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世界は異世界を目指した。~20の倍数でスキル無双~  作者: 小犬
一章 特異点は日常系を目指した
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第五十一話 特異点の来訪

第一章、スタートです。

 「お母さん、俺のことは気にしなくていいから逃げて!!」


 「嫌よ!息子を置いて逃げる母親が何処にいるって言うの!?」


 「お、お母さん……」



 眩い太陽の下、海岸で二人の人間が窮地に立たされていた。一人は三十代前半くらいの女性で、海にいてこの天気この気温ともなれば迷いなく泳ぎ出しそうなものだが、その女性の着ている青いワンピースからはそんな気が全く感じられない。



 一方もう一人の方はその女性の子供のようで、まだ中学生くらいに見える。若々しくもその肌はこんがりと焼けており、日頃から散々遊びまわっていそうな、わんぱくさが伝わって来る。



 しかしそんな彼女らを見据えて舌なめずりをする存在が、一つ。



 海から伸びる三本のずっしりとした首に、海よりもずっと青く、遠目から見ただけでもギザギザと荒れて見えるサメのような肌。そして陽の光に反射する、鋭く尖った白銀色の牙。その姿はまるで物語などで見たような幻想的な怪物で、これこそが街の皆が言っていた「シー・サーペント」そのものだ、と少年は悟る。



 恐れていたことが起きてしまった。元々は『世界停止』によって動かなくなってしまったお父さんを憂うお母さんを慰めようと、海に連れてきたかっただけだったんだ。お母さんは海が大好きだったから。



 けれど今、この海岸は進入禁止となっている。何故ならこの近海は、主である「シー・サーペント」によって暴虐の限りを尽くされているからだ。暴虐の限り、というのは海から放たれたブレスで遠く離れた街の一部を破壊したり、漁船を全てダメにしたり、この海岸に訪れた人間を食い散らかしたりということを指していて、見かねた街の偉い人たちが魔導師隊を派遣したんだけど、即効で壊滅させられたらしい。



 そうなるとこいつを相手に出来るのはきっとこの世界においても「あの方々」くらいのもので、だからこの海の周辺、つまりこの海岸も進入禁止となっていたんだ。



 そんなことを街の住民である俺やお母さんが知らないはずがなかったが、俺は渋るお母さんを「大丈夫だから」と強引に引っ張ってきてしまった。だって俯いているお母さんを見ているととても放ってはおけなかったから。だからこうなってしまったのは俺のせいで、お母さんに罪はない。だから、



 「だめなんだ!俺も逃げたら確実に両方やられる。だから俺があいつを引きつけているうちにお母さんだけでも逃げて!」



 ここは俺が犠牲になってでもお母さんを逃がす。ただでさえお父さんがあんなことになってしまっているのに俺まで死んじゃったらお母さんは更にやつれてしまうかもしれないけど、やはり命には代えられない。



 俺は海の上の海竜に体を向ける。後ろからお母さんの声が聞こえてくるけど、今は無視だ。俺はひたすらに対策を考え、そして一つの策を捻り出した。



 「――よし」



 俺は一度心を落ち着けると、海竜の方へ全力で駆ける。目標はあいつの命……ではなく、眼だ!神経を研ぎ澄ませ、放つっ!



 「ウィンドッ!」



 俺が放ったのは風属性の基礎とされる魔法『ウィンド』だ。これ自体の威力は使用者の魔力や適正によって変わるが、俺の狙いはこの魔法で奴にダメージを与えることではない。俺の狙いは、この海岸の砂にある。



 俺の魔法により巻き上がったきめ細やかな砂は狙い通りその紫色の瞳を目指し――!



 ギイイイイイイイイイッッッ!!!



 「当たった!!」


 「すごいわ和真かずま!街で先生と魔法の練習をした甲斐があったわね!」



 シー・サーペントが大声で鳴く。目に砂をかけられるのは流石に効いたみたいで、後方からは照れくさくもお母さんからのお褒めの言葉が。よし、今のうちにお母さんを連れて逃げるしかない。僕は後方にいるお母さんの方を向き、後を追う。



 キイイイイイイイイイイッッッ!!!



 しかし、次の瞬間にはもう僕の前からお母さんの姿は消えていた。忽然と、飛んできた水流のブレスによって。お母さんの居た場所の付近では大きくクレーターができていて、もう少し俺が近かったなら巻きぞいを食らっていたことだろう。しかし、今はそんなことを分析している場合ではなくて。



 「あ……あ、あああ……」



 俺は「シー・サーペント」がいることなんて放ったらかしに地面に崩れ落ちた。お母さんが、お母さんが死んだ?俺の身勝手のせいで?俺が本心でそれをどれだけ否定したくても、心当たりなら幾らでもあった。



 きっとそろそろやつのブレスが飛んでくる。次はきっと俺を狙って。もうお母さんを殺した俺に特に死への抵抗はなく、俺は黙って攻撃を待った。



 「こない……」



 しかし一向に攻撃が来ない。一体何をしているのだろうかシー・サーペントは。俺は思わず海の方を見やる。するとそこでは、



 「ああーー、ほんっと長い旅だった」



 一人の男性が仁王立ちしていて、それをシー・サーペントが訝しげに見つめていた。何をしてるんだあの人!早く逃げないとそのうちブレスが――ッ!



 キイイイイイイイイイイッッッ!!!



 しかし飛んできたこのブレスを彼は、街まで届かせる威力と魔導師隊を壊滅させる力を持った水の光線を彼は。



 「よいしょ」



 手のひらで受け止めてこう言ったのだ。



 「――大丈夫か?少年」


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