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第四十八話 逃げて逃げて逃げ続けた先で

 次回でリザ視点を一話やって、そこで序章を終えたいかなって感じです!



 リザの声が聞こえた後、鳴り響く轟音。その音は俺の鼓膜激しく震わし、薄れゆく意識を再度覚醒させる。



 アレと『オロ・ウラシル』とが衝突したことによって生まれた衝撃波は想像以上に強く、俺はその勢いに吹き飛ばされてまたも木に直撃しそうになってしまうのだが、



 「陽太くんっ!」



 おそらく、いや確実にレベル吸収ドレインを使ったであろうと思われるリザが、すんでのところで俺を拾ってくれた。

 危うくなんとか保った意識を持っていかれるところだったと安堵する俺だが、同時にリザがいなければ今頃はぽっくり逝ってしまっていたであろうということや、勝手に一人で戦って無様に負けてしまったことを思い出し、どの面を下げてリザを見ればいいのかわからなくなる。



 この場合はただ自分の勝手を侘び、その上で今救ってもらったことに対して礼を言うのが先決であろうということは誰よりも事の張本人である俺自身が一番わかっているはずなのに、ごめんの、ありがとうのその一言が出てこない。



 「陽太くん、ダメじゃないですか!あんなにギリギリの戦いになるのなら私も加えて余裕を持った戦いにした方が良かったはずです。私が今割って入っていなかったら今頃陽太くんは……」



 ああ、その通り。

 今頃は……死んでいただろう。

 あの時俺は確かに死を覚悟したし、生きることを諦めさえした。

 そんな状況から救ってくれた彼女に対し、俺は一体どんな言葉を掛けよう。

 俺は……



 「うるせえよ」


 「――え?」



 そう口に出してしまっていた。

 俺にそう言われた当の本人であるリザは目を見開き、こちらを見据えている。

 感謝こそされど、まさか怒られるとは思ってもみなかった、そういう顔だ。



 居心地の悪さに、自分の惨めさに目を背けようと、思わず俺はリザに汚い言葉を浴びせかける。



 「余裕を持った戦い?私がいなかったら?はっ、笑わせんな!自分が多少チート能力が使えるからって調子に乗んなよ?俺は別にお前がいなくたって死にはしないし、別に必要でもねえ!」


 「ひ、陽太くん……?」



 彼女は悲しげな顔をするが一度開いてしまった俺の汚い口は、全てを吐き散らすまではとどまる事を知らない。

 俺はなおも続ける。



 「確かに俺は弱いかも知れない!でもいつ誰がお前に助けを求めた!?一人で勝手に戦ってたのは誰だ?それはお前じゃあない!俺だ!だからあのまま勝手に死んでいってもしょうがないことだ!なんせ、俺が人るで勝手に突っ走ったんだからな!」


 「――――」


 「それに俺はずっとこのままが良かったんだ!腹が痛い?ふざけるな。俺はただ現実逃避して小屋に閉じこもりたかっただけだし、こんな危険な目にも会いたくなかっただけだ」



 ダメだ。

 もう本当に、言葉は止まらない。

 取り返しもつかない。



 「そりゃあ最初は突然自分に訪れた異能に興奮したさ!それはもうバカみたいにな!でも初っ端から選択をしくじったせいで大変な思いもした。それでもあんなバケモン相手に戦って白星をあげたんだぜ?ほとんど何もできなかった時の俺がだ!どんだけ痛かったか、どんだけ苦しかったか……それに初めて大量に流れる自分の血を見た時の恐怖……お前にはきっとわかんねえだろうよ」



 黙ってただこちらの話を聞いているリザ。

 その面持ちはどこか悲痛そうにしていながらも、真剣そのものだ。



 「みんなの為に頑張ったんだよ、俺。アレが止まった生徒を食べてたの見て、倒さなきゃって。でも結局俺がどう頑張っても、辺りを見たらボロボロの校庭だけ。誰も俺を見てくれちゃいないんだ。瑞希も悠斗もいない。あいつらはただ教室で彫像みたいに動かないまま、きっと永久を過ごすんだ」


 「みずきさんに、ゆうとさん?」



 きっと二人に宛ててノートに書いたことも伝わる日は、きっと来ないだろう。

 そう思える程に彼らからは動きだす気配が感じられなかったから。



 「家へ向かった時もそうだ。街が意味わかんない木に覆われて、それこそ異世界みたいになってた。家も容赦なくぶち抜かれてるし、人だって当たり前に動かねえ。宙に浮いてる奴だっていた」


 「――――」



 リザに、俺の経験を話すのはこれが初めてだ。



 だから今何か知るたび驚いたような顔でこっちを見るのも仕方のないこと。

 なぜ今まで話さなかったのかと問われれば、俺がなんでここに来たのかとか、色々とわからないことだらけだから彼女には話す気になれなかったからだ。

 でも一番の理由は、これもまた現実逃避。

 もう戻ってきそうもないあの日々を忘れてしまいたかったし、彼女に外への興味を抱かせたくなかったからだ。



 「ようやく帰り着いた家の中にはいるはずの母さんもいない。出かけてるのかと思いながら庭に出てみれば大きな木と……知らない女の死体」


 「知らない女の死体?」



 ここで遂にリザが口を開いた。



 「陽太くん、知らない女の死体って、どういうことです?」



 何か引っかかることでもあったのか、リザは今までにないほど真剣な表情で俺にそれを問う。

 なんだ?そこは別に大して重要な点ではないはずなのに。



 「なにって、何故か俺んちの庭で女の人が一人血を流して死んでたんだ」


 「――――ッ!」



 すると俺のその答えにリザは最悪を見たような顔を浮かべ、そしてまたも俺に質問をぶつけてくる。



 「――陽太くん。お母様は、おうちの中にはいなかったんですよね?どこに行ったかってわかりますか?」


 「どこに行ったかまでは知らないな。確かその日の朝に母さんは今日は何処へも行かないって言ってたからな。家にいるはずだったんだ」



 それを聞くとどうしてか少し震えだしたリザに俺はどうしたんだよと聞いたのだが、それを無視してリザは話を続けようとする。



 「お、お母様には、その、お庭に出るような理由とかがあったりしますか?」



 そんなに震えておいて聞いてくるのは案外どうでもいい質問だった。

 なんだ、何か良からぬことでもあったのかと思って心配したぜ。

 そこで俺は母さんの趣味の話を持ちかける。



 「母さんは家庭菜園が好きでな。よく庭で野菜見てたりしてたよ」


 「あ……あ、ああ……」



 そして遂に顔に手をやって崩れ落ちるリザ。

 先程からどうも様子がおかしい。どうしてしまったのだろうか。



 「どうして……!嫌でもそれだけ証拠が揃っているのなら……」


 「あーあもうだから!なんなんだよっ!いい加減俺にもわかるように喋れよ!」



 もう我慢の限界だった。

 いつまでもったいぶれば気が済むんだ、そう思った俺はリザに向かって怒鳴り声を上げてしまう。

 しかし、そんな俺にリザは――目に涙を浮かべながらこう言ったのだった。



 「陽太くん。おそらくお母様はもう、亡くなっていますよ」



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