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第三十五話 似た者同士


 森を出てもなお相変わらずの晴天に、俺は顔を顰める。森の中では光が直接当たらなかったので、こっちの方が体感として暑く感じてしまうのは仕方のないことだろう。まあそれでもあっちはあっちでかなり蒸し暑かったんだけどさ。



 あの後俺はすぐに別のアレを三体ほど斬り捨てた。三体同時なら厳しかったかもしれないが、幸い一体ずつ現れてくれたので困ることもなく、ある程度属性剣の使用感を感じた後に引き返すことにした。本来の目的も探索というよりはそっちがメインだったので、大満足の結果だ。早くリザに見せてみたい。



 小屋の前に着いた。数時間ぶりに見る小屋の扉の温かみのある木目が、なんだか俺を出迎えてくれているようでこそばゆい。きっと中にいる女の子も暖かく出迎えてくれるだろう、そう思いながら俺は扉を開いたのだが、



 「戻ったぞー」



 ――あれ?返事がない。



 「おーい、リザー!戻ったぞー!」



 ――それでも返事はないことで、思わず緊張が走った。どうしたんだろうかと辺りを見回すが、このあまり広いとも言えない部屋においてリザが見えないわけもない。つまり、彼女はこの部屋にはいないのだ。ならばどこに行ったのだろうか……俺は少し考えて、



 「リザの部屋か?」



 そう踏んだ。そこで俺は例の件で思い入れの深い、リザの部屋の前へと向かう。あの脳が沸騰しそうなほどの甘ったるい香りは、今でも俺の海馬に刻み込まれている。しかし、その途中に俺の部屋のドアが少しばかり開いているのに気がついた。あれ?俺ってドアを開けっ放しにしてたり、鍵をかけてなかったりっていうのには結構敏感なんだけど……。気付かなかったな、リザに追い出されたからか?色々不思議だったが、結局俺はドアをきちんと閉めて再度リザの部屋の方へ向かう。



 「おーい、リザー?」



 俺はノックと同時に彼女の名前を呼ぶが、一貫して彼女からの返事はない。よしっ!あ、やべ、よしって言っちゃった。



 「入るぞ~~!!」


 ドンッ



 ん?俺が極めて落ち着きながら、嬉しさなど微塵も入っていない声で「入るぞ?」と確認したのだが、それに合わせて隣の俺の部屋からなにかの音がした。怪しいとは思ったが俺の部屋にリザがいるとも思えないのでここは気にしないようにしておく。



 あ、それと言っておくが俺はこの状況を決して楽しんではいない。これは、リザの行方を知るために必要不可欠なものであって、俺は仕方なくこれからこの扉を開けるのだ。決して、決して嬉しくなんてない。そのことだけは忘れないで欲しい。――んじゃっ!いっきまーーす!!



 そして遂に、ドアは開かれた。



 ガチャッ



 「な、ななな何をしてるんですか!」


 「おおう!?」



 しかし、開かれたのは俺の目の前のドアではなく俺の部屋の方で、その上現れたのは俺の探していたリザその人だった。え、てか待ってなんでリザが俺の部屋から!?



 「いや、リザこそなんで俺の部屋にいんだよ!」


 「さ、最初に聞いたのは私のはずです!」



 え、えええ?俺が悪いのかなこれ……でも俺まだ未遂だし、そんなに怒られるほどのことでもないと思うんだが……。



 「いや、普通に帰ってきたらリザがいなかったからさ、そりゃあ探すだろ?」


 「いえ、先程からある程度は聞いていたのでなんとなくそれはわかりますけど……」


 「じゃあなんで聞いたんだ!?」



 だめだ、リザが何を考えているのかが全くわからない。でも、一つだけ分かることがある。それは……



 「ねえ、リザは何をそんなに恥ずかしがってんの?」



 リザが何かをやたら恥ずかしがってるってことだ。この顔の赤さは……そうだ、全裸を俺に見られた時以来の赤さ。つまり今リザはそれと同等、もしくはそれ以上の何かを抱えているということ……それは気になっちゃうなあ!



 「そ、そんな!別に陽太くんの部屋の臭いを嗅いでたわけではっ」


 「ないのかあー」


 「はい、断じてないです!」



 安心したのか、赤らめた頬が少しだけ元の白を取り戻す。いや、この子すっごい墓穴掘ってんだけど!何?俺の部屋の匂い嗅いでたの?なんだかシンパシーを感じるぜ……。ま、面白そうだし、俺の部屋に勝手に立ち入った罰も含めてここはまあちょっとからかってみるか。俺の中の良心さんは留守なので、好きにさせてもらう。



 「そうかあー、でも正直俺臭うからなー。むしろ嗅がないほうが良かったと思うよ」


 「そんなことないです、陽太くんは臭くなんてありません!」


 「って言われてもなあ……」


 「現に、さっき思いっきり陽太くんの部屋で深呼吸をしてきましたが、むしろ男の子らしいいい香りがしました!」


 「はあー、男らしいいい香りがしてたのかー、俺の部屋」


 「そうでした。だから気にする必要なんてないんですよっ」



 ボロが出たな。出まくったな。きっとリザならその持ち前の優しさでフォローに入るだろうと考えての自虐誘導だったが、ここまでクリティカルヒットするとは思わなかった。はあ……世界にはこんな簡単な子が他にいるだろうか。お兄さん、将来が心配です。俺はリザに気付かせてやる。



 「嗅いでるじゃんか。嗅ぎ倒した末に深呼吸までしてるじゃんか」


 「――はっ!」



 リザは自分の失態に今更気づいたようで、素っ頓狂な声を上げた後その顔はみるみる朱に染まっていく。ああ、赤い赤い。マジでりんごそのものだぜ。



 「ひ、陽太くん騙しましたね!考えられません!」


 「だからなんで俺が怒られてんのさ!」

 


 俺も過去に前科があるけども、今咎められるのはリザのはずだ!なんで俺が――



 「レベル吸収ドレイン……ッ!」


 「わっ!ばか、ちょっと待て!」



 結局俺が一息つけたのは、もう少し先の話になってしまうのだった。


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