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第三十三話 アイドルって怖い


 「アイドルだかなんだか知らねえけどよぉ、どけやお前!」


 「あんたこそスタジオぶち破ってまで何がしたいのかと思ったら……スタジオを使わせろ?関係者でもないお前なんかに安々と使わせるわけないでしょう!あんまり私を舐めないで貰えるかしら、この脳筋!」



 やあ、僕の名前は佐野悠斗。現在僕は、いなくなった友達を探して首都のテレビ局まで来ているんだけど、いざ地下一階から一階へ向かおうとして乗り込んだエレベーターが開くと、早速この光景だったんだ。うん、何なの?何見せられてるの?これ。


 「――あぁ?脳筋だぁ?てめえみたいにへらへらしてるような奴よりはよっぽど頭が出来てると自覚してるぜ」


 「あーら残念!私が天に授かったのがこの美貌だけだとでも思ったの?私はアイドルにして学業も優秀。某有名大学に通うかたわら全国のみんなにも幸せを振り撒いてあげている、言わば女神がこの世に顕現したかのような……そんな存在なの!あなたのようなグズと同等にしないで欲しいわっ」


 「んだとっ!!」


 「兄さん!落ち着いて!」



 いつ暴力沙汰になってもおかしくないほどに白熱する口論。その激しさに打ち消されて気付けていなかったんだけど、どうやらあの中にもう一人いるみたいだ。あれは……女の子だ。あのガラの悪い男を兄さんと呼んでいるあたりから察するに兄妹なんだろうけど、それでも確証が持てない程にその二人は似ていない。



 一方はただただ無機質な黒髪、いや、漆黒の髪に服越しでもわかるゴツゴツした肉体に、ギラギラとした眼光をチラつかせており、もう一方は透き通るような白い髪を持ち、きめ細やかな肌に、比較的ほっそりとした身体。こんなにも対照的な二人をどう見たら兄弟に見えると言うんだろう。



 「初乃はつの、そもそもお前がこいつの放送見て言い出したんだろーが。親父やババアにもわかるように俺たちもって」


 「そ、それはゆったけど、そんな強引にするつもりはなかったの!」



 彼らの大きな声は何の滞りもなく僕に直接伝わって来る。うーん、なるほど。大体の事情は掴めてきたんだけど、それにしても彼らはいつになったらこっちに気付いてくれるんだろう?いい加減流石の僕も寂しくなってきているんだけど……。



 「っていうかそこのお前、早く出てこいよ。何してんだそこで」



 と、不意に僕はそのガラの悪い方に呼ばれた。どうやら男の方には気付いてもらえてたみたい。良かった~。僕は彼の言う通りに大人しくエレベーターから身を出して、彼らの輪の方へと向かう。



 「あ、あ、あー!どうも、私、アイドルをやってます!寺嶋茉依って言います!ひょっとして知っててくれたりします?」



 すると、こちらへと駆け寄ってくるアイドルが一人。うわー、切り替えが凄いなあ。これはもう関心できるレベルだと思うよ。この媚びてくるような上目遣い、さっきまでの会話を僕が聞いていたなんてことは念頭にも置いてないんだろうなー。味方を多くつけるのは利口なことだと思うし、それに案外こういう表と裏が上手に使えてこそ真のアイドルなのかもしれないし、ここはあまり深く追求しないほうが良いのかも。そこで僕は彼の本当の顔を知っていながらも、ことを円滑に進めることにした。



 「もちろん知ってるよ!茉依ちゃんって言ったら有名だからね。むしろ知らない人なんていないんじゃないかな?」


 「そ、そんなことないですよ!現にぃ、あの男の人は私に向かっていっぱい意地悪を言うんですよー?ホントに意味わかんないんですよ!迷惑させられてるんです!」


 「――――――」


 進めようとしたのだけど、早々に彼女は男の排除に繰り出したいようだ。本当なら今しがた味方につけた予定の僕と一緒に男と正面衝突させる予定だったのだろう。でも君の本当の顔を知っていようがいまいが僕にこの子の手筈通りに動く気はまるでない。あくまでも僕の目標は陽太なんだから。だからもう、穏便にいく必要も――



 「いい加減にしてよ!」



 ――しかし僕の思考は白髪の少女によって遮られる。それは僕だけというわけではなく、この場における全員がそうだった。



 明らかに憤っている少女の表情に、アイドルはさっきまでの余裕な表情とは打って変わり、張り詰めていて、男は目を見開き、そして僕はただ突っ立っているだけだ。



 「兄さんは確かに怒りっぽいし少し乱暴なところもあるけど、それでも根っこではパパやママが心配で堪らなかった私を何とか励まそうと頑張ってくれる、優しい兄です!だから……寺嶋さん、そんな悪い風に、目の敵にしないで下さい」


 「うっ……た、確かに私も悪かったかも。だから、その……ごめん」



 訴えかけるような目で、一生懸命に紡ぐ彼女の言葉にアイドルもここは折れたようだ。最後の方は聞こえづらかったが気持ちは伝わっただろう。彼女も……初乃って言ったっけ?その子も満足そうだ。ちなみに男の方は……



 「――ハッ、いい気味だぜ」


 「聞こえてるわよあんた!!」



 まだやる気まんまんのようだった。


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