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第三十七話 謎くん


 ジジッジジジ……



 目の前で謎の生命体――いや、もはや生き物なのかも判別のできない何かが、スタジオの中で揺らめいていた。



 「んだよ、こいつ」



 隣にいたガラの悪い男がボソリと言った。うん、激しく同感だよ。何なんだこれ。どれだけ目を凝らしても未だそれに実体があるのかどうかさえも掴めない。でもこれだけはわかる。こいつはきっと僕の進む道において障害と成り得る存在であると。はっきり言ってしまえば、邪魔な存在であると。



 「ちょっちょっとあなた達、男でしょ!お帰り願ってきなさいよ!」



 僕らがスタジオのやや奥に見えるソレを見て硬直していると、アイドル――いや、寺嶋さんはそう言った。でもこれはもう僕たちの手に負える問題じゃないと思うんだけど……。僕はお手上げとでも言うように両手を挙げて言う。



 「これは流石にきついよ、寺島さん。僕のスキルも飛べたりするくらいで他には特に秀でたものもないんだから」


 「なによ、使えないわね!えーっと……あなた、名前は?そういえば聞いてなかったわ」


 「お前ら、この状況でよくそんな余裕持ってられんな」



 呆れたように言う男。いや、アレを見といてそんなツッコミ入れてこれる点、そっちの方も大概だと思うんだけどな……。僕も呆れるのと同時に、そう言えばこの人の名前も知らないなということに気づく。この流れでついでに聞いておこう。僕は彼の方を向き、名前を聞こうとする。



 「ああ、ところで……」


 「あ、私も知りたいです!お名前」



 あ、僕としたことが自分の名前を言うのを忘れてた。こっちの男の方の名前が気になりすぎて頭から抜けちゃってたみたいだ。僕は思い出したように彼女らに名乗る。



 「佐野悠斗、と言います。呼び方はご自由に」



 まあ、ごくごく普通の自己紹介が出来たかな、じゃあ次はこちらから聞く番だね。そのままの流れで僕は名前を男の方にも訪ねようとしたのだけど、今度はあっちの謎君がそれを許しはしなかった。



 「じゃあ私はあなたを悠斗と呼ばせてもら……きゃあっ!」


 「んだよっ!突っ込んできたぞこいつ!」


 「見たらわかるよそれくらい!」



 あいつがこちらへ突っ込んできたことで、みんなは軽いパニックに陥る。なんて空気の読めないやつなんだ、僕が名前を聞こうとしていたのに!そして気が付けば僕らはソレを囲むような形で文字通り四散していた。こいつって、殴ったりしてダメージは入るのかな。と気になった僕はソレに対して攻撃を仕掛けることにする。何をするかは至ってシンプル。確か僕は短距離移動ショートワープというスキルを持っていたはず。それを有効活用してあれの懐に入り、一発入れてこようと思う。僕はタイミングを見極めようと、奴の動きに目を凝らす。すると、



 「おらあああっ!」



 柄悪男がソレの方へ走っていく。彼は一体何を考えてるんだ!闇雲に飛び込んでいっても意味がないに決まってるじゃないか。僕は思わず彼に待ったをかける。



 「待って!そのまま特攻したところで意味がないよ!まずは敵の様子を伺ってから……!」


 「……」



 あくまでもこちらの言うことは聞く気がないみたいで、彼はそのまま突っ込んでいく。妹の初乃ちゃんも止めようとは思わないのか!?見れば彼女は真剣な面持ちでそちらを見ているだけだ。寺嶋さんも両手で口を押さえているだけだ。きっと、誰も彼を止めることはできない。そして……



 ズンッ



 拳のめりこむ音が聞こえた。どうやら上手く攻撃がヒットしたみたいだ。安心から、僕らの緊張が緩む。しかし、



 「ぐあっ!」



 男がその体をくの字に曲げて吹き飛び、スタジオの入り口付近までの吹っ飛んだ末、転がっていく。



 「ば、ばかっ!」



 思わず僕は彼にそう叫んでいた。それは自分を過信していたのか、こちらの指示に従わなかった上に自身が傷つく結果を招いた彼にそう言いたかったのもある反面、彼が作ったチャンスを活かしきれなかった自分に対する憤りでもあった。彼が攻撃したことで目標が彼へと集中したところで僕が追撃していれば、勝てていた可能性は大いにある。だから、彼が傷ついてしまったのは僕の責任でもあるのだ。



 「くそ……っ!」



 僕は彼の方へ駆け寄ろうとする。彼の飛んでいった軌跡にはおびただしい量の血が滴り落ちていた。相当な怪我をしているに違いない。しかし、行く手には既に妹の初乃ちゃんがいた。彼の前に座り込んで何かをしているようだ。一体何を?そう疑問に思っていると、初乃ちゃんが立ち上がる。何かが終わったみたいだ。すかさず僕が彼の倒れていた方に目を向けると、そこには、



 「――いよーし、第二ラウンド。だなあ?」



 怪我一つない、ピンピンした彼がニヤリと笑いながら立っていた。


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