第六十話 俺VSミサ(後編)
遅刻しました!申し訳ない!
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名前 ミサ・ミタニ
Lv82
・HP 2030
・MP 600
・AP 1200
・DP 1480
・SP 1710
種族 人間
性別 女
年齢 22
スキル 『機装』
・使用者の求める機装を身に纏う。
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なるほど、やっぱり彼女自身は大して強くはないらしい。というよりも俺のステータスが高すぎるのかもしれないが。
それから想像以上に若い。雰囲気は若干大人だったからもう少しいっていると思っていたのだが、まだまだ成人したてみたいだった。
それにしても気になるのは彼女のスキル、機装だ。見るからに機械仕掛けの服ってことだろうか。世界停止以前によく見たなー、そういうのを着て女の子が悪と戦う若干エロいアニメ。今もアニメとかって制作されてるんだろうか?
――っと、話が脱線したな。わからないのは、このスキルの説明で「使用者の求める機装を身に纏う」って書いてあるけど、それって一体何着あるんだろう、それに購入したものなのか。とてもじゃないが説明が雑すぎて上手く伝わってこないんだよなあ。結局は見ちゃうのが一番早いんだけどさ。見れば、もうミタニさんはスキルを発動させる気まんまんだ。
「本気のあたしを――とくとご覧あれ」
するとその声を合図に、彼女から眩い光が差し始めた。見ればふわりと浮いた彼女の服がはだけ――て!はだけてるっていうか脱げてる!?俺は視界を遮ろうとする光に目もくれずに全力でその様を目に焼き付けようと目を凝らす。こんな光景、そうそう見れるものじゃない。それにミタニさんはスラっとした綺麗なスタイルをしていた。俺はおそらくかなり綺麗であろう曲線を見ようとして――
「えいっ!」
後ろから背中を殴られた。もちろん全く痛くはなかったが。見れば、顔を赤くして怒るリザが拳を握っているではないか。
「何すんだよリザ。俺はこれからミタニさんの美しいボディをこの目に焼き付けようと――」
「それがダメなんですよっ!どうしてこんな真剣な勝負の最中、相手の裸を覗こうなんて破廉恥極まりない発想が出来るんです!?いくら陽太くんでもこれは許しません!」
どうやら俺の覗きを止めに来たらしい。なんとか見逃してはくれないだろうか。
「いいじゃんか、不可抗力ってやつだろう?勝手にミタニさんが着替えだしたんだから、見られても文句は言えないだろうし」
「ふ、不可抗力!?あの光の中においても目を伏せることなく、むしろその目を血走らせてまで光の中を見ようとしてたのを、不可抗力と言うのですか!?」
「え、あ、うん。不可抗力だよ……ね?」
「ね?じゃないですよもう!自分で聞かないでください!」
もう、滅茶苦茶だった。
俺とリザがそうこうしているうちにミタニさんの方は事が終わったようでふと光が止み、そこにはごっつい機械仕掛けの服を着た――いや、そもそもあれは服ではない気がするぞ?例えるなら、ロボットスーツを着ている感じだろうか。しかしその身は普通に剥き出しになっていて……とにかく彼女が強力な武器を持ったということはわかった。
「ああ、やっと少しはマシな戦闘が出来そうかも」
思わず気分が弾んだのがわかる。あの島での戦闘はどれも命懸けだったため、こういう温いのは結構楽しかったりする。それにこっちに人たちの強さも推し量れるっていうのも良いとこだ。
「戦う分は構いませんが、もう一つだけ言っておくことがあります」
俺とミタニさんと、互いの準備が整う中にリザが口を挟む。今度は何なのだろうか。
「さっき遊ばないでと言ったはずです。どうしてちゃんとしないんですか?」
真面目な顔でそう告げるリザに、俺は思わずカチンときてしまった。こういう事情を何にもわかってくれないのはリザの悪いところだ。俺は少しキツめにリザに言う。
「リザだってわかるだろ、相手はギルドマスターだぜ?俺がここで瞬殺でもしてみろよ。俺たちはどうなる?ギルドにも入れず、変な逆恨みまで受けるかも知れないぞ?だからここは穏便にいくしかないんだ。わかってくれよそれくらい」
俺は彼女と拳を交えながら幾度となく考えた最悪を伝えた。だからそんな未来なんて堪ったもんじゃないってことも、それ故俺が手をこまいているということもきっと言ってしまえばリザにも伝わると思っていた。だが、
「ミタニさんはそんなことしないと思います」
リザはわけのわからないことを言った。そのなんの根拠もない発言に呆気にとられた俺はその意図を問う。
「リザにあの人の何がわかるんだ?まだ会って少ししか経ってないんだぜ、あの人とは。それに見た感じ明らかにプライド高そうだし、自分の地位に誇りを持ってるぞあの人は。それが俺に惨敗して逆上しないとは言い切れないと思うんだが」
「いいえ、現に陽太くんだってあの人はプライドが高い人だって、誇りを持った人だってことはわかってるんですよね?それなら陽太くんが全力を出すのが最善だと思います」
