな」
先の戦いの時と言い、今だってそう。俺はミサの器の大きさに気付けていないみたいだった。彼女は潔く負けを認め、ここに来る最中には俺たちには明らかに足りていないこの世界の常識を教え、約束である俺たちの冒険者登録も済ませに行ってくれている。本人は否定していたが、きっと強さだけではなくこういう人柄の良さもあったが故にギルドマスターまで上り詰めることが出来たのだろう。今なら素直にそう思える。
「ん?なんだかよくわかりませんが、行きますよ?」
彼女の背中を見送った後、次は何を話しているのだと不思議そうにするビルが俺たちを何処かに案内してくれるらしい。この建物の二階、とかかな。
俺とリザは黙ってそのメイド服についていくことにした。後ろからその背中を見ていて思うのだが、この人凄くガタイが良い。それはもう、なんで受け付けなんかやっているのか意味がわからないくらいに。そして肩に担いでいるのは長銃。
「ひ、陽太くん……改めて見るとこの人やっぱり怖いです……!」
「ああ、同感だ。俺の勘だが、こいつはきっとこれまでに何人か殺ってるぞ」
「何人か殺っちゃってるんですか!?」
そんなビルの後ろ姿をリザの可愛い反応を見ることで中和させ、ついて行く。とは言っても目的地はエレベーターまで歩いたらそれに乗ってすぐだったが。
「ここがこのギルドの中枢となる、”オーダーカウンター”、通称カウンターです」
「え、ここ?」
「何にも聞こえませんよ?」
エレベーターが開いて、目の前にあったのは扉が一つ。それだけ。廊下はどこへ続くわけでもなく、本当に二階にはこの部屋しかないのだなというのが一目で分かった。
「ここは魔道具によって音が漏れないようになっていますので。それより、ささ。扉を開けて貰っても大丈夫ですよ?」
「は、はあ……」
にわかには信じ難い。何せ魔道具のおかげであったとしても現に中からは何にも聞こえてこないわけで、人がいるとも到底思えないからだ。まあ、開けてしまえばそれもわかることなのだが。
「と、いうことで開けちゃいますね!」
「お、おいリザ――」
俺の心を読んだかのように絶妙なタイミングでその扉のドアノブを握るリザと、その先に何があるのかわからない以上、俺は少しばかり身構えてしまう俺。そして気になる開いた扉の先では――
「お前、またやられたのかよー!!」
「俺が狩るのが速いか、それともお前か……賭けようぜ!」
「聞いたか?あっこの海の主が何者かによってジュースにされたらしい」
「お嬢ちゃーーん!あっそぼうぜーー!」
「ギャハハハ!!」
こ、これはーー!
「う、うおおおおおお!!!」
俺の思い描いていたギルド像そのものが待ち構えていたのだった。




