第五十五話 メイド服+サングラス+長銃=?
犬「日間ランキング1位だよ!」
友「へぇ」
犬「……」
皆さん、本当にありがとうございます!
エストリアまで連れてきてくれた真美さんと和真に別れを告げた俺とリザは、エストリアに入ってすぐにある商店街を歩いていた。未だにこのカオスな光景には慣れることのできない俺は、とりあえず街をぶらっと探索しようとリザに提案したのだ。もちろんリザはそれを快く受け入れてくれた。
「らっしゃいらっしゃい!今日も新鮮な野菜揃ってるよー!」
「らっしゃいらっしゃい!今日も向かいの八百屋より新鮮な魚を揃えてるよー!」
「んだと魚屋!今日という今日はもう許さねえからなあ!」
「黙れ!俺の水魔法の餌食になれやあっ!」
おいおい、街中で魔法ぶっぱなすなよ危ないな!――って、向かいの八百屋さんそれ投げてるの商品!野菜だから!
入街して速攻で俺による街への印象が悪化した。存分に水魔法を向かいの店に放ち、野菜をより瑞々しく変えていく反面店主の顔面を水流でぐちゃぐちゃにする魚屋。スキルや魔法が使えないのか満身創痍でビチョビチョの商品を向かいの店目掛けて全力で放る八百屋。
もうやだよ……既に出て行きてえよこんな街。
――それからリザ。八百屋を応援するな。行くぞ。彼らの戦いにどこからか湧いて出た野次馬の一人になろうとするリザを、俺はその群れからすっと引き離した。
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「でもほんと当てもなく彷徨ってるよな俺たち。なんか当面の目標とかでも決めといたほうがいいんじゃねえか?」
そんな散策も気が付けばもう三十分くらいは経とうとしている。これはいくらなんでも時間を無駄にしすぎている気がしてならないと、俺がリザにそう問いかける。まあ、時間の無駄とは言っても日が暮れるなんてことはないんだけどさ。
「確かにそうですね……。でもこの街で何かしたいことと言われましても、そもそもこの街にどんな施設があるのかさえもわかりませんし。とりあえずは私たちの最終的な目標である『我らが陽太くんを産み、育んだ聖地へ向かう』ということに関する情報を集めるとかでいいんじゃないですか?」
「俺たちの目標はそんな大層な名目だったっけか?」
俺を神にでも祭り上げようとするリザに呆れながらも、内心情報収集という提案には賛成だ。さっきから何度も思い知らされたが、俺たちはこの世界について無知すぎる。一般人から見れば今の俺たちは、大人なのに掛け算を知らないというのと同等以上の衝撃を与えられる存在だ。よって今はとにかく、この世界の常識をどんどん吸収していくべきだろう。
「それなら何か情報を得られる場所に行きたいな」
俺がポツリとこぼす。まあ、それについて俺の中では大方答えはでかけていたのだけれど。
突然だが、ラノベとかでよく見る異世界転生を果たした人間ならば、大抵飛ばされた異世界である施設へ向かうことが多い。そこでは属に”冒険者”などと呼ばれる個性豊かな面々と情報交換をしたり、モンスターを倒したりする仕事を貰ったり、受付のお姉さんを見て鼻の下を伸ばしたりするのだ。これについてはきっとそういう分野において博学な者たちならば何という施設かはおわかりだろう。
それで、この世界に俺たちがやっと介入してきて最初に見つけたあの海竜だが、あんな怪物は世界がこんなになってしまう以前には存在しなかったわけで。つまり今この世界にはあんなのが他にも幾らか湧いている可能性というのは大いにある。並びに、俺たちにはそれを撃退し得る手段があるときた。そう、スキルや魔法のことだ。
そうなるとどうだろう、前の話と繋がらないだろうか?世界にもしあんな怪物がたくさん発生していたらどうする?そりゃあ倒さなければならない。じゃあ誰が?もちろん強力なスキルや魔法を使える者たちだろう。そんな勇敢な者たちが、強者たちが集う施設がきっとあるはずなんだ。――っていうかそういうの憧れてたんであってくださいお願いします。
「こうしちゃいられねえ!行くぜリザ!」
「えっ!?急に笑顔になってどうしたんですか!」
待ちきれなくなった俺はまだ散策していない場所目掛けて全力疾走、その施設を目指すのだった。
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「あった……あったぞ……」
「はあ……はあ……疲れました……」
大きめの現代的な建物を前にして、喜びに心躍らせる俺と走り回りすぎて呼吸を荒げるリザ。見てくれは俺の想像を遥かに裏切ってくれたが、そんなものはこの街に来てしまえば今更だ。何より看板を見る限り間違いない。ここが……ここが夢にまで見た……!!
