第五十九話 俺VSミサ(前編)
緑の悪魔さんに教えていただいた通り、陽太のレベルに関してミスがございましたので、第五十七話の方を少々修正しております。物語に特に変化はないので、お気になさらず。ご指摘ありがとうございました!
まさかそんなわけ……いや、しかし……。
俺は彼女の発言に自問自答を繰り返していた。
――ギルドマスターで、第一世代で、レベルは80。
「うーん、わからん」
別に彼女のレベルを疑っているわけではないが、ここまで俺と差が開くものだろうか。俺とは違ってレベル1つにつき上昇するステータスの値が違うとか、そんな理由がある気がする。つまり俺が言いたいのは、実際戦ってみたら相手方の方が断然強いんじゃないの?ってことだ。
「何を不思議そうにしてるのか知らないけど、そろそろ始めちゃうよ?」
と、そこにミタニさんの一声。そうだな、やってみればわかることだ。思考を放棄した俺は、彼女の方を向き直り、一つ忘れていた事を提案する。
「あ、すいませんミタニさん。リザは観戦ってことでいいですか?こいつは基本的に戦わせたくないので」
「あー、別に構わないよ?むしろ女の子を危険な目に遭わせないっていう君の考えに胸を打たれているくらいさ」
何かミタニさんは一つ勘違いをしているが、ともかく許しは出たみたいだ。なんせリザが出たら戦いにならないからな。俺のレベルを吸収させたらそれだけで『オロ・ウラシル』を放てるわけだから、それだとミタニさんが不利すぎる。そういう意味での「戦わせたくない」だったのだが、その意図は汲み取れなかったたみたいだ。
「なら、始めようか」
「あ、はい。いいっす――」
彼女の開始の合図に俺が返事をしていた最中、それを待たずして彼女はこちらへ跳躍してきた。かなり速い。
「――っと!」
その右足から放たれた蹴りを、俺は両腕を交差させることで受け止める。いきなりだったから少し焦ったぜ。
「――へえ。今のを止めるんだー」
右足を下ろした彼女は少し表情に驚きを見せる。今のってそんなに凄かったのだろうか?
「じゃあ、これはどうかなっ!」
途端、視界から消えた彼女。しかし気配を逃さなかった俺はすぐに振り向く。見れば今にもこちらへ殴りかかろうとする彼女の姿が。
俺はその攻撃を体を左側へ逸らすことで回避し、そのまま地を蹴って後ろへ跳躍することで再び距離を取った。
「へえー!君本当にやるじゃないか!なんとなくそんな気はしてたけど、そこまで出来るんならやっぱり君も第一世代なんだねっ!そっか、嬉しいなー、こんなの久々だからなー」
どうやら今しがたの数撃で俺の実力を認めてくれているみたいで、賞賛の言葉を頂く俺。それにこの人には俺が第一世代であるとばれてしまっているらしい。
しかし、今の俺にそんな賞賛の言葉や、第一世代であるとばれてしまった驚きは届いては来なかった。今の俺の心を乱す感情は、紛れもなく焦りだ。
やっべえどうしよう!ミタニさんの攻撃全部余裕で見えるんですけど!確かに最初の蹴りは速かったかもしれない。でも普通に見える!背後に上手く回り込まれた。でも普通に気配でわかるし、見えてた!
この人ってギルドマスターなんだよね!?つまり少なくともエストリアのギルドでは最強の人間なはず。それなのに、何故こうも動きが見える。何故こうも隙が見える。さっきなんて簡単に数えたが、全力のグーパンを打ち込めそうな瞬間が軽く十回はあったぞ?どうなってるんだ?心から困惑する俺。
これは本当に俺最強説が証明されるのかもしれない。もしくはミタニさんが第一世代では一番弱いのかも。いや、正直そんなこともこの際どうでもいい!今一番困っているのは。
「――これ、俺ぶっ倒しちゃってもいいのかなあ?」
思わず口に出た俺を悩ます種。なんせこの人は一応ギルドマスターなわけで、詰まるところあのエストリアのギルドにおいて最も偉いお方なのだ。それをそんな軽々と倒してしまっても良いのだろうか。ギルドに入った後でいびられたりしないだろうか。このように、高校生活ですくすくと育てられた俺の卑屈な発想がますます俺を苦しませる。答えが……答えが欲しいよ。
俺はふと救いを求めるようにリザの方を見た。リザの手も借りたい、そんな気分だったからだ。見れば、口パクで何かを俺に訴えかけてきているじゃないか。おお、愛しの女神は俺に何か助言でも与えてくれているんだろうか!なになに?ひ、な、た、く、ん、あ、そ、ん、じゃ、だ、め、で、す――っておいぃ!この子全然わかってないよ!大人の事情ってやつがてんでわかってないよこの子!
助けにならないリザは放っておき、俺は再び思考に浸る。あ、考えるのに忙しくて話にこそ出していなかったが、さっきからミタニさんは俺に幾度となく攻撃を仕掛けてきている。それはもう楽しそうに。もちろん俺はそのほとんどを受け流しているし、むしろ時々当たりにいったりしてご機嫌をとろうと努めているくらいなのだ。本当にもっと頑張ってよギルドマスターさん!
「お、おりゃーー?」
ギルドマスターを内心で鼓舞するも束の間、流石に手を出さなすぎて怪しまれそうなので、ここいらで俺は緩めのパンチを放つ。これくらいなら未然に防いでくれ――
「ぐふっ!」
「――あれ?」
俺のパンチは不運にも彼女の下腹部に命中。そして口から少量の血を吐き出す彼女。いや、え!?ちょっと待てよ!今ので!?実は持病を抱えてましたとか、そんなんじゃなくてか!?
「き、君……本当にやるみたいだね。僕に血を吐かせるなんて……かつての”神魔大戦”で前線で戦ってたあの頃を思い出すよ……」
なんかまた変な設定が。新しい単語が出てきたけど覚える余裕もそれが何か聞く余裕もない。今はただ、最善を探している。
さっき自分がギルドで最強であることを誇りに思っていたプライドの高い彼女のことだ、きっと惨敗すれば恥をかかせてしまうだろう。あー!どうしようどうしよう!
そんな考えの交錯する折、彼女の口から俺を喚起させる一言が発せられた。
「仕方ないや……久々にスキルを使うしかないみたいだね」
「スキル!?」
どうやら彼女はまだ本気を出していなかったみたいだ。よっしゃ、どんなスキル持ちなんだろう。俺は今の今までどうしてか使っていなかったスキル、神魔眼を使用した。




