第五十三話 第一世代
ここと次話は説明回になります。
「車に乗るのも久しぶりだなー」
「こ、これが車……っ!」
海竜……和真曰くシー・サーペントを海に沈めた俺とリザは、和真の母親である真美さんの車に乗っけてもらい、彼らの住む街まで連れて行って貰うことになった。なんでもお礼がしたいとのことらしいが、連れていて貰えるだけでも助かると言って丁重にお断りした。ただ通りかかっただけだし、あの海竜かっこいいわりに全然強くなかったからな……強さで見ればこの世界においてもかなり下の方の生物なんだろう。それを倒してお礼を貰おうとするのは流石に気が引けた俺だった。
真美さんに案内された車は俺が孤島へ飛ばされる前から見たことのある車種で、変わらない物があることになんだか安心を覚える。案外俺がいなくなっていた時間は短いのかもしれないな、そう思っていたところで俺はふととても大事なことを思い出した。
「ってかなんで動けてるんだ!」
「ええええっ!?なんだよお兄さんいきなり!」
「あああっ!ホントですっ!」
「ど、どうなさったんですか!?」
四人が俺の口から出た疑問にそれぞれの反応を返す。やっぱリザも忘れてたみたいだ。お互いちょっとはしゃぎすぎていたのかもしれないな……。
「ちょっと色々聞きたいことがあるんですが……」
俺はそこで真美さんにこう話を切り出した。俺には聞きたいことが多すぎるのだ。今こうして真美さんや和真が動けていることや、海で和真から聞いた『八天』のことなどを含め様々。しかし真美さんは、
「え、ええ……構いませんがどうせなら中でお話しませんか?」
とのことだったので、俺たちは早速車に乗り込み街の方を目指すのだった。
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「ええっと……何をお聞きしたいのでしょうか?」
俺たちを乗せた車が目的地へ走り出して早々に、真美さんの方から話を振ってくれた。車は四人乗りの軽自動車で、俺は後方の席の右側でリザはその隣に。当然運転は真美さんで助手席には和真の姿があり、俺は真美さんの背中に語りかける形となるわけだ。
「まずは、二人がどうして動けているのかということについてです」
「と、申しますと?」
真美さんは再度俺に質問の真意を聞いてきた。とぼけている様子は見られないので、心から意味がわからないのだろう。俺は要点を掻い摘んでもう一度質問をする。
「前に人々が動きを止め、時間も止まったなんてことがあったはずです。現に俺はそれを嫌というほど目にしてきました。それなのにどうして、あなた達二人はこうして平然と動いているのですか?」
「すっげえ!まさかお兄さん『第一世代』かよ!」
「和真!急に話に割り込むんじゃありません!」
すると、俺の質問に和真がグルリとこちらへ首を向けて食いついてくる。なんだ、また意味のわからない単語が出てきたぞ?第一世代?俺は答えを知っていそうな真美さんが口を開くのを待つ。
「おそらく、秦瀬さんが言っているのは『世界停止』のことだと思われます」
「ああ、名前的に多分それですね」
世界停止、まさしく世界が固まったかのようなあの現象に相応しいネーミングだ。
「どうしてあれをよくご存知ないのかが不思議ですが、命の恩人のことです。言及はしないでおくことにします」
「ええ、そうしてくれると助かります」
真美さんの気遣いに、黙っていたがきちんと話は聞いていたリザが反応する。俺たちの説明をするはかなり骨が折れるので本当にありがたい限りだ。
「では話を続けますと……ある日突然、世界はごく少数の人々を残してみんなが動きを止めてしまったのです。それと同時に世界からは時間という概念がすっぽりと抜け落ちてしまいました。」
うん、ここまでは理解ができる。それと同時に俺はあの世界に一人ではなかったのだなと安堵した。まあ確かにこうしてリザは俺と一緒に動けていたわけだしそれもそうか……俺だけなわけがない。
「秦瀬さんはこの時から既に動けていた、となると今言ったごく少数のうちの一人となるわけですね。リザさんの方は……?」
「ええ、私も陽太くんと一緒に行動が出来ていました」
「じゃあお姉さんも第一世代なわけだな!」
そこにまた和真が割り込む。だからなんなんだよその第一世代って!俺はついつい気になってそわそわし始めるが、
「今、和真の言っていた第一世代というのはあなた方二人のような、世界停止初期から動くことの出来ていた方々を指すのです」
遂にもやもやの一つが解消された。ああー、なるほどね!聞いてみればそのまんまじゃないか!なんて簡単なことに気付けなかったんだろうか俺は。
「第一世代の方々はこの世界に上手く適応できた人間、と言われていてこの方々は決まって強力なスキルや魔法を最初から所持しています」
なるほどな、確かにそれで俺やリザのチートなスキルに説明がつく。そうかー、俺が上手く適応できた人間……勝ち組……やばい、そんな経験まるでないから顔がにやけてきたんだが!
「それで、これから話す内容が先ほどの秦瀬さんの質問の質問の答えになるかと」
真美さんはこちらを伺うようにそう言うが、正直なところもう察してしまった。なんせ俺たち二人が第一世代なのだからきっとその後には……
「秦瀬さん達第一世代があれこれしている中またも突然動き出した存在……それが私たち『第二世代』です」
真美さんの口からは俺の思っていた通りの言葉が並べられた。




