第四十四話 白い世界で
滾ってきますね!
気が付くと一面真っ白の世界に僕はいた。どこだろう、ここ。辺りを見渡せどあるのは白、白、白。白一色だ。
「なあ、悠斗?」
ふと誰かの自分を呼ぶ心地良い声が聞こえた。思わず声のする方へ視線を向ける。
「――陽太!!」
するとそこにはここまでずっと求めていた親友の姿があった。思わず僕は感極まり、両目からはダムが決壊したかのように涙が溢れ出た。
「これまでどこに行ってたのさ!探したんだよ!?」
僕は彼を軽く責め立てた。少なくとも彼にはそうされる義務があると僕はそう思うんだ。なんてったってあんな雑な書き置き一つ置いていっただけの親友だ。もっと詳しく色々伝えることだって出来たろうに。しかしそんな僕の問いかけに対して彼は、
「なあ、悠斗?」
またそうやって僕を呼ぶのだ。一体何なんだろう。僕の質問を無視してまで言いたいことでもあるというのだろうか。僕は聞いてあげるのは今回だけだ、と彼の勝手を自分の中で認可し、聞き返す。
「はあ、もう。なんだい陽太?」
呆れたような僕の声に、何故か彼はやたら嬉しそうな顔をしてこう言うのだ。
「異世界って、存在すると思うか?」
「異世界?」
思いもよらない質問に思わず呆けてしまう僕だったがすぐに気を取り直して、
「いきなり何を言い出すのさ陽太」
そう質問した。はっきり言って彼が何を言いたいのか全くわからない。少なくとも久々の対面で質問してくることではないかな。全くどこまで空気が読めないんだろう。僕は内心で彼に悪態をつく。しかしそれでも彼は、
「異世界って存在すると思うか?」
そう聞いてくるのだ。先程から彼のこの態度はどうしてしまったのだろう?でもこの話を頑なに進めたいのだろうなというのはなんとなくわかったので、大人しく優しい僕は親友の質問にとことん付き合ってやることにした。
「ああ、存在しないと思うよ。陽太もわかってるだろうけど、僕は基本的に自分で見たものしか信じられない質なんだ。だからそれを信じることは出来ない」
「そっか……」
僕がそう答えると、陽太はやたら寂しそうな顔をした。あれ、ひょっとして僕は今彼を傷つけてしまっただろうか。慌てた僕は自らの言葉を取り繕う。
「あ、いや、でも僕が信じてないだけで本当にある可能性だって――」
「俺は、あると思ってる。異世界はあるって」
突然陽太は質問ではなく、語り始めた。本当に今日の陽太ってばどうしちゃったんだろう。いつもと違って全く考えが読めない。
「根拠もないのにどうして信じるのさ。何の証拠もなしにただ主張するだけっていうのはなんだか子供みたいだよ」
ふと、言葉が口を突いて出た。別に何も考えていなかったのに、だ。とうとう僕までおかしくなってしまったのだろうかと少し心配になるけど、実際にこれは僕が思っていたことだ。決してお門違いなことを言っているわけでもないので、このまま彼の返しを待ってみることにする。
「子供かもしんないなあ、確かに。なんてったって証明しようがないもんな、あんなファンタジー世界があるだなんて。剣と魔法の世界、神秘的な景色の数々、目覚める異能。んなもんそりゃあ見たこともないわな」
「そこまでわかっててなんでそんなにも信じてるのさ。変な思想に縋ってたって別に何か救われるわけでもないじゃないか。むしろ死ぬまでに一度もその姿の片鱗ですら拝めずに落胆して人生を終えるのがオチさ」
またも自然と言葉が出てくる。そう、そうだ!僕はこの時のことを覚えてる。確か陽太と話したんだ。異世界の有無について。
「うーん、なんで信じるのか、ねえー」
少し考えるような素振りを見せる陽太。が、すぐに僕と目を合わせる。そして言うんだ、それを僕はちゃんと覚えてる。陽太は――
「「だって、そっちの方が楽しいだろ?」」
そう言ったんだ。
重なった僕と陽太の声。すると陽太は少し嬉しそうな顔をしてそれから、消えた。
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「――目が覚めたみたいね。目覚めはどう?」
そこには寺嶋さんの姿があった。どうやら意識をうしなっていたらしい僕を囲むように他二人の面子が並んでいる。
「そうだね……悪くない気分だよ」
「気を失ってるはずなのに突然泣き出したからびっくりしましたよ」
「ハッ、だっせえの!」
口々にみんなが喋りだす。目元を擦ると確かにそこは濡れていて、あの夢のことを思い出す。
「異世界……かあ……」
「何言い出したんだ?お前」
僕を見る勇吾の目。それは呆れを孕んでいて、いかに自分の発言が謎めいていたのかを即座に理解する。
「ああ、ごめん。気にしなくていいんだよ別に」
とりあえず発言を霧散させる僕。そうだな……僕はあの夢を通して、あの得体の知れない奴のことを通して、当面の目標を立てていた。
「ねえ、みんな。申し訳ないんだけど……」
「なによ」
寺嶋さんが反応する。発言しやすい空気が生まれたのを確認して、僕は彼らに告げる。
「ここを出て、もといた学園へ帰ろうと思うんだ」
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