第四十一話 あ、『魔眼』忘れてた
「というわけで、初乃ちゃん達が戦闘にさらっと順応できた理由はあんまり為にならなかったから、そこらへんは忘れて話を続けよう!」
「あれ、為になりませんでしたか?」
初乃ちゃんが小首を傾ける。特徴的なツインテールが首を曲げたことで片方に寄り、肩にかかる。本当に不思議そうにする彼女が、それなら今更僕らにゲームを始めろだなんて無茶ぶりを言いそうで怖くなる。
「これからみんなで始めませんか?MMORPG!楽しいですよー!ねえ、兄さん」
別に振りではなかったんだよ!?でも本当に言うとは思わなかった。それでに対して問われた兄のほうは……?
「ふざけんな……おめえのせいで毎日どんだけ睡眠時間持ってかれたと思ってんだぁ……もう最近じゃあ画面見ただけで吐き気がし始め――」
「ほら!兄さんもこう言ってます!」
――この子には一体何が聞こえたんだろうか。お兄さんは今明らかにゲームを嫌悪しているような顔をしていたし、忌々しげに語っていたような気がするのだけど……。というか震えてるよ!とてもゲーム好きな人の反応ではないよ!
「え、遠慮しておくわ。というかその兄さんを見て尚やろうとする奴は、生粋の馬鹿だと思うわ」
寺嶋さんが言う。僕も全くもってその通りだと思うな。あの元気だった勇吾がゲームと聞いた途端萎縮し始めたんだからそれも当たり前だと思うんだけどね。するとまた勇吾が口を開く。
「それにこいつ……攻めを変わってやると――」
「兄さん!これ以上ゲームの印象を落とさないで!」
しかしそれは初乃ちゃんにより遮られる。いや、勇吾萎縮しすぎだよ!何されたの?初乃ちゃんに一体何されたの!?完全に尻に敷かれている可哀想なお兄さんに哀れみの視線を送る寺嶋さん。だが、ふとこちらを見やると、
「ってか、さっさと話を進めましょ?上のあれ倒さなきゃ放送なんてできっこないわ」
「ああ、うん、そうだね」
逸れていた話をもとに戻してくれた。感謝します。
「一応僕のスキルも言ったほうがいいのかな?二人は一つだけってことでいいの?」
僕はそう二人に問いかける。でも、これ以上スキルを持っているようなら僕って本当に役立たずになっちゃうな、と内心ひやひやしていると、
「ああ?持ってるわけねえだろ。俺でも一つしかねえんだから、一人に一つがルールに決まってらあ」
ということらしい。どうやら精神面は回復しつつあるようで、今まで通りの強い口調に戻ったみたいだ。まあ、年上の僕にこの態度っていうのはそれもそれでおかしいんだけどね。でも良かった、その言葉で何とか救われたよ。こみ上げる安堵感から僕はそっと胸をなでおろした。なんて言ったって足でまといを回避したのだから、これくらい喜んでも不思議ではないと思う。僕は少しだけ自慢げに、自分のスキルの公開を始めた。しかし、僕はここで気付くことになってしまうのだ、今まで何故か忘れていたあのことに。
「いや、それが僕は幾つか持ってて……『飛空』と『短距離移動』、『身体能力強化(中)』に、『弓術スキル(大)』。それから……『魔眼』。」
一通りのスキルをみんなに公開して、そして僕は気付く。あるいは僕以外の誰かなら余裕でわかっていたかもしれない。だが、僕は気付けなかったのだ、こんなにも簡単なことに。それは、そう――
「あああああああ!!!『魔眼』があるじゃないか!」
「んだよ、るっせえなあ」
「へえええ!?」
「うっさいわね!張り倒すわよ!?」
急に声を上げる僕に、みんなが各々の反応を取る。上から勇吾、初乃ちゃん、寺嶋さんだ。
にしても、どうして僕は気が付かなかったんだろう。僕の持つスキル『魔眼』をもってすれば相手の持つスキルなんて簡単にわかったはずなのに、完璧に僕はそのことを頭から忘却していた。馬鹿だ!馬鹿すぎる!
「っあーー……」
「どうしたんです?急に」
「いやあ、僕は救いようもなく馬鹿だなあーって」
何のわけもわからない初乃ちゃんはただきょとんとするだけだ。いやー、それならもっと早く気づけたのかな。まあ今更悔やんでもしょうがないんだけどね?
「説明を求めたいところよね。今のその謎のリアクションの理由と、それで流されちゃってるけどその山ほど持ってるスキルについて」
「んでそんな沢山あんだよ……」
すると、幾つか質問が。でもまあ、そりゃあそうだ。こんなに沢山のスキルを持ってるのはちょっとおかしいのかもしれない。というわけで、今度は僕から説明をする番だ。
「僕のスキルについてなんだけど――」
まだまだ話し合いは終わらない。
というわけで、まだ話し合いが続きます!次で……!次で終わると思うのでもう少しお付き合いください。