『街立冒険者ギルド――エストリア――』
「ギルドだあああああっ!!」
「ひいいい!陽太くんの様子がおかしいです!」
そこらを歩く人々の視線が俺に突き刺さる。だが、それでもいい。俺はこの喜びを声に出してでも爆発させたかったのだ。だってギルド!ギルドだぜ!?クエストを受注したり、仲間を作ったり……甘酸っぱい出会いなんかが待ってる可能性だってある!
「クックック……待っていろ冒険者ギルド。俺が誰もが羨む最高の異世界ライフを送ってやるその日をなあっ!」
「ひーなーたーくん?目的がおかしくなってないですか?そもそも異世界ってなんなんですか?」
気が付けばこの世界を異世界と思ってしまう始末だ。早く中に入りたくて仕方がない!きっとこの中では怒号に罵声に歓声が飛び交い、昼間っから酒を飲み散らかす男たちでいっぱいのはずだ。そしてそこに一歩足を踏み入れる俺。あああっ!たまらないシチュエーションだ!
「行こうリザ!すぐ行こう!」
「あぁあぁ鼻息まで荒げてしまって……。私は全然構いませんが、そんなに楽しい所なんですか?ぎるどというのは」
「そりゃあもう!まあとにかく入るぞ!」
俺は遂にその夢の扉を開く。その中には血気盛んな男たちが……あれ、いない?
広々とした建物の中は綺麗な白で統一されており、茶色いカーペットも酷く上品さを感じさせる。側面は全てガラス張りになっているため、中からでも建物の外を見ることができる。何故外に居た時は気付かなかったのだろうか、この異様さに。ここは何というかとても……清潔感のある広間だ。俺の思っていたのとは大きく異なる。
「あれ?建物間違えたかな?」
広間を一通り回って、あまりに想像と違う光景にそう呟いた俺だったが、
「冒険者志望の方ですか?」
背後から聞こえてきたその声にこの建物こそがギルドであると思い知らされる。嘘だろ……?こんな綺麗な広間がこのギルドのものだってのか?それに今聞こえた声は明らかに男の、それも結構低めの声だったぞ?はっきり言って振り向きたくはない。なんせ嫌な予感しかしないからな。知ってたか?俺が得意とするのは現実逃避だなんだぜ?
「無視ですか……死にたいということでいいのですね?」
「へ?」
なんて思っていると物騒な声が聞こえる。これは……?
振り向いたそこには、メイド服を着てサングラスをかけた、服の外からでもマッチョさんであることが伺える黒人さんがいた。そしてまさかの男性で、その両手に握り締められているのは明らかに危険な匂いしかしない黒光りする長銃。
「いや、え……?ここって剣と魔法の世界とかじゃないの?スキルとか使って頑張ってくんじゃないの?」
俺が焦りからか少々早口で言う。だってこんな危ないもんあるとか聞いてないよ?なんで急にガチムチな武器出すの?俺の感じてたファンタジー要素が驚きで全部ぶっ飛んだんだけど……。戦慄する俺に黒人メイドの男性はこう告げた。
「いいえ、ここは剣と魔法の世界というか血で兵器を洗う世界です。勘違いしないでください、ぶち抜きますよ?」
いや、洒落になってねえよ!あなたのぶち抜きますよはマジなやつだから!死んじゃうやつだから!ってか凄い生々しい話が聞こえたんだけど!俺の心が全力で彼を拒む中、そんなことはお構いなしと彼は続けた。
「冒険者希望ならこちらです。まずはステータスを測りましょう」
「やーーーだーーー!!マジでやーーだーーーっ!!」
「ふふふっ、陽太くん本当に楽しそうです」
やたら流暢に言葉を話す黒人メイドに引きずられていく俺のピンチに、我がパートナーが助けてくれる気配なんて微塵も存在しなかった。
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