どうしてか、リザに俺の考えが届かない。俺の方が正しいはずなのに、リザが間違っているはずなのに、それなのにリザの俺を見る瞳は揺らがない。そんな双眸を見ているとなんだか自分が間違っているのではないかと疑ってしまい、頭の中がごった返した。
「なあ、やっぱり俺には言ってることがよくわかんないんだけど」
「そんなの、簡単じゃないですか」
簡単なのか?こんだけ逃げ道を探して見つからなかったのに、簡単に抜け穴は見つかるのか?顔を顰める俺にリザは平然と言い放った。
「ミタニさんのようにプライドを、誇りを持った方を相手に手を抜いたほうがよっぽど反感を買うと思いますよ」
「あ……」
その言葉はストン、と俺の中に落ちた。だって本当にその通りだ、正面突破で良かったんだ。俺はまた逃げ道を探していて、迷子になっていたみたいだ。ここは潔く、正々堂々突っ切ればよかったんだ。
俺はリザを下がらせて正面、ミタニさんの方を向く。
「っていうことで、お待たせミタニさん。こっちも話は済んだし、覚悟も決まったんでそろそろ本気でやらせてもらいます」
「――本気?あ、いやいやいいんだよ、こっちも着替えの時待たせちゃっただろうし待つくらい良いんだ。普通はあんなに時間とらないんだよ?着替えてる時に攻撃されかねないからさ。でも君なら攻撃してこないかなと踏んでじっくり選ばせてもらったよ」
どうやら俺はミタニさんから謎の信頼を勝ち取っているらしく、じっくりと準備をしていたらしい。どうりで長かったわけだ。それでもリザのせいで肌色は見えなかったわけだが。
「まず謝らないといけません。俺は今の今までミタニさんの誇りを、プライドを踏み躙ってたみたいです。俺が全力で行ってむしろ逆上するようなちっぽけなプライドも誇りもミタニさんは持ち合わせていなかっただろうに……。本当に申し訳ない」
「うーん、なんだかよくわからないけど君、目つきが変わったね。迷いのない良い目だ。これは期待してもいいのかな?」
「ええ、もちろん」
言葉はそこで途切れた。先手を切ったのはミタニさん。さっきまでとは比べ物にならない速さで俺との距離を詰める。しかし、
「と、飛んだっ!?」
それを大きく空へ羽ばたくことで彼女と垂直に距離を取る。スキル『飛空』により成せる技だ。
「まあ、飛べるのが君だけだと思わないことだね」
そう言うと俺の方へ飛んでくる彼女。どうやらあの機械を用いれば飛ぶことも可能らしい。そしてそのまま右腕に取り付けられた大きな銃のような何かをこちらへ向けた。
「パニッシュッ!!」
発射されたそれは弾丸等ではなく、紛れもないレーザーだった。飛んだことで縮まったこの至近距離で、威力の未知数なその白いレーザーは少々怖い。
そこで俺は全力で陸へ向けて滑降、着地をしてから再び上空を見れば、レーザーを上空に放った直後にも関わらずそれでもなお標準を俺に合わせたミタニさんがいた。
「この機装はね、遠距離攻撃が得意なモデルなんだ。君はバリバリの近接格闘家みたいだからこうして飛んで上空から狙い撃てば簡単に勝てると思っていたんだけど……まさか君も飛べるとはね。そこだけは想定外だよ」
余裕綽々と話す彼女。でももう一つ見落としている点があるな。
「ミタニさん、別に俺は近接格闘家ってわけじゃないんだぜ?」
「ん?それはどういう――」
「”五色玉”」
俺がそう唱えると、現れたのは五つの球体。それぞれ火、水、風、土、雷の属性球でそれらは俺を中心に公転している。
「な、なんだいそれは?無詠唱で、五つの属性の球を出したの?」
おお、ここに来てミタニさんのかなりの驚き顔が見れた。これってそんなに凄いことなのだろうか?それは後で聞くことにしよう。
「くっ……!いけえっ!」
そしてまたも俺に向けてレーザーを放ってきたミタニさん。見ればもう片方の腕からも射出することで更に極太のレーザーになっているじゃないか。まあ、だからといって別に困ったことはないのだが。
「”属性剣『雷』”」
俺は右手に迸る雷を握り締める。目的はシンプルで、ただ向かってくるレーザーを叩き切るのみだ。
「こんなふうに!」
そして振るわれた一太刀。それは迫りきたレーザーの丁度真ん中を斬り裂き、その残骸は俺を避けるようにして飛んでいって、背後では爆発音が聞こえた。あ、もちろんきちんとリザには当たらないように斬ってある。
「そんな馬鹿なっ!!」
「驚いているところ悪いんだが、最後にもう一仕掛けあるんだよな」
俺のその声でようやく彼女は自分が詰んでいることに気付いたらしく、自らの身を囲む五つの球を睨むようにして見ていた。あのレーザーが射出された時にそのレーザーを這うようにして五つの属性球を飛ばしておいたのである。どうやら目論見通りに彼女を捉えたようだった。
「それで?どうするミタニさん。このまま攻撃に出てもいいけど、なんとなく結果はわかってるよな?」
「――うん」
俺の問いかけに、彼女は観念したような顔をしてこう言った。
「降参さ。まったく、とんでもない新人が入ってきたものだよ」
こうして、俺とリザのギルド加入が決定したのだった。




